仲間達の新たな活動 6

 確かこの世界にも奴隷制度はあったよな。

 けど確か、犯罪者に与える刑罰の一つって話だったはず。

 しかし言われてみれば、その制度を受ける者たち同様、確かにタダ働きを強いている。

 あいつらはモノじゃない。

 その思いは今もしっかりある……はずだったのに。


「でもさ、その特訓にはアラタは関係ないじゃない? 関係ない話にアラタはしゃしゃり出るつもりはないんでしょ?」

「そりゃあ……もちろんそうだ。あいつらは俺の奴隷でも召使でも……部下でもねぇし」


 そうだ。

 仲間だ。

 だからこそ、あいつらの意思を尊重するし、あいつらが負わなければならない責任を俺が背負うつもりもない。

 だから、あいつらへの報酬の件はあいつらに任せるし、あいつらが自分の希望を相手に伝えて、当事者同士で決めるべきことだ。

 ……俺のこの方針には……どこも間違いはないはずだ。

 よな?


「ならその交渉は、そいつらとテンちゃん達だけで話し合って、アラタとヨウミちゃんは関わってないのか」

「うん。アラタってば、区別つけたがるのは知ってるでしょ? 余計なことに首を突っ込みたがることもないし」


 そうなんだよな。

 首突っ込みたくないし、なるべくトラブルは避けてきたけれど、なぜかトラブルが向こうからやってくることが多かったよなあ。


 ※※※※※ ※※※※※


「え? 手当?」

「あぁ、報酬の事ですね? 訓練に参加した日当は、一人一万円いただくことにしました」


 訓練が終わった後、店の前に全員が揃う。

 新人達だけが息切れしかできず、かがんでたり地面に横になってたり。


「引率の冒険者って、ジャング達だったんかよ」

「ただ働きさせてんじゃねぇかって、みんなで心配してたんだよ」

「んなわきゃあるか。こいつらの特訓ってこともあるが、社会勉強も兼ねてんだよ。何やるにしても金はかかる。ここではこれくらい、この品は大体これくらいが相場、ってな」


 あ、そういうことまで考えてたのか。

 まぁ……まぁ、いいんじゃね?


「けど、アラタの仲間達の方がつれぇんじゃねぇの?」

「辛い? 何が?」

「いや、新人とは言え、戦闘訓練だろ? 怪我とかしちまったら日当じゃ治療できねぇんじゃねぇの?」

「怪我? するのか?」

「え?」


 するのか? って、そりゃ怪我するんじゃねぇの?


「一番ひ弱そうに見えるクリマーさんだって、体を変化させればなかなか怪我にならないし、マッキーさんにコーティさんにサミーちゃんは、そもそもなかなか見つけられねぇし」

「あ……なるほど。モーナーも……まともに斬りかかりに行っても怪我しそうにないな」

「うん、怪我したことはないぞお」


 マジかよモーナー。

 丈夫そうに見えるんだが、実際丈夫だったんだな。


「ライムモ、キラレテモヘイキダヨ」


 だろうな。

 自分で自分の体切ったり爆発させたりするくらいだしな。


「そのうち、俺達も相手してもらおうかなって考えててな。ひょっとしたらこいつらを相手にするより受けるダメージが大きいと思うから、一人二万くらいでお願いするつもりなんだが……」


 すまん。

 相場、分からん。

 俺もだろうしこいつらもだろうし……。


「今は適当に決めといて、あとで値段表とかしっかり決めていけばいいんじゃない?」

「マッキーさんに賛成。新人、それなりの人達、熟練者くらいに分けて……」

「でも新人さん達は、あたし達に支払う手当払えないんじゃないかなあ」

「テンちゃん考えすぎ。払えなきゃダンジョンとかでアイテム拾いして売ればいいだけじゃない」


 ふむ。

 俺がいなくても、あいつらだけで話をいろいろと進められてるじゃねぇか。

 いい傾向だ。


「ってことは、俺達も相手してくれるつもりでいるってことでいいよな?!」

「あたし達もその訓練申し込みたいんだけど、いいよね?!」

「え? えっと、そこまでは……」

「今回は、ちょっと片手間で、みたいな感じだったんで……」


 この冒険者ら、何をそんなに焦ってんだか。

 ま、いろいろ事情はあって、それを俺が知らないだけなんだろうがな。

 その交渉云々も俺が出張れる話じゃないし、俺には俺の仕事がある。

 なんせこないだの閉店騒ぎで、おにぎりのストックが尽きかけてる。

 品切れだけは避けたいしな。

 さて……と、ズボンのすそが引っ張られる感触が。


「アラタ、アラタ」


 なんだ、ライムか。

 珍しいな。

 ライムが俺に絡むときは、いつも俺の方に寄り付いてくるってのに、こっちに来い、みたいなアクションをとるのは。


「オコメ、トリニイカナクテイイ?」

「あ? あぁ、収穫のことか。あぁ、それもしなきゃな。おにぎりだけじゃなく、米のストックも少なくなってるしな」

「ンジャイマイカナイ? テンチャンモライムモカラダアイテルカラ」


 ライムも気が利くようになってきたな。

 これも成長ってやつか。

 成長する姿は頼もしいが、それが仕事にも生かせられるようになるならこっちも助かる。


「じゃあ頼むかな。けど、だからといって量は特別多くするつもりはねぇから。普段通りで頼むわ」

「ウン。ジャアテンチャンヨンデクル。テンチャーン、オシゴトアルヨー」

「んー? お仕事―? あ、本業の方ね。じゃあ米袋と、洗米用のバケツも持って行かなきゃね。じゃ訓練の料金のお話の進行はみんなに任せるから。進めてもらって構わないからねー」

「あぁ、いってらっしゃい。ライムもお疲れー」

「はい。こっちはこっちで進めときますね」

「気ぃ付けて行ってきなよー。アラター、二人とも少しは疲れてるから、あんたもしっかり面倒見ときなさいよー」


 俺に好きと言った奴が言う言葉とも思えんが。

 まぁいいか。

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