王族の欲 王子の告白 その3
「厳密に言うと……泉と雪崩の現象で力を発揮した勇者たちの業績を見た王達の中に、そんな発想に行きついた者達がいた、ということだ」
シアンの話は、この話題から一旦離れた。
なぜシアンの一族が王となったか。
この前置きが必要らしい。
人間、動物、魔族、魔物が、社会を築き生活しているこの世界。
魔力ばかりか、生命力すらも劣っている人間。
他の者達からの脅威に如何にして抵抗、反抗、そして自分たちの身を守るか。
リーダーシップを執り、その者を中心として持ち合わせる知恵と力を集結することしかない。
それは動機やきっかけは別だろうが、他の存在も同じことを考えていたらしい。
結束したグループ当然、それぞれリーダーを選ぶ方法は違うのは想像に難くない。
「当時は金ってものはなかったろうから、金の代わりになる物を多く所有していた者とか力自慢とか」
「論戦で勝ってた者とか、が選ばれたんだろうな」
「うむ。そして、人間は当然だが、魔物にだって寿命はある。そのリーダーがいなくなれば、次のリーダーを選ぶ必要がある。同じ選抜方法を行うか、知恵もついてくれば選挙というやり方も発案される」
「命尽きる前に、次期リーダー指名ってのもあるか?」
「そう。そして……血族、一族をリーダーとするグループも」
グループ。
大きくなれば、いろんな組織も必要になる。
それはやがて、おそらく……。
「時代は進む。グループは国と言う名称の枠となる。ま、国になるまでの経緯は省くか。国の中心となるグループも、グループの中心となるリーダーを決めるやり方とほぼ似ている。いろんな意味でスケールはでかくなるがな」
おそらく戦争ってもんもあったろう。
ま、歴史の授業を受けなきゃならんのなら、そん時にでもじっくり聞かせてもらおうか。
「代ごとに王が選ばれる国は、選ぶ期間が長くなる。だが最後には、その国に属する民達が形だけでも納得して決められることになるから、選ばれた者も、その結束は固いと感じるだろう。だが……この日本大王国は、私の一族を王とすることと定められた」
生まれながらにして王、か。
「もちろん根拠もあった。私の……この王家の者は、代々魔力を有していた。もちろん最初から分かってたことじゃない。他国と同様、その度ごとに希望者が候補に名乗り出て、人格能力その他を選考対象とし、その上で選ばれたらしいからな」
「人格ねぇ。お前の親父さんを見ると、昔からそうなんじゃないかって思えるんだがな」
「……それはある意味間違いで、ある意味正しい」
意外な返事だ。
俺の質問に全面降伏するもんだと思ってたが?
「話を続ける。何代か続けて同じ一族の中から王が選ばれたものだから、この一族に自分達を託そう、と言うことで決められたらしい。だが、のちの王達が辿り着いた発想の記録を見ると、それは間違いだ、と私は今思っている」
つまり、自分に王の資質があるかどうかっていう疑いの念も……なくはないのか。
自己否定。俺が言うのもなんだが、随分ネガティブだな。
「社会を築くことのない魔物ども……現象から湧き出る魔物のことだが、ここばかりではなく各地域の集団や国は、そのリーダーを中心に抵抗していった。成功しないことも数多くあった。今の旗手達のように長い期間手こずっていたってことだな」
勇者の出現はその魔物達に対して、必ずしもそれらが属する集団の勝利になるとは限らない、か。
だが出現がなければ敗北必至。
いないよりは、そりゃいた方がいいに決まってらぁな。
「だがこの日本大王国においては、勝利し続ける勇者達を忌々しく見る者達がいた」
「へ? いなきゃ自分の身も危ねぇだろ。どういうこった?」
「……選抜によって王を定められていた期間中はそんなことを考える者はいなかった。そんな者達が現れ始めたのは、この一族から王を選出すべし、という法が定められて数代経ってからのことだ」
誰だ?
検討もつかん。
「……それは、王自身だ」
「へ?」
「王が、我が身を脅かす魔物達に対抗するために勇者を定めることを希望し、その勇者の存在を否定することを希望したのだ」
訳分らん。
何でそうなる?
いや、待て。
結局自分らの中で一番王に相応しい者に王となってもらったんだろ?
その中で人間として能力が一番秀でた者が選ばれた。
で、その王を中心として、勇者を選出するってことは……あれ?
「ひょっとして……王も勇者になり得たのか?」
「……明察だな。その通り。そんな王も何人かいたんだ」
「となると、選抜によって決められた王は」
「うん。その王達はみな、勇者を経験している。討伐全てに参加した者はいないがな」
内政と言えば内政だ。
だが、そればかりに気を取られるわけにゃいかねぇもんな。
「じゃあその、勇者を嫌った王って、後継ぎの決まりで就いた王ってこと? お父さんとお祖父さんとか、ひょっとしたらお母さんとかお祖母さんも勇者になったことがあるってことだよね? なのにそんな必要な人を嫌うってどういうこと?」
馬鹿天馬の汚名返上だな。
そうだ。父、祖父ばかりじゃなく母、祖母、あるいは叔父叔母、親戚だって勇者になった場合もあったはずだ。
それは気付かなかった。
「うん。テンちゃんの言う通り。代を重ねるにつれ、一族の後継者ということだけで王に選ばれるようになっていく。人格はともかく、能力は間違いなく高いはず。にも拘らず……な」
「続けろ。口が重くなってんぞ。昔のこと、ご先祖さんらのことで、お前自身のことじゃねぇんだからよ」
図星を突かれたようにビクッと体を震わせた。
読心術とまではいかねぇけどな、気持ちは大体分かる。
それに、誰が書き残したかは知らんが、その記録があるってことは……。
「……体力や能力、文明も進めば財力ってものもこの世界に存在するようになる。そのことによって王となった人物には、権力ってものもその手中に収まることになる。そして、それを手放したくない、いつまでもそれを自分の手元におきたいと思う王も現れた」
「権力欲だな。欲望は誰にでもあるだろ。大なり小なり」
褒められるこっちゃねぇけど、今はツッコミどころじゃねぇな。
「……自分は王に選ばれて当然、と自惚れる者についてはどう思う?」
「いきなりの質問かよ。鼻持ちならねぇ、とは思うがな。それが?」
「そう思う者の大部分は、足元を掬われかけた経験を持つ者が多かった。が、私の話においては、逆に問題にならない。自分が王に選ばれることを怪しむ者、自信のない者が何人かいた。召喚魔法の開発は、その者達の集大成、とも言える」
何か、話が見えてこないんだが?
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