第四場 - 街頭にて

『さあぁ〜今年も始まりました我が校の体育会! 

 プログラム第十四番、栄光学園名物・”借り物競争”の時間です! 


 その時その瞬間必要なものを! 並み居るライバルたちを出し抜いて、自分たちの手で掴む事が出来るか!? 栄光の架け橋を駆け抜け、目的地ゴールへと無事届ける事が出来るか!? 


 実況は私斎藤、そして解説は一年生の、松原ロレンスさんです! 松原さん、よろしくお願いします!』

「よろしくお願いします。

 借り物競争って、そんな大げさなモノじゃ無いと思いますけど。

 それより、たかが高校の体育祭に実況って、貴方は何者なんですか」

『今年も各ブロックから、選りすぐりの猛者たちが続々とこのレースに参加表明をしています!

 注目すべきはやはり! 初参加、赤ブロックの一年生・ロミオ&ジュリエットコンビでしょう。

 

 その端正な見た目ルックスと親しみやすい性格で、瞬く間に我が校の人気者になった二人。今年の”全国高校生カップルすいか割り選手権”では、全国六位ベスト6にまで勝ち進んだ実力者でもあります!』

「あれ? あの決勝大会は、七組のカップルで争ってませんでした?」

『実は決勝大会中、一組カップルが破局しまして……。繰り上げ当選で、お二人が第六位に……』

「あっ……それは、失礼しました」

『いえ、こちらこそ……。ただ今回は、カップル限定じゃないですからね! 誰も破局しないで済むでしょう。さぁ! 白熱の”借り物競争”、間も無くスタートです!!』


□□□


『まずここで、今回から初めて”借り物競争”を見るという視聴者の皆さんのために、簡単にルールを説明しておきましょう。本大会は何と全国三十六局ネットを通じて、日本中で生中継されています!』

「何のために?」

『ルールは簡単!


 競技者は、二人三脚で四〇〇メートルのトラックを一周するだけ。

 ただその所々に机と椅子チェックポイントがあり、そこには紙が置かれています。

 競技者は紙に書かれた”様々なもの”を借りてこないと、先に進めません。


 紙に書かれた”お題”は実に様々。

 ”丸いもの”であったり、”硬いもの”であったり……”借り物”を如何に速く見つけてくるかが、このレースの鍵と言えるでしょう!!』

「改めて、何のために?」

『さぁそうこう言っているうちにスタートのピストルが鳴ったぁ! 各コンビ一斉に走り出しました!』

《実況の、斎藤さん?》

『はい!』

《私、レポーターの藤木です。応援席からの情報ですが、何でもロミオ&ジュリエットコンビのお二人は、友人の田中君から毎日常に何かを借りていて、それが練習になっていたそうです》

「それってただ、良いように利用されて『なるほど、分かりました!

 

 藤木さん、ありがとうございます! 藤木さんにはこれから実際に現場で、選手たちの様々な情報をお伝えしてもらう予定です! おぉ〜ッと、ここで!?』

「強引だなぁ」

『選手たちが最初のチェックポイントにたどり着いたようです。審判員から出されたお題は……”楽しいもの”! なかなか難しいお題ですが、各選手それぞれ”楽しいもの”を探してあちこちに走り出しました。


 注目のロミオ&ジュリエットコンビが向かったのは……同じクラスの、田中の元です!

 嫌がる田中の手を引っ張って、強引にチェックポイントに引き返して来ます!』

「実に楽しい光景ですね」

『審査員の判定は……○! 合格です! 二人の持って来た田中が、”楽しいもの”として認められました。一歩リードしたのはロミオ&ジュリエットコンビ! 

 次のチェックポイントに向かいます……遅ればせながら、他の選手たちもそれぞれ二人を追いかけます。


 次のお題は……”和むもの”!

 これはちょっと難しいか!? 皆悩んでいます……青ブロックの宇佐木&亀田コンビは、中庭の飼育室に鶏を取りに走り出しました。そんな中、ロミオ&ジュリエットコンビが向かったのは……田中の元です!!

 嫌がる田中の足を引っ掴んで、強引にチェックポイントに引き返して来ます!』

「実に和やかな雰囲気ですね」

『さぁ、審査員の判定は……○です! 田中は、”和むもの”だった!』

「私としては第一の判定も、全然納得してないんですけどね」


『第二関門で、約半数の選手が手こずっている中、ロミオ&ジュリエットコンビが快調に進んで行く!


 第三のお題は……”四角いもの”!

 ロミオとジュリエットが選んだのは……田中です!!

 嫌がる田中をズルズルと引きずって、強引にチェックポイントに連れて来ました!』

「田中って、漢字にたくさん□がありますもんね」

『これも合格! ○判定です! 現在ぶっちぎりの第一位で、二人が最終コーナーに入ったぁ!』

「二人とも、頑張れ!」


『最後のお題は……”大切なもの”! 

 もちろん二人が借りに走ったのは……』

「田中でしょ?」

『そう! 田中の元です!!

 嫌がる田中の髪の毛を引っ張って、強引にチェックポイントに帰って来ます!』

「これは大切なものが、何本か抜け落ちそうですね」

『そのままゴオオオオォォォォオル!!


 今年の栄光学園借り物競争を制したのは、赤ブロック・ロミオ&ジュリエットコンビです!! 髪の毛とともに、ゴールテープが宙を舞います!!』

《実況の、斎藤さん!?》

『藤木さん、どうぞ!』


《こちらでは、続々と選手たちがゴールして来ています。早速インタビューしてみましょう!

 まずはロミオ&ジュリエット選手。堂々の一位おめでとうございます! お二人とも、今のお気持ちは如何ですか?》

「ありがとうございます!」

「漢字が苦手だったから、とりあえず田中くんを連れて来たんだけど、何故か勝っちゃったわ」

《なるほど。 

 それでは次に、最も多く借り物にされた田中くん。今のお気持ちをどうぞ!》

「人を指差して借り物って言うなよ!」

《頭は大丈夫ですか?》

「大丈夫じゃないよ! やめちまえ! こんな馬鹿げたレース!!」

《以上、現場から藤木でした!》

「聞いといて無視すんなよ!」

『藤木さん、ありがとうございました! それでは引き続き、運動会の様子をご覧ください!!』 

 

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