ファンクラブをつくるのはいいが俺を巻き込むな その6

 テンちゃんに好意を持つ、人馬族の冒険者ワッツが、何を間違えたのか俺に決闘を申し込んできた。

 だが宣告前から殺気を伴いながら俺に猛スピードで突進してきて、空振りした後にそれはないだろうよ。

 ライムとクリマーのお陰で事なきを得たが。


「ミッ! ミーーッ!」


 サミーまで怒っている。

 怒るのはいいんだが、俺の背中から肩に上りかけてハサミを激しくバタバタさせるのは止めろ。

 俺の肩に、地味にダメージが溜まるんだよ。

 肩叩きのつもりって言い訳、まず利かないから。


「ミナミアラタ! お前に、決闘を申し込む!」


 いや、うるせえよ。

 大体お前、テンちゃんの後を追いかけるように、仲間と一緒にフィールドに向かったじゃねぇか。

 あの時にいろいろ喋ってたんじゃねぇのか!


「……ファンクラブとやらの取り巻きに囲まれて、二人きりで話をするなんて難しいとは思うけどよ。それでも直接話をしなきゃ」

「したさ! したとも! 俺の名前を教えて、あの子の名前を教えもらった! そして聞いた! 誰か好きな人はいるか、一緒にいたい相手はいるのかってな! そしたら……」


 とりあえず、名前を互いに教え合ったことはできたようで何よりだ。

 重要な第一歩を踏み出せたようだが……。

 フラれた、としか思えん反応だな。

 だったら諦めるしかねぇだろうよ。


「そしたらあの子はっ……。『ずっとアラタのそばにいたい』、と……」


 ……聞き方も微妙にはっきりしないし、答えのタイミング次第じゃなぁ……。


「『じゃあ俺はあいつを超える!』、そう告げてここに」


 えーと。

 どう解釈したらいいんだ?

 いろいろとぶっ飛び過ぎてないか?


「済みません、アラタさん。同じ相手を好きになった者は、決闘を申し込んで決める風習が人馬族にはあって……。もちろんみんながみんなそのような手段をとるわけじゃないんですが」


 仲間からの、まぁ言い訳だな。

 そんな風習が仲間内で通用して、誰もが逸れに理解を示すなら何の問題もなかろう。

 けど、他種族の、そしてそんな風習を理解できない奴を巻き沿いにすんなっつーの!

 ある意味ノーダメージだし、こっちは大人だからすぐに引っ込んでくれりゃ何の文句も言わねぇけどよ。


「アーラターーーッ!」


 テンちゃんの声が聞こえる。

 こいつらの相手をすることで精いっぱいで、テンちゃんの気配には気付かなかった。

 が……どこから来てんだ?

 森の方面を見ても姿は見えん。

 灰色の体をしてても、暗闇の中では意外とわかりやすいんだが……。


「アーラターーッ!」


 さっきよりも声が近くから聞こえる。

 が……どこにもいねぇじゃねぇか。


「あ、テンちゃんだ」

「え? どこよ」

「いや、そっちじゃなくて上」

「上?」


 テンちゃんがこっちに向かってダイブするように飛んできていた。

 あ、こりゃ間に合わねぇ。

 そして響く衝撃音。

 もちろんその発生元は俺とテンちゃんの接触から。

 痛い、という表現がまだ追いついている。

 痛いなんてもんじゃないっていうほどじゃなかった。

 でも……。

 痛いことには間違いない。

 声も出ねぇっ!


「ご……ごめんっ! アラタッ! 大丈夫……? 誰か、治癒の……」

「……じゃねぇよ……この……馬鹿天馬っ……!」

「テンちゃんに向かって……馬鹿だと?!」


 またややこしい奴が……っ。

 何でこの人馬族の男がしゃしゃり出る?!

 って、何でそいつまでこっちに飛び掛かってくるんだ!


「アラタっ! 危ないっ!」


 ワッツが両前足をあげて飛び込んできた。

 それを防ごうと、俺との間に壁になろうとして、体を横向きにするテンちゃん。

 またも鈍い音が響く。

 馬鹿かあいつ。

 好きな相手の横っ腹に両足前蹴りを食らわせやがった。

 あ……。

 テンちゃんの体が俺の上に横倒しに……。

 俺の人生、こんなんで終了とか、笑えねぇぞオイ。

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