ロミオとジュリエットと俺

てこ/ひかり

第一幕

プロローグ - 序詞

「実はね、私……ロミオに言っておかなくちゃいけないコトがあって」

「うん」

「私……私、ロミオのコトが大好きなの!」

「うん」

「もう本当に大好き……。初めてホームパーティでお見かけした時から、心臓がドキドキしっぱなしで」

「知ってた」


「気がつくと、あぁ、何をしていてもロミオのコトを考えちゃうのよ! 授業を受けている時もロミオ、ベッドで寝っ転がっててもロミオ、咳をしていてもロミオ……好き。もうロミオ、大好き」

「重症だな」

「ごめんなさい、出会ってすぐこんな話……きっとロミオに、重い女だって思われちゃうかしらね?」

「さぁ、どうかな。俺はロミオじゃないから……」


「だけど、一目惚れって本当にあるんだなって。ロミオと付き合うコトになって、本当に良かったなって。今、毎日が新鮮でたまらないの!」

「そうなんだ」

「この間なんかね、一緒に映画観に行くことになったじゃない? 本当は隣町まで、電車に乗って行く予定だったんだけど。時間が余るから、バスで行こうって彼が言い出したの!」

「なるほど。興奮するポイントがイマイチ分からん」


「分からない? 時間をかけてバスで行こうって、つまり『もっとジュリエットと一緒に居たい、もっと長く同じ時間を過ごして居たい』って、こういうコトなのよっ! キャアアッ!!」

「そうなの?」

「そう。言葉にはしなかったけれど、きっとそうなの。それで私たちお互い見つめ合ったりなんかしちゃったりして……最高だと思わない?」

「どうかな。俺はロミオじゃないから……」


「でね、それでね。帰りに途中でお婆さんが乗ってきて……ロミオったらそれを見て、すぐ席を立って譲ったの」

「いい男だな。どうか末長く御幸せに」

「もうね、惚れ直した。デートの最後には……はぁぁ、思い出すだけで、顔が紅くなっちゃう。ねえ? ロミオもきっと、私と同じ気持ち……私のコト思い出して、ドキドキしてくれてるのかなあ?」

「分っかんねえよ! 俺はロミオじゃねえからあ!!」

「何急に怒ってんの?」

「別に怒ってねーし」


「フーン……じゃあね、また。あ、そうだ」

「まだ何かあるのか」

「来週ロミオと水族館行くコトになったから、田中君も一緒に行こ?」

「ヤだよ!!」

「なんでよ? 一緒の方が楽しいじゃない。私、田中君のコト好きだよ?」

「何だよ急に」

「でもごめんなさい。私それ以上に、ロミオが大好きだったの」

「だから何だよ急に!」


「まぁまぁ。私たち日本に来てまだ間もないから、二人きりだとちょっと不安だし。お隣さん同士、仲良くしようよ」

「俺は通訳かよ。大体な。この間の映画だって、両隣から手を握り合うもんだから、俺ずっとお前らの手がジャマで画面が良く見えなくて……」

「フフ。じゃあ、また来週ね!」

「聞けよ! 俺、もうバスは嫌だからな!! 狭くてしょうがねえんだよ、あんな人間サンドイッチ……」

「サンドイッチがどうしたんだい?」


「あ……ロミオ」

「やあ、一郎。この間はどうもありがとう」

「あぁ……だけどもう、バスは無しにしようぜ。お前らに挟まれてる間、俺、何してればいいんだよ?」

「HAHAHA! リラックスしてくれよ一郎。それより僕、ジュリエットにどうしても言いたいコトがあってさ」

「あぁ……うん」

「僕……僕ジュリエットのコトが、大好きだ」

「うん」


「こんなコト言うのはちょっと照れ臭いけれど……僕、初めてホームパーティでジュリエットを見かけた時から、彼女のコトが片時も頭を離れないんだ」

「だろうね」

「一目惚れって言うんだろうね。彼女と付き合えるコトになって本当に良かった。ジュリエットも同じ気持ちだったら、こんなに嬉しいコトはないよね」

「知らんよ。本人に聞けよ。俺はジュリエットじゃないから」


「まぁまぁ。そう僻むなよ。一郎には、僕ら本当に感謝してるんだよ」

「俺、何もしとらんけどね。大体間に挟まれてるだけだし……」

「それが大事なんじゃないか! もっと自信を持って、一郎。君がいなかったら、僕らは具のないサンドイッチだ。バンズだけのハンバーガーだ!」

「なるほど。例えがイマイチ良く分からん」

「ここだけの話……僕の実家って皇帝派で、ジュリエットは教皇派だろ?」

「そんなん知らんけど」


「それなんだよ! 一郎がどっち派でもないから、とっても有難いんだ。巨人ファンと阪神ファンのカップルみたいなものさ。君が間にいてくれるだけで、僕らどれだけ助かってるか」

「そうなの?」

「そうだよ! これからもお隣さん同士、よろしく頼むよ」

「だからって、わざわざ俺を挟んで両隣に引っ越してくるのも、どうかと思うよ」

「HAHAHA!」

「笑って誤魔化すんじゃねえよ。まぁお前らがそう言うなら、俺もできるだけ付き合うけどさ……」

「ありがとう、一郎! じゃあ、また来週水族館でね。あ、そうだ」

「まだ何かあるのか」

「これ、僕らが両側から食べて余ったサンドイッチの具だけど、いる?」

「いらねえよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る