トラブル連打 後日談その3
「紅丸の決断と行為?」
「うむ。現象発生直前に、彼もそれを察知できたそうだ。しかし現象に対してもだし、そこから現れる魔物にも対処する手段がない」
多くの人数を収容することはできるようなことは言ってたようだがな。
「収容して避難することも考えたが、アラタの言葉で何かやらかすことは想像できた、だそうだ。まさか阿吽の呼吸ってわけでもないだろうが」
冗談じゃねぇ。
本心隠してツーカーだぁ?
馬鹿も休み休み言えってんだ!
「人の命を守り、金品建物などの財を守り、日常も守る。被害が大きければ復興にかける金額も跳ね上がり、商会の売り上げも上がるが、みんながみんな、それに取り組むとは限らない。一人一人が持っている財産には限度があるから、だと」
商魂逞しいな。
大企業が一気に出してくれる高額な金より、一般人のほとんどが出す金の方が多いと見たか。
「魔物の方は、旗手が来てくれれば何とかしてくれる。それまで持ちこたえられれば人間側の勝利。そう見越してたらしい」
奇しくも俺の目論見と一緒か。
……気が合うなんて考えたくもないが。
「船上でアラタの動向は見えてたらしい。タイミングを見計らって、魔物どもに渾身の一撃のつもりだったらしい。そこで紅丸からの伝言だ。『魔物どもの上に落とした船は、少しは役に立っただろ?』だとさ。まさか船が回転して更にダメージを与えるとは思わなかったから、それはアラタの戦功ということらしいがな」
やっぱり上から落とした船は砲弾代わりっつーことか。
「船の内装をすべて外し燃料なども抜き取って、なるべく周りに被害を出さないようにしてみたんだと。落とした船の周りに何か円の形の枠ができてて、その外に飛び散るものは特に何もなかったようだったから、そこまで気にしなくても良かったか、なんて言ってたな。結果論だろうがな」
魔球も十分に働いてくれたようだな。
計算通りに動いてくれるなら、人も物も有り難い。
計算外の動きをしてくれるのは、どんなものでも厄介だがな。
厄介なんだか有り難いんだか分からん連中に囲まれてはいるが……。
……あいつらに限っては、厄介だけど有り難い、かな。
「だが私は、その現場は見ていない。ライムとあの妖精から話は聞いたが……有意義に使ってもらえて何よりだ」
ライムにもしも顔がついてたら、俺に思いっきりのドヤ顔を見せつけていただろう。
俺のベッドにすり寄ってきた。
あざといんだよ、その動きっ!
まったく……余計な事は言わんでいいっ。
……と言っても……俺には余計な事と思えるかどうかまでは分からんか。
「そう言えばこいつ……コーティの種族は珍しい、とか言ってたな?」
「こいつって言うな! コーティ様と呼べ!」
面倒くせえ。
「様つけて呼んだら、期待を裏切る結果の働きしかできなかったな。こいつでいいよ、お前なんか。それが気に食わなきゃとっとと出ていきな。あんな危険なことをしてもらう義理はもうねぇだろうしよ。自由気ままに生きてゆけ」
「あんたよぉ、そりゃ無責任って奴じゃねぇのか? あたしを世話する義務があんだろうが!」
なんかこいつ、初対面の時の話と違ってねぇか?
助けてもらった恩を返したらさようならって話だったような気がするな。
「アラタ。この子、アラタのおにぎりに首ったけって感じよ?」
「う、うるさいっ!」
面倒くさい奴に懐かれたってことか……。
どうするよ……。
「アラタ。話が途中だったな。君が好むかどうかは別として、この子も実に珍しい。ピクシー種の姿は例外なく、普段は透明か半透明なんだ」
「……けれどこいつは誰の目からも見える」
「おそらく桁外れの魔力を持っているんだろう。許容範囲を超え、その影響が表面にも現れた、としか考えられん。いずれにせよ……」
「ん?」
何だよ、気味が悪い。
何耳元に近寄ってくるんだよ。
「野放しにしておくと危険ってことだ。気まぐれでその魔力全開で暴発させたら、泉から出るすべての魔物半数を消滅させるくらいの力はあるんじゃないか?」
ひそひそ話で怖い話を聞かせてんじゃねぇよ!
