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池田蕉陽

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「あーしたてんきになーーーれ」

 天気くんの下駄が天を翔けた。僕は胸の前で両手を組みながら、その先を追うように目線を動かせる。首を上に向けたところで太陽と下駄が重なり、僕の視界はシャットダウンされた。僅かな光だけが眼球に差し込んでいるという中、少し先の方でコトンと音がした。

「よっしゃー!」

 瞼を開けると同時に耳に入ってきたのは、親友である悠介くんの歓喜の雄叫びだった。それもそのはず、砂の地面に落ちている天気くんの下駄が表だったのだ。悠介くんの喜びは僕に伝染し、僕も「やったー!」と声を上げていた。

「智樹! これで明日は遠足に行けるぞ!」

「そうだね! お菓子何持っていこかな」

 僕と悠介くんは完全に浮かれていた。当然だった。天気予報では明日は間違いなく雨だと言われていたのに、天気くんの下駄占いで、それが覆されたのだ。

「よかったね」

 ブランコから降りた天気くんが冷めた口調で言った。そして変わらない無表情。僕は天気くんの喜怒哀楽の表情を見たことがなかった。もっと笑えばいいのにと僕は思う。天気くんも僕と悠介くんと一緒でまだ小学生のはずだ。

 それとも、天気くんには感情といった概念が存在しないのだろうか。そんな人間、果たしているのだろうか。そもそも天気くんは人間なのだろうか。翌日の天気を百パーセント的中させることなんて人間に可能なのだろうか。

 悠介くんはそんな天気くんのことを占い師だと言っていた。悠介くんのおばあちゃんがそうみたいで、その影響を強く受けているのかもしれない。しかし僕は占い師という表現に納得が出来ないでいた。占い師を見たことはないが、何かもっと別のものを感じるのだ。

 最初に天気くんと会ったのも今僕達がいる公園だった。運動会の前日で「智樹、明日の天気どうなるかなー」「明日は晴れってテレビで言ってたよ」という会話を二人でしている時に、突然後ろから「僕が教えてあげるよ」と天気くんが現れたのを覚えている。

 その日も天気くんはブランコ下駄占いをして、裏という結果を出し、僕と悠介くんはそんなはずないだろと馬鹿にしながら翌日の雨を迎えることになったのだ。

 そこからついたあだ名が天気くん。本当の名前は知らない。天気くんについて何を聞いても教えてくれないのだ。そして僕達が天気くんの力に頼りたいと思った時にだけ現れる。普通に公園に遊びに行った時や、天気くんについて知りたいと思った時に出向いても天気くんはいない。それらが天気くんが占い師とは何か違うと言える根拠だった。

「なあなあ天気くん。天気くんって下駄占い以外にもなにか占えるのか?」

 突然、悠介くんがそんなことを言い始めた。僕も聞きたかったことだけど、どこか怖くて口にしなかったことだ。

「うん」

 天気くんがそれだけ言った。僕は唾を飲み込んだ。

「まじで!? じゃあさじゃあさ十年後、俺はどうしてる!?」

 悠介くんが食い入るように身を乗り出している。

 十年後といったら、もう僕も悠介くんも就職してる歳だった。悠介くんはきっと将来の夢であるサッカー選手になれているか知りたいのだろう。

「十年後、君は智樹くんに殺されていて、もうこの世にはいないよ」

 視線を感じる。悠介くんが隣でじっと僕を見ているのがわかる。

 でも僕はそんなくだらない未来よりも、天気くんの笑顔から目が離れないでいた。

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