村の防衛もこいつらにかかりゃ、戦争ごっこかなぁ 相手に自分の思いを正確に伝えるには、それなりに思考は大切だ

「ふあぁぁ……。……で?」


 シアンがおにぎりの店にやってきた。

 俺が今把握してるのはそこだけ。

 何しに来たのかは知らん。

 もしもこいつが国家権力と無縁なら、俺もここまで邪険にすることはなかったろうがな。

 お前は悪くない。

 お前が生まれた家柄が悪いのだよ、うん。


「で? とはご挨拶だな。報告に来たと言っただろう? アラタにも必要な情報だと思うんだか?」


 まぁ……そりゃそうだな。

 寝不足から解放されるのは間違いない。


「結論から言えば、もう警戒を解除していい。牧場で捕えた連中の一味は全員逮捕、というわけだ。余罪が数多くあるようだから、この後の仕事は我々の役目だな」


 余罪ねぇ。

 あちこちで相当盗みを働いてたんだろうな。


「総勢十四人か? 全国各地を荒らしまわったんだろうなぁ」

「いや、それが、もっぱらここだけらしい。穀物野菜果物畜産。様々な食材を生産してるからな」


 まぁ一か所からたくさん盗みゃ、手間もかからずに済むってことか。

 それにしてもそんな短時間でよくそれだけの情報を掴められたな。


「で、村にも当然伝えたんだろ? っていうか、報せに行けよ。連中は夜昼構わず巡回してるみたいだし」

「それはもちろん。だが昨夜の活躍も伝わることになるだろうな」

「え? いや、それは勘弁してもらいてぇなぁ」


 執拗に感謝の気持ちを向けられても困る。

 感謝されることが当たり前に思えるようになったら、日常に戻った時に不満を感じたり不安になったりしかねない。

 俺は一般人として生活していきたいんだが?

 つか、そもそも一般人に王族が近寄ること自体おかしいんだっての!


「それは無理だな。どうやって捕まえたか聞かれるだろう。アラタ達の名前を出さずに説明しても、すぐアラタ達のことだと分かってしまうぞ? 捕まえたこと自体改変しても、必ずどこか矛盾が出る。夜中に保安官達が警備をするというのも無理やりなこじつけだ。観念したまえ」


 したくねぇよ。

 ゆっくり寝させろよ。

 向こうは夜の見回りは当番制だろうが、こっちは何かがあった時に対応するのは全員だぞ?


「あぁ、それと」

「まだ何かあんのかよ」


 追い打ちになるような話は聞きたくねぇよ。

 ほかに何があるんだよ。


「私の親衛隊のアークスとクリットが世話になったようで。私からも礼を」


 感謝したいなら行動に現わせ。

 俺達が関わった事実を隠して村人たちに説明するという、な。


「なんならシアンもスキンヘッドにしてみるか? ……って、もう無理かもな」


 そうだ。

 サミーが脱皮して、姿が完全に変わった。

 今までの尖った鼻先もない。

 ほぼ完全にひし形の形になって、顔面もその先頭になってた。


「サミーとやらに何か起きたのか?」

「あぁ。親に似た姿になった。今まで猫みたいな体毛に包まれてたが、一切なくなった」

「ほお……興味深い話だな。ま、ギョリュウという種族の名にふさわしい姿になった、というわけか」


 察しがいいな。

 一々細かく説明する手間が省ける相手ってのも嫌いじゃないが。


「だが整髪を目的に来たのではないらしいから、また世話になるとは言ってたな。他の隊員にも」

「あーはい、もう好きにしてくれ。あの場所は俺の店の管轄外。ただ、村に被害が出ないように、その警戒もしてるが、時に応じてだから」


 だから俺らにそんなに負担はないが、そこまでこいつに言うべきことじゃねぇよな。


「なら、秩序正しく、であれば誰でも利用していいということか。了解した」


 けどなんか一々断りを入れるような感じが、気を許してないって感じでなあ。

 まぁいいけどさ。


「はいはい。とりあえず、夜盗の情報には礼を言っとく」

「うむ。じゃあな」


 さて……まだ、誰もが昼休みの時間か。

 シャッターがありゃ閉めてもいいだろうが……。

 扉もない店ってのもなぁ。

 洞窟だから仕方がねぇか。


 ※※※※※ ※※※※※


 シアンからの報告を受けた時、嫌な予感はしてたんだよな。

 サーマルさん達が礼を言いに来るだろうなとは予想してた。

 客がいるうちに来られたら迷惑だった。

 でも今日に限っては、客がいないうちにも来てほしくはなかった。

 眠かったんだよ。


「アラタさん。この度はありがとうございました」


 安眠妨害っ!

 サーマルさんがあのあと一回来て礼を言いに来た。

 それだけだったら赦せたけどな。

 見回りをしてた村人たちが、個別で、しかも三度も四度も来るんじゃねぇよ!


「あ、あぁ。……気持ちは分かったから、寝させてくんねぇ? 徹夜じゃなかったけど、割と大立ち回りだったからさ……」

「あ、それはすいませんでした」

「他の人にも伝えといて。礼を言いに来るだけなら来なくていいから。とにかく眠いから。明日からもいつもと同じ毎日続くわけだし」

「あ、はい、分かりました」


 と、伝えた。

 だが、失敗した。

 寝不足の頭で接客とか応対とかすると、しくじることがかなり多い。


「あのー……すいません」


 と、その後に来た村人たちは。


「お礼の品物を持ってきました。今回収穫した中で一番できのいいメロンを六個持ってきました」


 礼を言いに来るだけなら来なくていい。

 確かにそう言った。

 けどな。

 礼を言いに来るなら、何か品物を持って来い、って……。


 そ う い う 意 味 じゃ ないっ!

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