第十一話  ついにできあがった漢の汗と努力の結晶

「…………でーきたぁー!!」

「おっしゃあーーー!!」

 ついに完成したオリジナルバックギャモンボード!!

 開閉機能もばっちり! 持ち手もある! 中はフェルト敷き! ニスでつやつや! 外側も一真によるデザインが施されている! チェッカーはサイズ合わせてホームセンターで切ってもらった! ダイスカップは既製品をアレンジ! サイコロはさすがに既製品のまま! ダブリングキューブも既製品をアレンジ! もちろん日付と制作者二名の名前入り!

「ついに……ついに完成したか……!」

「兄ちゃん、ありがとな!」

「おう!」

 俺たちは手を握り合った! これぞ漢の友情だぜ!!

「初プレイはおじさんとするのか?」

「そうするよ! 次は兄ちゃん対お父さんなんだから、今日の夜うちに来てくれよな! お父さん帰ってきたら知らせるからな!」

「おっし、なら今から俺の持ってるボードで練習だな! 持ってくるぜっ」

「よし!」

 俺は自分のバックギャモンボードを取りに部屋へ行った。


 俺と一真はリビングでバックギャモンの訓練をした。

 一真はさすが古河原家というべきか、小六にして俺の力を上回っている感じだ。俺の勝率は四割くらいかもしれない。

「一真つえぇーなー。もう俺じゃ練習相手にならないかもしれないぞ?」

「そんなことない! 兄ちゃんと練習したから父さんと戦えるようになったんだぞ!」

「一真……お前ええやっちゃな……」

 漢の友情は永遠だぜ!


 夜になり、ごはんを早めに食べ終わるとインターホンが鳴った。

 俺は玄関を開けると、一真……じゃなく美麗がいた。薄紫色のブラウスに薄オレンジのスカート装備。

「美麗かーいっ」

「一真から雪を連れてきてと頼まれたわ」

「よし、出撃するかっ」

 俺は「美麗ん家いってくるー」と言って靴を履いて出撃した。


 めちゃくちゃ短い距離だけど、夜に美麗といるってなると、この前の祭のあれを思い出す。

「なぁ美麗」

「なに?」

「げ、元気か?」

「ええ」

 うん。俺の知ってる美麗。

「雪は宿題を終えたのかしら」

「まだ。といってもあとは英語だけだけどな」

「それじゃあ明日の朝なんてどうかしら」

「おっけ」

 美麗のおかげもあって、夏休みの宿題は明日終えられそうだ。

「どうだ美麗、この夏は充実しているか?」

 俺は両手を後頭部のとこで組みながら言ってみた。

「ええ」

「俺も、なんかこの夏はいつも以上に美麗と一緒にいた感じだな。気のせい?」

「どうかしら」

 なんてしゃべってるともう着いちゃった。


 俺ん家よりもでけぇリビングに古河原家全員がそろっていた。

 おじさんとおばさんが黒くて長いソファーに、紗羽姉ちゃんが一人用の黒いソファーに座っていて、一真は別の黒くて長いソファーに一人で座っていた。みんなそれぞれにコーヒーやジュースとかを飲んでいたようだ。

「雪くんいらっしゃーい!」

「こんばんは、いらっしゃい」

「よく来てくれたね。一真がさっきからそわそわしているのだが雪くんがいないとだめだの一点張りでね」

「兄ちゃん! ついに見せるときがきたな! 取ってくる!」

「おう!」

 一真はぴゅーんって俺と美麗の間を抜けて自分の部屋に隠してあるであろう努力の結晶を取りに行った模様。美麗はなんかこっち見てる。

「な、なんだよ」

 でもこっち見てるだけだった。

「座りましょう」

「おぅ」

 俺は古河原家のソファーに座った。あーゆったり。美麗は俺の右隣に座った。

「雪くんおいしいメロンジュースあるよ、飲む?」

「まじ? 飲むっ」

 紗羽姉ちゃんがにこにこしながら立ち上がった。


 紗羽姉ちゃんに出してもらったメロンジュースを美麗と一緒にうまうましていたら、どたどた響く一真の足音が近づいてきた。

「雪くんは一真と仲良くしてくれているようだね」

「漢の友情は永遠だぜ!」

 俺は親指を立ててキメた。

「お父さん!」

「なんだね?」

 一真は背中に努力の結晶を隠しながら接近してきた。

「兄ちゃんが夏休みの工作手伝ってくれたんだ!」

「そうか、いつもすまないね、雪くん」

「どってことないやい!」

 もっかい親指を立ててキメた。

「お父さん……見て驚け! 作ったのは、これだーーーっ!!」

 ついに一真は努力の結晶をおじさんに披露した!

「ほう? これは箱かな? 絵も凝ってるし持ち手とちょうつがいまで付けて、なかなかうまくできているじゃないか。ニスもうまく仕上げている」

 おじさんは外観をチェックしているが!

