千里を走るのは、悪事だけじゃない その2
「まさに、私達の作ってる雑誌の主旨とマッチしてるじゃないですか! 私、感動しました!」
雑誌記者レワーの取材を受けた理由は、ファンクラブがどうの、珍しい魔物がどうのなどと騒がれてうんざりしてたから。
真っ当な雑誌を見せられた。
流行を追う内容じゃなく、先ずは冒険者達の身の安全性を高めてくれそうな記事が満載。
その雑誌に載る記事にしてくれるなら、仕事の邪魔になるような客は減るだろうっていう目論見と、自分こ初志貫徹を言い聞かせられそうな気がしたから。
そうでなければ、取材を受ける気は全くなかった。
「確かに、養成所卒業したばかりの冒険者達は、その懐事情は厳しいですもんね。そんな人達の心強い味方ですね! あ、私がこの店のこと知る前から営業してるんでしたね。なんか変な目線ですいません」
なんか、久々にまともな人と会話したような気がする。
コミュニケーション押しつけてくる連中ばかりだったからなあ。
あ、まともな人なら、イールがいたか。
「ま、必要としてる人がいるかぎりは続けていくつもりですがね。それに俺がおにぎり作れなくなったらただの飯屋になる。今ほど人気は出やしねえし、有り難がる奴もいねえな」
「え? アラタさんの代限りなんですか? 他の人でもおにぎり作れますよね?」
おにぎりに回復効果があるのは、旗手として召喚された際に持てた能力のおかげ。
けどそこまで話を広げたら、雑誌の取材どころじゃなくなるよなぁ。
「だが今じゃ、いろんな奴が常連になってる。作ってる物がどんな客層からも求められてるってのは予想外だったな」
「いいこと……とは一概には言えませんね。ベテラン冒険者の客ばかりしかいないお店に、初級冒険者が入って行くって、恐れ多くて行けない気持ちもあるでしょうから。そんなこと言ってる場合じゃないんでしょうけどね」
ま、そっから先は利用者の思い次第だ。
手取り足取りで店の案内しなきゃならんのなら、そいつの今後の冒険者人生なんてたかが知れてる。
若いなら人生プランを考え直すのも悪くなかろ?
「それにしても、初級だからといって、特に思い入れがあるわけじゃないんですね、アラタさんって」
「思い入れ?」
「えぇ。初級だから、場数ふんで経験積んで慣れるまで見守ろうとか、成長するために必要な物を用意するとか、そんなことはされないんですね」
いや、そりゃもう保護者の役目でしょ。
そこまで責任持てんよ。
「初心者が成長するのにおあつらえのダンジョンがあるって聞いたから、俺の行商と組み合わさったらそんなことができるんじゃねぇかって思っただけだったからなぁ。だから俺のおにぎりは必要ねぇって言う奴には押し付ける気はねぇし、初心者じゃなくても欲しい奴には売るし。……ま、だいたいこんなとこだな。それ以外を目当てにする客はいなくなるような記事になってくれると有り難いかな」
「ファンクラブ云々の件ですね? 最初にも言った通り、そんなのとは無縁ですからご安心を。晩ご飯ごちそうさまでした」
「おい。ご馳走した覚えはねぇし、先に自分で支払ったじゃねぇか」
「あ、そうでした」
リアルにテヘペロする奴初めて見た。
別に可愛いとも思わんが。
初級冒険者への支援活動の一環、という目的の取材であって、この店の特集を組む目的ではない、ということから、ヨウミ達への取材はなし。
もっとも他の仲間の話もしなかったわけだから、話題にも上がらず。
粗方話が終わったところで、レワーはドーセンの宿に帰っていった。
※※※※※ ※※※※※
記事に掲載する前の段階で、取材の内容の確認ということで郵便物が届いた。
おにぎりの店への郵便物は、これが最初だったんだな。
問題なしという返事を書いて送り返した。
「あたし達も取材受けたかったなー」
よりにもよってテンちゃんから。
お前はバイト先で、発声禁止されてただろ。
「おにぎりの話なら、あたしらの出番はないに決まってるでしょ」
口調は普段とは変わらないが、今回のコーティの発言は的確だ。
そんなこんなで一週間くらい経ったか。
もっともこっちじゃ、週のカウントの風習はないらしい。
そこら辺は、何となく不便に感じる。
それはともかく、雑誌に掲載されたということで、その雑誌の最新号が送られてきた。
が、客はあまり読んでないらしい。
並ぶ客の大部分は、それに目を通す必要を感じない中堅からベテランのレベルだから。
「取材の謝礼はもらったんだし、不満は別にねぇけどよ」
「あたし達、も少し注目されるかと思ったんだけどなぁ」
「マッキーさん。注目浴びても売上金が上がるわけじゃないから……」
クリマー、意外と現実見てるのな。
といっても、現実の厳しさを知ってる一人でもあるから当然か。
だが俺はさほど気にしてない。
店の前に列をなす客が買い物をしたきゃ、品物を出して会計を求めるだけだからな。
てなことで、雑誌に載ったあとも、その前と変わらず、淡々と店の営業をこなす日々が続いてた。
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