王宮異変 後日談その4
俺達はそのまま、行列組んで入場するものとばかり思ってた。
入場ゲートを前にして、案内役の兵に止められた。
「ここで一旦お待ちいただきます。……はい、予定通りに。はい、了解しました。……アラタ殿はお時間を頂きます。まずは……ライム殿、中へ」
「ライムダケ? ミンナハ?」
「まずは、ライム殿、どうぞその門をおくぐり下さい。中の係の者が席まで案内しますので。何の心配もいりません」
残念なことに、この兵の言うことに嘘がねぇ。
「ライム、行ってこい。でないと事が進まねぇ」
「……ウン、ワカッタ。ナニカアッタラカケツケルカラネ?」
「あぁ」
何やら場内で歓声が沸いている……のか?
いや、場内からは恐れの感情が感じ取れる。
多分ライムを見ての事だろう。
暴動が起きるってんなら構わんぜ?
まずは傍にいるこいつを殴り飛ばして中に駆けこむ。
ライムと合流したらすぐに俺の体に纏わりついてもらってここに戻ってここから脱出。
問題はないはずだ。
が……。
ライムが戻ってこないってのが問題だ。
……もっとも、その感情も収まったようだが。
「……了解です。テンちゃん……さん」
「さん、いらないよ? それよりライム、どうなったの?」
「え、えぇっと、テンちゃん……コホン。どうぞ中へ」
「え? 今度はアラタと一緒じゃないの?」
「テンちゃんお一人で大丈夫です」
ゲートの向こう側に消えていったテンちゃん。
そしてしばらくして感じ取れる、場内からの怯えの感情。
間違いなくテンちゃんを見た来場者からのものだな。
そして次に呼ばれたのはマッキー。
次はモーナー。
さらに、クリマーとゴーアが同時に場内に入っていった。
ミアーノ、ンーゴ、そしてサミー、コーティと一人ずつ呼ばれて入っていく。
コーティだけは歓迎されてるような感情が湧いたが、ほとんどがみんなを嫌うような感情が感じ取れた。
もっともその感情は、感じ取れてからすぐに消えたようだ。
いずれも、何やらシアンが演説した直後だったが。
「ではヨウミさん、中へ」
「うん……行ってくるね」
「今生の別れのような言い方してんじゃねぇよ」
笑いながら受け流してヨウミは場内に入って行った。
にしても、確かにシアンの奴、何か喋ってんだがなぁ。
よく聞こえねぇんだよな。
それに、入場したあいつらは、なんか気持ちが安定してるっぽい感じだし……。
「アラタさん。どうぞ、中へ」
「え? あ、俺の番か。って、俺しかいねぇから当然か」
……しまった。
マイクみたいなのを、どうやったら手にできるか考えてなかった。
※※※※※ ※※※※※
「彼の者は、父親である先代の王と、国教である慈勇教の大司祭によって、旗手として召喚された一人である!しかし先の報告のように、召喚した直後から差別を受け、謂れのない理由で犯罪者扱いされてしまった。前王を拘束、軟禁状態にしたのは、このままでは王家、王族は国民から信を得られないこと、そしてなにより人道上してはならないことを何のためらいもなく行ったためである!」
は?
俺が入場した途端、シアンの奴がマイクか何かを使ってそんなことを言い始めた。
その場内の地形は、どでかい楕円形。
客席はすり鉢状になっていた。
陸上競技とかサッカー場のような感じか?
シアンから見たら、縦長ってことだよな。
高さの一で言えば、その真ん中あたり。
所々に巨大なスクリーンが置いてあって、シアンの演説の様子がどの席からでもよく見えてそうだ。
そんな場内隅々に行き渡る音量。
いや、その声のでかさよりも……いきなりあいつ、何言いやがる?!
「それくらいのことをしてからでないと、この非例の詫びは受け入れてもらえないだろう、と判断した。もちろんそれでも受け入れてもらえないことも考えた。そして、それでも彼の者は、人の道から外れるどころか、この国の民から受け入れられなかった彼らに救いの手を差し伸べ、訪れた先々で目の当たりにした問題を解決のために彼らとともに取り組んでこられた。その人柄にほれ込み、私もまた、彼らの仲間になることを決めた!」
……俺が、あいつらに何かしてやろうってことより、このスピーチの方が間違いなく効率が……。
……そうか。
やられた。
してやられた。
シアンの奴、俺の思考を読んでやがったか?
そういうことだったか。
あいつらのことを一人ずつ、こんな紹介めいたことを言い続けてたのか。
これなら俺がどうこうするより、あいつら、市民権得やすくなるよな。
でもよぉ……つぅか……。
こんな言われ方したらさぁ……。
俺、気まぐれな行動しづらくならねぇか?
例えば転職したりとか……。
まぁ……いいけどよ……。
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