じゃああん時は本気じゃなかったってことかよ!
あーゆーときこそ本気だせよふざけんな!
「もちろん理性が吹っ飛んでないとできないことだろうがな。それとピクシー種に亜種はない。他種族と交流を持つことがほとんどないからな。もちろんその特性があるからってこともあるが、性格というか気質が、他種との協調性がまずない」
「プライド高そうだな」
「何か言ったか?!」
耳ざといな。
声を低くした会話でも聞き取れるのか。
今のシアンみたいに、本当にひそひそして喋んないと聞かれちまうってことか?
まったく本当に面倒この上ない。
「だから、同種の高位の……ハイピクシーとか言ったか。ピクシーの集団がいれば、そんな種族が統率することが多い……という研究報告もある」
「ピクシーよりも桁違いの力があるってんなら、こいつも、そのハイピクシーとやらになるんじゃねぇの?」
「体格、体型が二回りほど大きい種族だ。系統が同じ種族だが、成長すれば高位に変わるわけじゃない。突然変異が起きるという話もない」
つまり……異端、か。
同種と違うことを気にするふうでもないが……。
「でもね、アラタ」
「ん?」
「心根は優しいわよ? いきなり目の前に現れたと思ったら、泣きじゃくって助けを求めてくるんだから。それ」
「おいっ! 女だからって遠慮しねぇぞ! 余計な事言うな!」
「ヨウミもそれ見て慌てちゃって、あとから駆けつけてきたライムのおかげで何とか理解できたけど」
「そこの馬も余計な事言ってんじゃねぇ!」
「魔法使えるならそれで魔物を倒したら? って移動中に聞いたら、アラタを巻き込んじゃうって」
「そこのエルフも下らねーこと言ってんじゃねぇ! あーもう! どいつもこいつも言うこと聞きやがらねえ!」
……うわぁ。
面倒くせえ。
何度も思うけど、ホント面倒くせえ。
けど。
「……ありがとな、コーティ」
「うるせえ! 爆発させんぞテメェ!」
怖い怖い。
「……んじゃお詫びとして、塩おにぎりなんかいかがでしょうか?」
「ちょっとアラタ。塩おにぎりって、具が入ってないのよね? それはさすがに」
「……五個。それで今のことは勘弁してやる」
チョロい。
まぁそれが一番価値があるってんなら、こっちからはどうこう言わんけど。
「力仕事はどうにもならんが、味方になるなら彼女もまた、心強い存在になってくれるだろうな」
「何の味方だよ。俺はおにぎりの店のオーナーで、旗手とは関係ねぇ……ってば、あの後旗手の連中はどうなった?」
そうだ。
確か何とか間に合って駆けつけてきてくれたはずだ。
「お前とライムとコーティ、そして紅丸たちのお陰で、それほど労力を使わずに収めることができた。どれ一つ欠けても、あんな風に速やかに現象を抑えることはできなかった」
「俺たちへの賛辞よりも……」
「あの後すぐに王宮に帰した。休養取る暇がほとんどなかったからな。旗手の人数が揃ったというのに、なかなかな……。アラタと因縁のあるあの男も、特に何の言い残しもなく帰還してくれた」
ふん。
自分の仕事だけやってりゃいいんだよ、あいつらはっ!
