外の世界に少しずつ その12

「ただ心配事が一つありまして」

「心配事?」


 まだサーマルの話には続きがあるっぽいな。


「泥棒達を保安官達に引き渡したんですが、これで全員かどうか、とみんなで話をしてたんですよ」


 なんとまぁ。

 巨大組織だったら、残党が押し寄せてきたり報復しにきたりと、いろいろやらかしかねないな。


「保安関係の人達が見回りに来てくれるって言うので、その分は安心できるかと思うんですが」


 あれ?

 もしこの村に来て放火なんかやらかしたら……。

 やべぇ。

 俺の店、商売あがったりじゃねぇか!


「どうしたの? アラタ。顔、悪いよ?」


 ほっとけ!

 生まれつきじゃ!


「ヨウミさん、それを言うなら顔色じゃないですか? 私はほとんどこんな黒系統ですが」


 クリマーはそういう種族だからだろうが!

 いや、ボケまわるところじゃねぇぞ!


「お前らな……。今サーマルさんが言ったように、そいつらが何かをやらかすとして、この村に火を放ってみろ」

「サーマルさんの前で怖いこと言いますね」

「あ、いえ、何かの参考になるならお話しを聞かせてもらえたらとは思いますが……」


 俺の頭に浮かんだのは、やらかしの可能性の一つだからな。


「村に火をつけたとする。村人たちはどうする?」

「そりゃ消火するに決まってるでしょ? 誰にだって分かるわよ」

「じゃあマッキー、消火するとしたらどこからする?」

「そりゃ民家とか、企業の建物とか田んぼ畑、牧場の動物達も避難させないと」

「うん、正解、だと思う。我が身を守るのは当然だし、中には命よりも大切な物もある。それらは村の経済の命綱だからな」


 サーマルさんがうんうんと頷いている。

 いくら村人と接することがなかった俺達でもそれくらいのことは理解してるし、理解してくれてたことがサーマルさんにゃ安心してもらえたってことだろう。

 村は大事にしなきゃならん。だが……。


「じゃあ消火しきれない火はどこで燃える?」

「へ? えーと……山林にまわったら……あ、こっちが危ないかも」

「へーきへーき。貯蔵庫とかを荷車に運び込んで、あたし達も避難すればいいだけでしょ?」

「避難っつっても、モーナーに地下を掘ってもらって、煙が下に行かないようにして、そこに逃げればいいじゃない。心配することでもないでしょ?」


 馬鹿天馬はやっぱり馬鹿天馬。

 いや、天馬だからそこまで頭が働かないかもしれん。

 コーティもここに来たばかりだからよく分からないこともある。

 が、俺の仕事は一通り見たはずなんだがな。


「……燃えるものは山林ばかりじゃない。田んぼ畑なんかも村人が守り切って、それでも燃えてる物があるとしたら?」

「あるとしたら……あ」

「えっと……私達には死活問題、ですね……」

「え? 何々? 何かあったっけ?」

「他に? 何があんのよっ」

「ア、ライムタチ、ココニイラレナクナル……」

「え?」

「ミィ」


 ライムは正解に辿り着いたようだ。

 そして、俺の背中に張り付いているサミーはかわいい。

 重いけど。


「ススキモドキが燃える。ススキモドキから獲れる米で作るおにぎりを売る。それで生活が成り立ってる俺達は、ここから引っ越す必要があるってことだ」

「なんと……」


 サーマルさんも驚いているが、何もサーマルさんの責任でもねぇし。

 俺らの心配をしてもらう義理もねぇんだがな。


「けど、泥棒らに残党がいて、しかも報復行為をしようとすることを前提とした俺の予想だからな。要は思い込みに過ぎない……」

「ですが、村の安全確保は村人の義務でもあります。保安の人達の取り調べとかで、それがはっきりするまでは、更にそれに力を入れる必要がありますな。もちろんここも、その範囲外ではありません」


 この人、なんか急に力入ったな。

 何かスイッチ入れるようなこと言ったっけ?


「村の安全についてどうこうってのは、そりゃ村の人達の役目なんだろうがなぁ……」

「あたし達、村のために何かしたわけでもないし……」

「サーマルさんは……サキワ村農場でしたっけ? まずはそっちの警備を」


 うん。

 マッキーとヨウミの言うことはもっともだ。

 俺達の店は村に貢献してるとは思えん。

 なのに店の営業まで守ってくれるなんて、あまりに都合よすぎだよな。

 借りは作りたくねぇんだが。


「けれど、テンちゃんさんにもお世話になってます。何より泥棒を捕まえた立役者ですからな」


 大げさじゃねぇか?

 それにだ。

 もし恩返しを考えるとしたら、俺らじゃなくテンちゃんにだろうよ。


「それに、確保した泥棒達は、あれで全員かもしれませんし。いずれ警備には当然力を入れますよ。ここを含めて居住区域全てをね。区域外の魔物がいる所は別ですが……」


 まぁそうだろうな。

 村民の安全第一だ。

 そういう意味では、農場の建物とドーセンの宿は安心だな。

 村の入り口に近い所にある。

 村の外に逃げ出すには時間もかけずに済むだろうし、逆に襲撃を受けやすい分、警備も厚くなるはずだ。

 ま、何事も起こらないのがベストなんだろうけどさ。

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