王族の欲 王子の告白 その5

 身内の恥を晒すってのは、勇気がいることだし、それを省みて我が振り直す気持ちがあってこそなんだろう。

 けどなぁ。

 ……シアンにゃ悪いが……正直なところ……。

 だからどうした?

 って感じなんだわ。


「……何?」

「いや、だから、せっかくの長い時間かけて、しかも意を決しての話聞かせてもらったが、聞かせた相手には特に何の関係もないんだが?」

「関係……って……大ありだろう? 何を……言ってるんだアラタは」


 今のこいつの顔、ハトが豆鉄砲食らったようとしかいいようがないな。


「まずな、俺は旗手やりたくない。やらない。振り回されたくない。分かるよな?」

「それは私が最初に会った時には既に」

「それに、あいつら、召喚された連中に支度金とか渡してたみたいだったぞ? 旗手を言いように使い回して使い潰す気なら、支度金だって用意してねぇだろ。ま、俺には用意されてなかったけどな」


 皮肉の一つくらいこぼしてもバチは当たらんだろ。


「それに、褒賞なんかも用意してるんだろ? 働いた分だけ報われるってのは、正当な雇用とも言えるんじゃねぇの? どんなつもりで何をしたかってのも大事だろうよ。でもされる側が正当な扱いをされてるかどうかってのも大事なんじゃねぇの? 裏でどんなことを考えてるか知らねぇけど、任務が完了したら強制的に帰還されるとしたら、魔物討伐以外のことをさせようったってできるわけがねぇと思うんだが?」

「そ……それは、そうなんだが……」

「お前の話は、いわばこの国の歴史の一部だな。あいつらが頼まれたことは、現象の魔物の討伐であって、歴史の勉強じゃねぇだろ? 仕事した。その分の報酬もらった。仕事終わった。自分の世界に帰る。それでもう十分じゃねぇの?」


 シアンの思っている問題は、日本大王国のみに限った話だ。

 旗手や俺に聞かせたところで、どうにかなる問題じゃねぇ。

 おそらくこいつの考えてることは、これまでの王族のそんな企みを赦してもらいたいってとこなんだろうが、赦しを与えられる立場じゃねぇんだよな。

 大体、シアンの責任問題じゃねぇし。

 気にしすぎ、一人でいろいろ背負い込みすぎ。

 気にするな、と声をかけてもらえる立場だよな。

 けど、俺が言うこっちゃねぇような気もする。

 だが……。

 じゃあ誰がこいつに、何を言ってやれる?

 魔物討伐している旗手達か?

 無理だろ。

 あいつらは、シアンが知った事情を知らない。

 事情を知らない者が何かを言えるわけがない。

 親衛隊か?

 自分に仕える者達が何か言葉をかけたとして、シアンの重荷を軽くできるはずもねぇよな。

 あとは……母親か?

 けど、結局は親子だ。

 子供がどんな目に遭っても行動はどうあれ、親はおそらく、子供を無償で支えたり守ったりすることになる。

 子供の立場がどのようになってもな。

 こいつの求めているものは、そんなものじゃない。

 慰めてもらいたいって気持ちはない。

 が、おそらくこいつ自身も、何をしてもらいたいか全く分からない状態だな。

 家族はいるが、ある意味孤独な立場だ。

 それは……。

 ……皮肉なことに、俺の世界にいた時の俺自身と重なる部分がある。


「とりあえずさぁ、まず目的と手段だけ考えてりゃいいんじゃねぇの? 人の悪事まで自分のものにする必要もなかろうっての」

「……アラタ。しかし私は、お前のその好意に甘える」

「お前は人の好意を、調子に乗って台無しにするような奴じゃねぇよ」

「……アラタ。お前は私の何を知ってる? 寝食を共にしたことのない奴の」

「知らねぇよ。馬鹿王子であること以外何も知らねぇ。けど忘れてんじゃねぇよ。その言葉が本音かどうかくらいの判断はつけられんだよ。旗手の能力のお陰でな。心底詫びを入れたい気持ちがあるのは分かる。ひょっとしたら、それは善人ぶってるフリかもしれねぇ、とお前は思うことがあるかもしれん。けどその気持ちは、間違いなくお前の本心だ」


 その言葉は嘘かまことか。

 悪いがそれに騙されたことはない。

 正解率百パーセントだ。


「お前が父親にやったこともクーデターかもしれん。けど、今のお前の気持ちを忘れずにいられるならお前の理解者も増えるだろうし、お前が悪人になることはない。安心して自分の信念を貫きゃいいんじゃねぇの?」

「しかし……」

「お前がこうしてこの店に来る。そんな風に俺を受け容れる限りだが、道から外れそうになったら修正してやるよ」


 おれがこいつにできることってば、それくらいしかねぇしな。

 それに、こいつはこうして俺に助けを求めてに来ている。

 そういう受け止め方をするんなら、こいつはこいつらと同じように扱わなきゃ、な。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る