集団戦の人気がおにぎりを上回る その2

 翌日の晩飯タイムにシアンが再来。

 日中だと、ゆっくり話をできないから、だと。

 こいつ、自分で自分の立場のこと分かってねぇのか?

 そんなこと、ここに来る前から分かってたことだろうに。

 それに、こいつにも都合はあるだろうが、俺は別に立ち入り禁止を命じてるわけじゃねぇ。

 依頼じゃなく相談事なら、最初から、この時間、この場所に来りゃよかっただけのことだったんだよ。

 けどな。

 まぁ……事情は分かるけどよ……。


「……シアンばかりじゃなく、親衛隊も一緒ってなぁ……。そっちはシアンのほかに五人……。とはいえ、こんな大人数が集まれるとこって、ほんと、ここしかねぇんだよな。感謝しろよ? シアンさんよぉ……」


 親衛隊は五人。

 非番の隊員はいるのかどうか。

 ま、そこら辺の事情までは詳しく知る気はない。

 そいつらは俺らの車座の中に入らず、車座の中にいるシアンの後ろを囲むように座ってる。

 全員の顔は最低二回は見ているが、黒髪ロングのストレートのルーミラの顔を初めて見た。

 フルフェイスの兜に収まり切れないヘアスタイルだけは知ってたが。


「私の知らない所で親衛隊も世話になってたようで」

「非番の時に来てるってんだから、お前が知らないことがあるのもしょーがあんめぇよ」

「いや、世話になってる以上礼を」

「そこまでいらねぇだろ。自由時間に自由なことをしてるだけ。それが仕事に役立たせる目的ってんだから殊勝じゃねぇか。それより……ま、今ならじっくり話を聞いてやらんでもねぇけどよ。俺らは御覧の通り、これから晩飯だ。飯食いながら聞いてもいいんならこっちゃ構わねぇよ?」

「あぁ。それは構わない」


 シアン達は既に晩飯を済ませてきたという。

 だからその辺は互いに気遣い無用っぽいな。


「……訓練の相手をしてもらってそれで何の効果もなかったら、私も気付かなかった。普段からの警戒などの様子が明らかに変わったのが分かった。問い質してみたら、アラタのところで世話になってると聞いてな……」


 隊長のサミーラの顔がやや赤くなってる。

 バレて恥ずかしい、といったところだな。


「それにしてもよ、軍事訓練の依頼たぁなぁ。軍拡でも考えてるのか?」

「軍拡というより軍事強化だな。対人なら互いに練習相手を務めさせればいい。けど魔物相手だと、行動の違い、習性なんかもある」


 こいつ……普通に喋ってるが……。


「……お前、何焦ってんだ?」

「え?」


 シアンに焦りが感じられる。

 普段何をしてるか分からんが、それはシアンが国王代理になる前も同じだ。

 国のトップが俺に関わる以外の仕事は何をしてたか。

 全然知らん。

 情報が入ってこなかったし、知る気もなかったから当たり前か。

 だが国民はどうか。

 国民も知らないのなら、王子は自分の父親を幽閉して何をしようとしてるのか理解できないはずだ。


「せめて自分のしでかしたことを国民に理解してもらうため……じゃないな。国王に成り代わって、よりよい国造り……世界作りか? それを示そうとしている、か」


 半分あてずっぽう。

 さて、答え合わせの結果はどう出る?


「……流石アラタだな。ご明察だ。父上は世界征服……制圧……支配、か。それを求めていた。威厳を示すつもりだったんだろう」


 それは以前に聞いた話。

 旗手召喚を始めたのは、その足掛かりの結果って話だったな。


「国民たちのほとんどはその指針を歓迎した。それはそうだろう。我が国が世界で一番偉大だ、と示すことができるんだからな。だがそれは他国からの反発を食らうことになる」

「内面はいい顔して、他国には脅しをかける。他国にゃいい迷惑だ」

「いくら国土が世界で一番広いといっても、二番目と三番目を合わせた広さには敵わないし、全世界が手を組めば、我が国はいずれは滅ぶ」


 ……世界地図、まだ見たことねぇな。

 興味ねぇけど。

 こっちの世界に来てまで他国の言語の勉強なんて勘弁してほしいもんだ。


「世界が平和になることは、誰もが望んでいるし、それは我が国民も例外なく望んではいるがな」

「矛盾してるような気がしなくもないが……で?」

「世界平和のために我が国が積極的に活動したところで、国民からの評価は得づらい。分かりやすいのは、国民の日常でも見られる国の活動や組織の変化を見せつけることだ」

「それで軍事訓練を?」

「あぁ。目的は……泉、雪崩現象の魔物達を旗手の力なしで短時間で殲滅させることができるほどに増強することなんだが」


 たしか、旗手の前身である勇者はこの国から選出してどうのって話だったよな。

 つまり……。


「自国の力でその現象に立ち向かう、ってことか。自分のことは自分でするっていう姿勢は悪くねぇんじゃねぇの?」

「お褒めにいただき光栄だ。だがそれは、結果どころかまだ計画の段階だ。適当な訓練の相手がいなくてな」


 そこで俺らに頼りに来たってことか。


「どうだろう? 頼みを聞いてもらえないだろうか?」


 ……日中は突然の用件だったし何より突然の来店だ。

 突っぱねることしかできなかったが、ただの思い付きの計画ではなく、理由もそれなりに意義があるものだ。

 答えは当然……。

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