第6話 待っている

俺は静かに『奴』を待っていた。


普段用心深い『奴』が一人でやって来た。


余程頭に来ていたのか?


それ程ユウジに惚れているのか?


倉庫に入って来るなり、椅子に縛られたユウジを見て


「ユウジ、大丈夫か?」と大声を出した。


「早かったな」と俺が言うと


「お前か? ユウジをこんな目に遭わせたのは」


目が血走ってる。


今にも殴りかかって来そうだ。


「まあ、落ち着け。ゆっくり話をしよう」


俺は時間稼ぎをする。


「ふざけるな。直ぐにユウジの縄をほどきやがれ」


「お前でも人の心配する事があるんだな」と俺は挑発する。


奴が近ずこうとしたので


「それ以上近ずくとこいつがどうなるか分からないぞ」と俺が脅すと

「お前、俺の事舐めてるのか? どうなるか分かってるか?」奴が喚く。


「女にしか手を出せない奴が大きな口を叩くな」


「何だと。この野郎」


『奴』は顔を赤くして怒り狂ってる。


その時、俺の携帯がなった。


マサからだった。


俺は『奴』を睨みながらマサの話しを聞く。


話しを聞き終わると俺は更に怒りを膨らませていた。


携帯を切って、俺は『奴』に無言で近ずいて行く。


『奴』は殴りかかってきた。


俺は軽く右側に避けて、ボディに思いっ切りアッパーを入れる。


『奴』はくの字になる。


俺は顔を蹴り上げた。


奴が仰向けに倒れる。


『奴』は体を起こそうとするが力が入らないようだ。


「畜生、きさまは必ず殺してやる」と『奴』が喚く。


俺はゆっくり近ずいて行き

「お前みたいな弱虫に俺は殺せない」


『奴』の顔が悔しさで歪んでいる。


俺は馬乗りになり『奴』の目を睨みながら

「お前はもう終わりだ」と言って顔に何発か入れてやった。


『奴』はもう意識を無くしていた。


俺は立ち上がって、『奴』を見下ろす。


変わった靴を履いているのが目に焼き付いた。


次にユウジの所に行く。


ユウジは青ざめて震えていた。


俺は縄をほどいてやり

「お前の恋人は弱いな。それに変な靴を履いている」と笑うと


「兄貴のお気に入りでルブランの靴です」と震えながら答えた。


「そんな事はどうでもいいんだ」と言ってユウジにも顔面にストレートを入れておいた。


ユウジは一発でのびてしまった。


遠くにパトカーの音が聞こえてきた。


俺は用意してあったバイクに乗り、パトカーの音のする反対に向けて走り出す。






明美は救助された。


マサは倉庫から出ると直ぐに『奴』のマンションに行き、管理人に『奴』の部屋で急病人が出たと言って救急車と警察を呼んでもらった。


と、同時に明美の祖父母に連絡して来てもらう。


慌てる管理人を急かして『奴』の部屋のドアを開けさせると、そこには全裸で首輪と足にも鎖で繋がれた明美がぐったりしていた。


管理人が驚いている。


マサはそこで俺に電話をかけ、状況を説明し、命に別状はないが、所々に殴られたん跡が有ること、精神的にかなり参って要ること等を伝えた。


それを聞いて俺の『奴』への怒りは頂点に達した。


マサは管理人に『奴』は町外れの廃屋の倉庫にいると伝え、警察が来る前にマンションから姿を消した。


遠くに止めた車に乗り、祖父母がマンションに到着したのを確認してから、事務所に戻って来た。


その後警察は廃屋の倉庫でのびている「奴」とユウジを発見した。


『奴』は誘拐、暴行、監禁等の容疑で有罪。

ユウジも誘拐の共犯で有罪となった。


俺達についてはお咎め無しだ。





一応依頼は解決した。



明美は精神的に壊れてしまって、今は精神病棟に入っていると言う。


祖父母にしてみれば残酷な現実だ。


哀しみは計り知れない。


後味の悪い事件だった。


もっと早く解決してあげれば・・・


俺は警察の怠慢に腹がたっていた。


何故祖父母の訴えに真剣に耳を貸さなかったのか?


お巡りが訪問した時に何らかの異常に気がつかなかったのか?


お役所仕事にも程がある。


もっと頭と心を使え。


やはり警察は充てにならない。



その後俺は直ぐ探偵を辞めた。

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