「ん? なにか中に入っているのか? 開けていいのかな?」

「テーブルの上で開けてくれよな!」

 おじさんは努力の結晶を濃い茶色の木のテーブルの上に置き、ふたつの留め具を外し、ゆっくりと開いた。

「こっ、これは!」

「まあっ」

「うわ! 雪くんたちが作ってたのってこれ!?」

「どうしてお姉ちゃんは知っているのかしら」

 そこに現れたのはオリジナルバックギャモンボードだぜ! じゃじゃーん!

「お父さん、バックギャモンやろうぜ!」

 おじさんすげー驚いてる感じ!?

「一真、これは本当に一真が作ったのか?」

「おう! 兄ちゃんと紗羽姉が証人だぞっ」

 おい美麗なんでそこで俺を見てくる。

「……弓子、信じられるか……雪くんの力を借りたとはいえ、ここまで作り込んだとは……」

「一真も大きくなったわね」

 おじさんとおばさん感動してくれてるぞっ!

「なーお父さんやろうぜ!」

「ああ、そうだな、よしよし。お父さんは黒い駒にしよう」

「よーし! 勝負だ!」

 一真とおじさんによる戦いが始まった!

「ってだからなんで美麗ずっと俺見てんだよっ」

「どうしてお姉ちゃんは知っているのかしら」

「いきなりアイス届けにきたときにゴニョゴニョ」

 美麗は視線を外してくれなかった。


 一真とおじさんの対決は5ポイントマッチで行われ、結果、5対2でおじさんが勝った。やはり強かった。ダブリングキューブさばきはさすがである。

「だー負けたぁー!」

「いつでも相手になろう、はっはっはっ」

 メロンジュースうま。

「兄ちゃんもお父さんと戦え! オレのかたきを討ってくれ!」

「任せろ!」

「いいだろう、雪くんと戦うのは楽しいからね」

「美麗。俺、やっつけてやるぜ!」

「頑張りなさい」

「雪くんファイトよー!」

「任せろ!」

「おいおいみんな雪くんの応援か?」

「私も雪くんを応援しようかしら?」

「そりゃないよ。でもここで弓子にも強さを見せておかないとな」

 俺はソファーという名のバトルシートに着いた!


 一真と同じくおじさんとは5ポイントマッチで対戦。結果、5対1でぐぉぉ俺負けたぁ。

「うまくギャモン勝ちをものにできた。雪くん、また戦おうじゃないか」

「くぅ~! 出直してくるぜー!」

「兄ちゃーん!」

「私の雪くんがー!」

「また来るといいわ」

「さすがね、お父さん」

 俺は元の席に戻ってメロンジュース飲みきった。ぐすん。

「こんな立派な物を作ったとは。しっかり対戦できるじゃないか。展示を終えたら家で使っていいかい?」

「お父さんにやるよ! いろんなとこに持っていって自慢していいぞ!」

「一真……」

 うぉーええ話やぁー。一真太っ腹すぎぃ!

「お父さんは仕事を頑張るからな。雪くんも手伝ってくれてありがとう」

「いえいえ! じゃ俺帰るぜ!」

「そうか。今度またゆっくり話そう」

「また来てね」

「雪くんまたねー!」

「兄ちゃんじゃあな!」

「送るわ」

「お、じゃいくかっ」

 俺はみんなからばいばいされながらリビングを出た。美麗付きで。


 美麗と一緒に外に出た。すっかり暗い外。

「いやーうまくいってよかったよかったー」

 俺、満・足!

「知らなかったわ」

「そりゃ漢同士の固い結束だからなっ」

「よくわからないわ」

「そりゃ美麗女子だからなっ」

 なんだかすがすがしい気分だぜ!

「雪は工作が得意なのかしら」

「別に得意ってほどでもないが、一真の小一から六年間毎年作ったことを考えるとなぁ。自分の分も作ってるわけだし」

 お、美麗ちょっと笑った。

「いいお兄ちゃんね」

「妹美麗か……悪くないな」

「どうしてそうなるのかしら」

「美麗、試しにお兄ちゃんって呼んでみるんだ」

「どうして?」

「いいから、さあっ」

 俺は両腕を広げた。

 美麗は俺を見ている。

「……お兄ちゃん」

 ずきゅーん!

「いい響きだ」

 美麗のほんのちょっぴりてれたような表情がまたGood!!

「……でも、わたくしは雪が同い年でよかったと思っているわ」

「ほぅ? してその理由はっ」

 美麗の溜め。タメだけに。

「……一緒に学校を楽しめるからよ」

「そりゃそうだな!」

 美麗はちょこっと笑っていた。

「明日、待っているわ」

「おぅ! おやすー」

「おやすみなさい」

 俺の家に着いたので、美麗は帰っていっ

「あ、美麗っ」

 たが美麗を振り返えらせ、俺はまた再接近。

「……こらっ、また触るの……?」

「あーすべすべさらさら」

 美麗の髪さらさら。頭もなでなでしとこ。

「……もういいでしょう?」

「いいじゃん減るもんでもなし! もうちょいっ」

 なでなですべすべさらさらさわさわ。

「……満足したかしら」

「いくらでも触ってられるが……じゃこの辺で」

 ぶーぶー言いながらも触らせてくれる美麗天使っ。

「おやすみなさい」

「おやすー」

 やっぱり美麗はちょびっと笑って帰っていった。

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