俺の仕事を、なんでお前らが決め付けるんだ その2

 これから新たな営業場所探しに出発しようというところにやってきた男一人と女二人の一般人。

 年は俺と同じような、まぁ大人だな。


「何の用です? ここからはもう立ち去るんで、何かの邪魔になるというなら心配無用ですが」

「いえ、そうではなく……この子を預かってほしいんです」

「この子?」


 三人の後ろにいたのは、膝の下くらいまでの高さがある白い体毛に覆われた……覆われた……。

 ……何だそれ?


「アミーバ、です」

「魔物なんです」


 伸縮自在。

 形状の変化も自在。

 その動きはライムと似てはいるが、体の表面を内部に取り込むような変化は見られない。

 スライムと別種か亜種といったところだ。


「預かってほしいんです」

「……断る」


 なんで預からなきゃならん。

 こっちの仕事は……。


「魔物を引き取ってくれるって話聞きましたけど?」

「何だそりゃ。俺の仕事は、この荷車を使って行商することだが?」


 丸っきり商人って言うつもりはない。

 ギルドに加入してれば言えるだろうがな。


「だって……そこのスライムも、天馬もいるじゃないですか」

「あのな、こいつは」

「この子も、お願いします」


 何でだよ。


「預かったら返さなきゃなんないよな? 俺は全国津々浦々、あちこち移動してるんだ。また戻ってきて返すだなんて」

「いえ、返す必要もありません。助けた魔物を預かって、一緒に生活してくれるって話を聞きました。行商は魔物を養うためなんですよね?」


 おいこら。

 俺達のことをまるっきり勘違いしてやがる。


「私達も、人間や魔物に襲われて衰弱している魔物や動物を助ける仕事をしてるんです。けれど、養っていくお金がなくて……」


 助ける仕事?

 助けられてねぇじゃねぇか。


「そういうことで、お願いしますね。では失礼します」


 今気づいた。

 こいつら馬車で来てたのか。

 荷車の中で仕事してたから、気配を感じ取ってからは詳細はノーマークだった。


「お、おいっ」


 三人は笑顔満面で何やら会話しながら馬車に乗って走り去っていった。


「……テンちゃん。こいつを返してこい。俺らは先に向こうに進んでるから」


 ライムは俺と一緒に来たがった。

 テンちゃんは俺のそばにいることを自ら望んだ。

 だがあの魔物は、俺に対して何も感じてない。

 あいつらにも何の感情もないようだがな。


 テンちゃんは、自分の背中に乗せた奴は移動している間絶対にその背中から落とさない力を持ってるようだ。

 引力とかがあるみたいだな。

 この魔物を咥えて背中に乗せると、馬車を目指して飛んでいった。


「やれやれ。誰だよ、変な評判立てたのは」

「……ライムもテンちゃんも目立つもんね。遠巻きに見て勝手にイメージされて、それを決め付けられちゃったのね」


 俺に言わせればこいつらは、俺に振り回されても構わない、というつもりでいる。

 ヨウミはどうだか分らんがな。

 けど、いくら弱ってて可哀想でも、元気になった途端に襲い掛かられる可能性もある。

 自分の価値観を他人に押し付けてくるのも気に食わない。

 今まで俺は押し付けられればそのまま受け入れて仕事をしてきた。

 けれどもだからといって、感謝されるわけでもなし。

 逆に仕事のミスも増えた。

 当たり前だ。

 自分の仕事のほかに人の仕事もさせられてたんだから。

 何度も断った。

 けれどそれを無視され、断った分それを給料に響かせることもあった。

 そんなしがらみのある世界から解放されてもなお、したくもないことを押し付けられるのはご免被る。


「あ、テンちゃん戻ってきた」

「ご苦労さん。……聞いても返事を理解できないけど、一応聞いとくか。返してきたんだろうな?」


 テンちゃんは首ばかりじゃなく上半身まで使って頷く。

 上首尾だったようだ。

 どのようにして返したかは不明だが。


「んじゃ次の場所、本腰入れて探すとするか」


 ライムは荷車から飛び出してテンちゃんの背中に乗る。

 テンちゃんは素知らぬ顔で歩き続ける。

 魔物同士では、仲は良いようだがべったり感がない。

 俺から見れば、まぁ良好な関係といったところか。

 ただ、ヨウミが問題だ。

 テンちゃんの背中にしきりに乗りたがる。

 言葉が通じない魔物より聞き分けが悪い時があるのは問題だよな、うん。

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