集団戦の人気がおにぎりを上回る その5

 この十日間……いや、もっと長かったか?

 シアンは一日おきか二日おき、そんな感じで定期的にやってくるようになった。

 その間、親衛隊も全員二回くらい集団戦をこなしている。

 予約自体はかなり前に申し込みに来ていたが。


「それにしても、で……シアンは大分ストレスが解消されてきてるようだな」

「アラタのおかげだ。感謝する」

「あーそーですかはいはい」


 訓練が終わって終了手続きを済ませながら、一言二言こんな話をしてくる。

 親衛隊とはそんなに頻繁に会ってはいないのだが、その割には距離感が随分縮まってるように思われてるな。

 いつの間にか、殿ってつけて呼んでた敬称も消えてるし。

 で、その雑談を適当に流す。

 周りから何の話かと執拗に聞かれるのも面倒だしな。


「んじゃお祝い金どうぞ。って、そろそろ訓練受付、一時休止する方がいいか?」

「え?」

「おい、次俺らの番なのにっ」

「おいおい。行列乱さないように、順番待ちも我慢してたのにいきなりそりゃねぇだろう?」


 暴動が起きかねない。

 だが考えてもみろよ。

 こんなことがあった。


 ※


「フィールドとダンジョン二か所で集団戦してんだよな?」

「あぁ、それが?」

「例えば、どっちも三人ずつ相手に出してるなら、三人暇してんだよな?」

「まぁ、そうだな」

「どっか空いてる場所で、暇してる三人に集団戦申し込みたいんだが。そうすると待ち時間もさらに減るんじゃね?」


 最初の内は一組のチームが何日かにわたって、合宿めいた訓練をしていた。

 だがすぐにでも力をつけたい初級冒険者達に、なかなか順番が回ってこない。

 どちらかと言えば、彼らの育成が目的だったのが、中堅ベテランの申し込みが多くなっていた。

 本末転倒だ。

 そこで申し込みは一日限定にすることにした。

 で、この冒険者からの進言。

 一日二組しか受け付けられなかったのが三組になり、さらに……。


「半日でも、俺達には十分だよなぁ」

「丸一日だと、訓練が終わった後何日間かへたばってるやつもいるって聞いたし……」

「ベテランでも、それなりに力加減を調節するから意外としんどいんだよな」


 ということで、一日単位が半日単位になって、一日六組を相手にすることが多くなった。

 つまり、一日の申し込みが六組なら、待ち遠しく思われることはない。

 が、二十組くらい申し込みが来る。

 スケジュールがひと月も埋まるようになっちまった。

 支払いできるはずの料金も、そのひと月の間に別の用途で手持ちがなくなるってのは、特に初級冒険者チームにありがちな話だ。

 まぁ業種経歴関係なく……俺もそんな経験あったしな。


 ※


「つーことで、打ち切りっつー話じゃねぇよ。受付から訓練開始までの時間差をなくしたいだけだっての」

「なんだ、そういうことか」

「じゃあ予約が入った全部を消化したら……」


 言わずもがな。


「当然受け付け再開するさ。受付業務の長期休暇ってとこだな」


 荒々しくなりかけた雰囲気は収まった。

 早とちりしすぎだっての!

 つっても、それだけ集団戦訓練は冒険者の誰にとっても必要で、価値があって、終わってほしくない事業ってことだよな。

 終ってほしくないコンテンツ……って、略したらどうなるんだろうな?


 ※※※※※ ※※※※※


「こっちは楽しいけどね」

「休みがなくても平気かも」

「ニチーム、アイテニシテモ、ヘイキダヨ?」

「オレハ、ミッツアイテデモ、ヘイキ」

「俺もだなあ」

「ンーゴとモーナー、体力有り余ってるもんね。あたしは小柄だから大変よぉ。サミーもよねぇ」

「ミッ」

「しんどくなる前に、自慢の雷撃ぶっ放して無理やり終わらそうとするの、なんだか相手が可哀想な気がしなくも……」


 つまり、一番しんどいのは受け付け業務かもな。


「ところでさー。シアン達が来ない日って……意外と静かだよね」


 ヨウミの感覚がおかしくなってる。

 こんな賑やかの、どこを見て静かさを感じるというのか。


「次にあいつらが来るのは明後日っつってたな」

「賑やかなんは、おりゃあ好きだな。話し合いにゃ何の進展もねぇっぽいけどよ」


 ミアーノの言う通り、軍の訓練計画の話は一向に進まない。

 つか、無理やりこいつらを起用する必要もないと思うんだが。

 魔物達と大勢生活している集団は珍しいって話は聞いたが、ゼロじゃないってことだよな。

 そいつらに頼めばいいのに。

 おそらく軍が常駐しているのは首都だろう。

 ここって、首都から一番遠い村なんじゃねぇの?

 少なくとも、ほかのそんな集団はここよりも首都に近い所にいるだろうし、そっちに頼みゃいいのにな。

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