「でも私、見てましたけど、腕の一振りで、ひときわ大きな魔物以外の全部を端に寄せたって感じでした。とんでもないですね」
「彼らも本来の力をようやく発揮し始めることができたって感じだよ。そして自分の力に恐怖を感じる者もいる。使いこなすにはもう少し時間もかかるだろうがな」
身の丈に合った力じゃないと、心ってのはすぐにそのメリットの誘惑に負けるもんだ。
自分の物じゃねぇのに自分の物と勘違いするとかってこともあるしな。
「で、そのあとはミアーノとンーゴが地中で移動してきて、あたし達を回収してまた地中に潜って帰ってきた、と」
「アノトキハ、サスガニオドロイタ」
「キシュとやらが一斉にこっちに敵意向けるんだもんよぉ。野蛮な連中だぜ。現象の魔物って奴初めて見たけどよぉ、真っ黒の黒黒じゃねぇか。こっちは色彩豊かじゃねぇか」
「二、三色くらいしかないじゃない。茶色と黒と白」
「落ち着いた色どりって奴だぜ? マッキンよぉ」
「言いやすいのかもしんないけど、一々呼び名変えるの止めてくんない?」
和むのはいいけどよ。
でかい本題から外れてんぞ、お前ら。
「で、肝心の紅丸はどうなった? それから双子を拉致したその従業員とやらも」
「うむ。紅丸の、泉現象への対応が我々の疲弊をかなり軽くしたことは無視できない要点だ。それに双子への行為も常習ではないこと。商会の警備部の暴走は見られるが、冤罪はないこと。そして……みんなの捕獲は、紅丸からの指示ではなく、身体的損傷もほとんどない、というのも見過ごせない」
「無罪なわけ?」
「行動に出ない思想思考の範囲なら、誰だって好き勝手なことをするだろう。それは本人の自由だし、親しくなりたいという希望に応える応えないも君らの自由だ。だが紅丸自身にもまた、その思考想像の自由は当てはまる」
「そんなっ」
確かにシアンの言う通りだ。
けど……確かにそうだ。
「……シアン。それは紅丸からの……自白、か?」
「というより、心情の吐露といった感じか」
「……親しい関係になりたい、という言葉が嘘の可能性がある。強引に拉致しようとするつもりだった可能性もある」
「もしそうなら」
「いずれ、あいつの考えていることと今回の音信不通の件に、紅丸自身の因果関係がある証明はできない」
「ちょっ! アラタ! 何言ってんの!」
「シアンが言ってたろ? 紅丸と従業員たちの証言に不一致は見られないって。それにだ」
「それに?」
「お前らに危害を加える、あるいは売り飛ばすって考えは……あいつにそんな意志があったとしても、少なくともそこまでの段階じゃない。ペテンにかける気はあったとしてもな」
「じゃあアラタは紅丸の味方すんの?! あたし達を売り飛ばす気?!」
何で俺が責められる?
つか、そんなことするわきゃねぇだろうが。
大体俺が責任持てるのは、せいぜい俺が作るおにぎりが精一杯だよ。
「少なくともあいつが俺達に接触していた間は、そんなつもりはなかったってことだな。事が上手くすすんでいけたらいずれはそうするつもりってとこじゃねぇのか? もしその前に俺との縁が切れたらその件は諦める、つー感じか」
「何でアラタに分かるのよ」
「能力でそこまで判断できるって話は何度もしたろ?」
「あいつがそのこと分かってて本心隠してたのかもしれないでしょ?!」
「俺が元旗手だったってことを知って驚いてたぞ? ヨウミだって聞いてただろ」
「あ……」
怒りのあまり思い込みが強くなるってのは仕方がない事だろうけどよ。
少しは落ち着けよ。
「じゃあ私達を紅丸に売り渡す」
「何でよ。俺が売るのはおにぎりだけだぜ?」
ったくどいつもこいつも疑心暗鬼だなおい。
「確かに金は必要だし必要な分は欲しいよ? けど金を得るには、商売なら物を売り続けなきゃ手に入らないの。大金が金を呼び込むわけじゃないし、金にオスメスがあるわけじゃないの。分かる?」
「お金のことはよく分かんないんだけどさ……そりゃ生き物じゃないんだから」
それくらいは分かるか。
まぁ分かってもらわなきゃ困るんだがよ。
「大体……こんな面倒な奴を心配してくれるような家族を誰が手放すかっての! そんなに欲しけりゃ本人の首差し出したってまだ釣り合いとれねぇよ!」
「アラタ……」
「寝床が別の所にあるミアーノとンーゴも、泣きじゃくりながら俺のことを心配してくれたコーティも、俺の家族同然……俺の家族は、俺のことをそこまで心配してくれなかった。この世界には俺の両親とかはいねぇ。だから、お前らは、俺の新しい家族、だな」
「お前……」
「え?」
コーティが枕元に飛んできて、顔を真っ赤にしながら俺の目の前で両手を光らせてる。
おい。
お前、何やらかす気だ!
「そんな恥ずかしい事、真顔で言うんじゃねぇ!」
「うごあああぁっ!!」
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