第6話
「おぉ、ここが安寧の光! 闇祓いの方々が多くいらっしゃる鍛錬の地!」
決して豪華なつくりではないが、たしかな歴史を感じた。数多の闇憑きをほふり、京楽を守ってきた闇祓いの歴史を感じた。
「違うぞ? 鍛錬の地ではないぞ? 皆の者、紹介したい者がいる。集まってくれ」
雪花が集合の合図を出すと、両脇の長屋からぞろぞろと黒い服を着た闇祓いが集まってきた。約50人ほどだろうか。
またそれとは別に中央の大きな建物から4人が現れた。
羽織にそれぞれ番号が記されている。彼らが番付きだ。
安寧の光の上位に立つ者たちだ。そしてどの者たちもまた雪花とやや距離をとって膝まづいた。
多くの人たちが雪花を避けるのには理由がある。まずはその特異な体質のせい。そしてもう1つは、安寧の光に最年少で最上位にあるため畏敬を抱き近づき難いのだ。
故に、幸光が雪花の隣に立っていることは他の闇祓いからよく見られていない。
「この者は妾が闇憑きを倒した際に声をかけた。そして妾の祓い子となる。幸光、自己紹介を」
「はい!」
幸光は一歩前に出た。
「天羽 幸光と申します! 父、霧鳴より闇祓いに入隊し多くの人を救うよう修行を課せられました。多くの人を救えるよう努力いたします!」
幸光の京楽の外へも聞こえるのではないかと思うほどの大きな声の自己紹介に驚く者と『とある名』に驚く者の半々に分かれた。
「幸光殿と申されたか。父上の名をもう一度聞かせてはもらえまいか?」
赤い髪を後ろに結わえた男。彼の名は力剛 馬翔。5番の闇祓いだ。
鍛えられたと見てわかるその筋肉と恵まれた体格から振り下ろされる刀は岩をもたやすく両断する豪剣の持ち主だ。
馬翔が気になったのは幸光の父の名だ。それは無理もない。幸光の父・天羽 霧鳴は歴代最強の闇祓いなのだから。雪花は幸光の名前を聞いた時に一瞬気にはなったが、世界には同じ苗字など多くいると考え特に気にしなかった。
「父は天羽 霧鳴 。昔闇祓いをしていた、と聞いております!」
幸光は知らなかった。なぜあれほどの力を持つ父親が闇祓いをやめたのか。
その答えはすぐ知ることとなった。
目にも留まらぬ速さで番付きの4人が刀を抜き、幸光の首をとらえた。一歩でも動けば幸光の首は斬られるだろう。
「雪花様、この者はあの闇憑きと交わった大罪人の息子でございます。今すぐにでも首をはねる許可を」
幸光の父・天羽 霧鳴は闇憑きである妻・椿と交わった。それ故に裏切り者、そして大罪人として闇祓いを辞めることとなった。
「ならん」
「何故ですか!? あの裏切り者の首ですぞ!」
雪花は考え込んだ。前から不思議に思っていたことだ。
「霧鳴の妻、椿は人を殺したのか? 誰か傷つけたか? 誰かそういった報告を受けたか?」
その場にいる全員が黙り込んだ。
椿は闇憑きでありながら完全に理性を保ち、その力を完全に御した。その危険性から安寧の光は椿を即刻排除しようとした。しかし、それを霧鳴が止めたのだ。
なぜ罪を犯していない者を殺すのか? 罪を犯す危険性など人であろうとなかろうと変わらぬだろう。危険のないと判断した人は殺さない。それでも殺すというのなら俺はそれを許さない。
こうして霧鳴は椿を連れ人里離れた山に住む事にしたのだ。闇祓いが闇憑きと交わった。これが霧鳴が闇祓いを辞めた理由だ。
罪を犯していない者を殺すのは間違っている。闇憑きなのだから罪を犯すに決まっている。
雪花は前者の考えだった。
「あの男の息子ならば、その血に闇が混じっているのもまた事実。早期に殺すべきかと我輩は思う」
「僕もそう思う」
3番と4番、5番は後者の考えだった。
「お前はどうだ雛」
「んー、私はどっちでもいいかな。ただこの子が人を傷つけると言うのなら私は許さない。この子の親のことは別にどうでもいいかな〜」
春菊 雛。雪花に最も近い年齡、そして最も近い実力を持つ2番の闇祓いだ。
番付きは全員が戦闘術において異様に発達している。その中でも、雛は剣術において他の番付きよりも抜き出て発達していた。その実力は雪花でさえも剣術だけであれば勝てるかどうか怪しいところだ。
「ならばその刀をどけよ。その者は妾の祓い子ぞ」
周辺の空気が下がった。雪花の感情が動いた。それを察した番付きたちはすぐさま距離を取った。
「や、やだなー雪花ちゃん。冗談だよー! ね、みんな?」
これに関してはもはやどうしようもない。圧倒的な力量の差があるゆえに引き下がるほかない。
「冷えてきましたね。大丈夫ですか雪花殿」
幸光は自分が羽織っていた袴を雪花に羽織った。「夜の風は冷たいですからね」などと言っている幸光をただ呆然と眺める闇祓いたちと若干頰を赤らめる雪花。
京楽の安寧の光には少々異様な光景があった。
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