新しく仲間になったのは、レアなモンスターでした。こいつ……あざとい……。

「しかし、何だってこんなレアなモンスターがこんなとこにいるんだ?」

「ほんとよね。まぁ世の中にはプリズムスライムよりも珍しい魔物はいるし、どこにいようとそっちの勝手なんだけど」

「そもそもレアなのは、人目につかない所にいたがるから発見されることもほとんどないんだよな」


 冒険者達の雑談は続いてる。

 何の力が備わってるかは知らないが、よく見つけられたもんだ。

 遠くない場所とは言っても背の高い草が密集している場所に移動させたんだ。

 簡単には見つけられるはずはない。


「あ、出てきた。ってことは、もうずいぶん離れたみたいだね」

「あぁ、ありがとな、ヨウミ。あー、冒険者チームのみんなも助かった。サービスでおにぎり分は半額にしよう」


 全員が吹いた。


「おいアラタ。気持ちは有り難いが、おにぎり一個百円だろ? サービスって、一個につき五十円引いただけじゃねぇか」


 爆笑が起きた。

 笑うところじゃないと思うんだがな。

 百個も買ってみろ。五千円引きだぞ?

 うん、そんなに作る気はないが。


「あ、動いた」

「ん? あ、ほんとだ。なんか可愛い……キャッ」


 冒険者チームの女性が小さな悲鳴を上げた。

 そのスライムがぷにぷにと動き出し、いきなり飛び跳ねた。

 顔の表情や予備動作がなく突然動くものだから、誰だって驚くだろうが……。


「ぶっ! 重い重い! 降りろっ!」


 こいつはまたもや俺の頭に飛び乗った。

 器用なもんだ。

 俺はまだ、天井がある荷車の中にいるんだぞ?

 狭い中を良くもまぁ狙いを澄まして来れたもんだ。


 いや、そんなことで感心してる場合じゃない。

 首に負担がかかる。

 しかし人の言うことを理解できるのか、俺の頭に乗っかってきたスライムは、俺の体伝いに床に降りた。

 今度は足に絡みだす。

 好かれるのは悪い気はしない。

 だが足に纏わりつかれると歩きづらくてしょうがない。

 俺に好奇心はあるようなんだが……。


「随分アラタに懐いてるな。看板娘にマスコットキャラがいる行商なんて、人気が出ないはずはない、だな」

「普通のスライムじゃなくて、見た目もカラフルだし色が変わるし、目立つわよね」

「ならアレが看板娘で私がマスコットキャラ。どう? アラタ」


 マスコットにするには勿体ない綺麗さは感じられる顔と容姿。

 だがそんな談議で盛り上がる前にだな。


「いくら何でも懐きすぎだ。おいっ。お前、もう少し離れろ!」


 おにぎりを魔物にくれてやったことなんて何回もあったけど、こんな態度をとる魔物なんて初めて見た。


「名前つけてあげたら? どう見ても新たに甘えたい彼女って感じがするわよ?」


 俺以外の全員が一斉に吹いた。


「ル、ルミナさんっ! なんてこと言うんですか!」

「あら? ヨウミちゃんアラタのこと好きだったの?」

「なっ……! あ、う……」


 何赤面してんだか。

 今まで好きとか何とか、全く興味なかったくせに。


「おう、ヨウミ。俺なら言えるよ? 俺は君のすべてが大好きだー」

「ちょっとアラタ。何その棒読み」

「無機質すぎる……」

「血も涙もない物の言い方って初めて聞いたような気がする」


 俺、なんでこんなに責められてるんだ?


「……はぁ。何で私、こんなにからかわれなきゃならないのかしら。それよりそのスライムどうするの?」

「放置」


 即答かよ!

 と一斉に声が上がる。

 驚くことじゃないだろ?

 野良猫に懐かれたからって連れて行くか?

 こっちは村や町、都市を回って歩き、魔物で溢れかえりそうな場所を探す冒険者達を客にする旅商人だぞ?

 まぁトイレとか必要なさそうな分、手がかかることはなさそうだが。


 スライムが急に足から離れた。

 すると……。


「ポヨンポヨンしてるー」

「かわいー」

「……アラタ。そいついらないなら俺にくれ」


 床を何度も小さく飛び跳ねている。

 これは……あざとすぎる。

 俺にこいつをくれと言われてもだな、その決定権はどこにもないだろうに。


「何かだんだん可愛げがあるよう見えてきた」

「ひょっとして、ついて行きたいって意思表示じゃないの?」

「ところでお前ら、俺達だって魔物退治のために移動してる最中だ。俺もずっと見ていたいがそろそろ出発しないと、俺達の懐も寂しくなるぞ?」


 このスライム、魅了する力を持ってるのかと思ったが、ただこっちがそう感じ取れただけのようだ。

 無節操に特殊能力を発揮することもなさそうだし、心無い冒険者に捕らえられるのも可哀想か。


「そうね。じゃあまた会った時に触らせてねー」

「あ、あはは、それはアラタ次第ですね。またのお越しをー」


 いつものヨウミに戻ったか。

 さてあとは……。


「名前、つけるか」

「?!」


 何そのキラーンとした目は。

 まぁ一年以上も二人きりで行商だけやってれば、こんな刺激の一つも欲しくはなるか。


「スライムだから……ライムで」

「え……」


 なんだよ。

 名前つけるだけでも文句あるのか?


「レアな特徴があるんだから、そっち絡みの名前にしない?」

「魔物の特徴を掴んだ分かりやすい名前だろ?」

「アラタって時々捻くれたアイデアとか言い訳とかするわよね」


 捻くれてんじゃないんだよ。

 俺はもう、率直な意見をまず先に出すことにしたんだよ。


「ふん。……これからお前、ライムって名前だからな。いいな?」


 何と言うか……ぴょこぴょこ飛んでうざったい。

 怒ってるのか喜んでるのか分からんな。


「……ったく、また足に絡みつく。何なんだよこいつは」


 喜んでる感情を出している。

 動きばかりに囚われて、こいつの気配のことをすっかり忘れてた。


「いいなー。私もこんな相棒欲しいなー……。あれ?」


 今度はヨウミの足にすり寄っている。

 これは間違いなくあざとさを出してる。

 意外とそういう計算高さはあるのか?


「あはっ。かわいー」


 その計算にハマってる人間が一人。

 魅了の術を持ってるとしたら、こいつ相手ならそれを出すまでもないんだろうな。

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