行商人とのコンタクト その7
「武器商人とか死の商人なんてようしませんて。あははは。そんなん誰言うてんのですか?」
そこまで言ってない。
言いたくはなったが。
これで三度目の対面か。
皇太子、呼び名はシアンから話を聞いたあとだった。
と言っても、店の連中がもう一回り休日をとったあとだった。
だから結構間は空いた。
みんなから、自分らは二回、しかも今回は三日間の休養をもらったから、俺も少しは休んだら? と言われた。
別に気を遣わんでもいい、とは言っといたが。
だからこの日紅丸と会えたのは偶然としか言いようがない。
もっとも紅丸は地上に降りたいくつかの船を巡回してるらしいから、会える確率はゼロじゃないことも確か。
「そんな話が聞こえてきた。まぁ噂だが」
「ま、噂ってのは、その中身に責任を持たずに済む連中が流すもんだからのお」
言われてみりゃその通りかもな。
「けんど、地上で広い範囲でなんかの災害が起きて、避難場所がないっちゅーときには安全な避難場所になるようにはしとる。もちろんボランティアやで?」
「そのまま住み着かれたらどうする?」
そんな困った避難民もいる話を聞いたこともある。
この世界の事じゃないがな。
「働いてもらうわ。で賃金も渡す。これで普通の労働者のできあがりじゃな。人手は、本船じゃいくらあっても足りんわな。なんせ地上の環境と同じクオリティを維持せにゃならんし」
その話は、以前会った時にもちらっと聞いたが、やはり想像つかない。
「泉現象っちゅーのはよー分からんが、魔物が自然に発生する現象があるのは知っとる。けどたまたま探知して以来、そっちの方にも気を向けるようになったんや。そしたら何や、国軍から感謝されてもうての。そんな作業は片手間でできるし、特に金が必要って訳でもないから謝礼に小遣い程度の額はもらっとるが……」
「じゃあ他国へのけん制は……」
「こっちが砲撃受けたら、落下するしかないやん。そしたら乗員も、落下地点にいる人達も一巻の終わりや。責任とれようもないやん、そんなの。戦争なんて金も使うし命も無駄にする。こっちからお断りやな」
嘘はなさそうだ。
信頼できる言だが……じゃあ維持費はどうやって賄ってるんだ?
「……まぁ……庶民の生活に必要なもん作って売る。安うても数売りゃ金になる。それで整備とか改修、補強をしとる。けんど、金がまとまりゃ、それを見たよそもんは妬むわな」
気が重い話題なんだろう。
しかしそれは絶対必要。
しなきゃ船が空から落ちる。
大企業だから、お金はたくさんあるだろう。
大金持ちってことだ。
だからといって裕福な生活とは限らない。
使う予定や目的がある金なら、こいつの自由になる金じゃないからな。
「一つの品を売っただけで、全部の船の改修工事できるくらいの儲けが出る商品ってないやろかねぇ」
「おにぎりなんてどうだ?」
「おぉ、そりゃ名案じゃな! ってあるかい、そんな握り飯! わははは」
「あるだろ。お前さんの本船を買いとれるだけの値をつけりゃ」
「ぷはっ! 確かに売れりゃそんだけの儲けは出るなあ! で、いつ売れるんや、それ」
「飛ぶように売れる品、とは聞いてないが?」
「こりゃ一本取られたわ! わははは」
俺の世界じゃ散々上げ足取られたんだ。
上げ足取られただけで不幸になる奴はいない。
つまり、そっちの方面は鍛えられたとも言える。
まぁ……悪く言えば皮肉屋、か?
「そいえや、ちょこっと小耳に挟んだんやが」
「何をだ?」
「お宅んとこの従業員さん、うちの店あちこち利用してくれてて有り難うさんな」
「あ? あぁ、そっちがこっちのニーズに合う店を既に用意していたってことだろ。礼を言われるようなこっちゃないさ」
テンちゃんはお腹に付ける防具を買いに行った。
もちろんお金を払える手はないから、一緒に買い物に付き合ったヨウミが会計をしたらしい。
もう一人はサミーだったから、ヨウミしかできなかったわけだが。
そのヨウミは衣類を一揃い。
ちなみにサミーは、最近食べるのが好きになったようで、魔物も利用できるレストラン、食堂をはしごしたんだとか。
「自分の体の五倍くらいは軽く食べるのよ?! そんなにお金はかからなかったからいいけど。でも聞いてよ! 食べた分、体がポッコリになるけど、見た目かわいいのよ! 卑怯だと思わない?!」
ヨウミが怒る。
何をそんなに腹を立ててるのか聞いたらば。
「これ、太ったって言わないでしょ?! あたしとかマッキーがこんなお腹になったら、太ったってすぐ言われるじゃない! あ、クリマーも体変形させて、スリムな体維持できるみたいだからクリマーも卑怯者っ!」
「何で私にとばっちりが来るんですかっ!」
理不尽。
でもたしかにコロコロした体型になるのは……。
ヤバい。
萌えそうだ。
……まぁそれはともかくだ。
別の日に休暇をとったクリマーも、体を変形させることができるため防具はあまり役に立たない。
ヨウミと同じようにファッション関係の買い物を楽しんだとか。
マッキーはずっと悩んでいたようだった。
武器が弓矢だから、体力と弓矢の強度を超える破壊力はない。
そんな悩みを解消する魔法の道具を探しに行ったんだそうだが、どれも今一つで収穫なしだったそうだ。
モーナーも軽装備の防具一揃いを買い求めてた。
「なんかあ、俺え、ちょっとお、強そうに見えるよねえ?」
元々強く見える奴だったから、何を言ってるのかちょっとよく分からなかった。
外食はこの村と隣村の間にあるから、ちょっとお出かけで行ける範囲。
だが他の買い物は、その隣村の更に向こう。
どの店も往復で一日以上かかる距離。
もちろん馬車などを使ってだ。
三日ほどまとめて休暇を取らせたのは正解だったな。
「はぁ~……マッキーちゃんがなぁ」
なんか馴れ馴れしくないか?
「それに……まだ見てないがサミーちゃん? そんなに食うのが好きなら、配達サービスもあるでな。もちろん誰でも利用できるんやが」
「ほう」
でも毎日ってわけにゃいかない。
ドーセンの方を利用して、地産地消の生活を心掛けたいからな。
「一応、チラシとかあったらもらっとこうかな。利用するかどうかは別として」
「あ、この店の入り口に置いてるよ。出る時に持って行きぃな」
「ああ。そうするか」
久々の紅丸との偶然の対面は、戦争関係とは無縁ということははっきりと分かった。
まぁこれだけでも収穫か。
けど、まぁ気になるところはまだあるってばあるんだよな。
そんなに深い付き合いにならなきゃ、そこまで気にする必要はないか。
それにしても、なんか俺の能力って……うそ発見器にもなってないか?
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