ここも日本大王国(仮) その8
時間が経てば経つほど、泉に近い場所にいるあの五人の命が危ない。
しかし、戦力にならない俺達が出張っても、事態は好転するわけがないし、もちろんそのことも分かってる。
くだらない会話をして気を紛らわせて、落ち着かない気持ちを誤魔化すことで精いっぱいなんだが。
「……地下から何かがこっちに来て……こっちに来る!」
「え?」
「ま、魔物かあ?」
いや、違うな。
魔物であるはずがない。
魔物の気配から敵意を感じたことはある。
それが全く感じられない。
それに最低でも十人の冒険者達が、こっちにこないように、そしてあの五人を救出しようと懸命に活動しているんだ。
それと、もしこっちに襲い掛かろうとする魔物なら、その割には移動速度はかなり遅い。
ほかにもそうではないと考える根拠はある。
その気配は何体か固まって動いている。
魔物なら、塊で移動することはあってもその状態でいられる時間や移動距離はそんなに長くはない。
ということは、何らかの意図を持つ者何体か集団で移動しているということだが……。
「ススキかき分ける音がするよ?」
ヨウミにも移動する音が聞こえているみたいだ。
俺の住む洞窟の前の地面は土がむき出しだが、そこはそんなに広くない。
比較的背の低いススキがその周りを囲っている。
だから村の様子は見えるし、ここで遭難するようなことはない。
だが草むらからは、崖は見えてもこの洞窟は見えない。
ここを真っすぐ向かってくるということは、予めここが目的地としているということだ。
ということは……。
「アラター! いるかー! 要救助者三名確保ー!」
何者かが草をかき分けるより先に、こんな声が聞こえてきた。
そして現れたのは、五人の冒険者に守られながらやってきた、あの四人組の冒険者のうちの三人。
その三人は肩をひくつかせながら泣きじゃくっている。
装備はボロボロで見る影もない。
どんな物を持ってたかは忘れたが、武器なども手にしていない。
命あっての物種だろう。
トラウマになってなきゃいいが。
などとのほほんとしている場合じゃない。
あと二人はどうしたのか。
「マッキーとエージが、まだ見つからない。俺達ももう一回突っ込んでみてくる。三人を頼む」
五人の冒険者達はすぐに踵を返し、ダンジョンに向かっていった。
最初に彼らがダンジョンに向かう際に、持たせるだけ持たせたおにぎりを、この三人は何個か食べたらしいな。
怪我などは回復で完治しているようだが、感情が収まらない。
それでもヨウミとモーナーが宥め、詳しい事情を聴いている。
五人一緒に退却するのは難しいと判断したエージは、マッキーと共に盾となって、三人を先に逃がしたらしい。
三人は絶対に五人一緒でなきゃダメだと主張したそうだが、戦力も装備の効果も何もかも足りない中で、それは現実的ではないと判断され、強引に言うことを聞かされたようだ。
一様に、二人を助けてくれと訴えてくるが、ここじゃ何を言われても状況を変える手はない。
それに話をさらに聞けば、救助しに来た冒険者達と遭遇した場所は、割と二人と離れた地点。
つまり、三人と出会えた場所よりも危険度は高くなっているとも言える。
「ど……どうしよう……」
「俺……やっぱり行って……いてぇ!」
モーナーもいても立ってもいられないみたいだが、やはりまだ痛みはあるようで、思う通りに体は動かせない。
「ヨウミ。こいつらに何か落ち着かせる飲み物を……」
俺にできることと言えばそんなことくらい。
だが……。
「誰かが猛烈な勢いでダンジョンに向かって行ってるな」
「え?」
「何か……地響きまで感じるけど……」
「誰かが助けに来てくれたのかな!」
泣きじゃくっていた三人は、何の根拠もない希望的観測に浸りたがっている。
一体誰が来るというのか。
その気配はいくつかあって、それも一塊になっている。
今ダンジョン内で起きている事態を知っている者じゃなければ、そんな勢いで進入する必要はないはず。
だから、泉現象が起きていることを知っている者達が村に入ってきた、ということだ。
だがその存在に心当たりはない。
芦名が改心して駆け付けるなんて考えられない。
「誰が来てくれたんだろう……。モーナー、分かる?」
「全然分かんないぞお……」
だが、その気配の一つは、どこかで感じ取ったことがあるような気がする。
誰かの気配と似たような……。
どのみち事態の成り行きを見守るしかない。
が、ダンジョンの入り口から驚きと悲鳴が聞こえてきた。
魔物の軍勢に返り討ちを受けたような感じじゃない。
単純な驚きだ。
そいつらがダンジョン内に突入していったんだろう。
怪我人はいてもいい。
だが犠牲者を増やすような真似だけはしてほしくないが。
しかし、その数分後、またも悲鳴と驚き、というか、驚嘆の声が上がった。
直後、誰かの「気を引き締めろ!」という大声が聞こえてきた。
それと同時に再び地響きのようなものを感じ、それが次第に近づいてくる。
「こ、こっちに来るの?」
「な、何が来るんだあ?」
俺に聞くな。
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