第371話 おせちと後輩ちゃん
一月一日、お正月、新年の初日、と言っても、宅島家では特別変わったこともなく、皆平常運転を行っていた。
父さんと母さんは仲良くイチャラブし、後輩ちゃんは俺の足の間に座ってもたれかかり、俺は桜先生の足の間に座って背後から胸を押し当てられながら抱きしめられ、楓はよくわからない。たぶん、親と俺たちのイチャラブを見せつけられて興奮すると同時に、寂しくて彼氏の裕也にメールを送っているのだろう。
楓、どんまい。
それにしても、この状況を世の男たちが見たら嫉妬と憎悪と怨嗟に狂うだろうな。前には超絶可愛い美少女の彼女。背後には絶世の美女の姉。美少女と美女のサンドイッチ。
後輩ちゃんのお腹がふにふにして気持ちいい。桜先生の大きな胸がふにょんふにょんしていて気持ちいい。甘い香りと優しい温もりと柔らかさに全身が包まれている。
うわぁー。今さらながら毒されてしまったなぁ。前の純情な俺は、後輩ちゃんと手を繋ぐだけでも恥ずかしがっていたのに。今や二人に挟まれている。
ただただ気持ちよくて癒される。もっとずっとこのままでいたい。
俺も成長したなぁ……んっ? これは成長と言っていいのだろうか?
「ハーレム王にお兄ちゃんはなっている!」
某有名な麦わら帽子をかぶった海賊みたいに楓が言った。
未来のことではなくて現在進行形なんだ。確かに、傍から見たらそうかもしれない。でも、俺がお付き合いしているのは後輩ちゃんだけだぞ。桜先生は家族だからノーカウント。
……んっ? ノーカウントにしていいのか? 俺って毒されてない? 毒されてるよね!?
「ハーレムではありません! 先輩は私一筋なんですから!」
「そうだそうだー! 俺は後輩ちゃん一筋なんだ! 後輩ちゃん、楓にもっと言ってやれー!」
「いやいや。美緒お姉ちゃんとイチャラブしてるじゃん。ハーレムじゃん」
「これのどこがおかしいの?」
後輩ちゃんがキョトンと首をかしげた。桜先生は更に俺に腕を回し、大きな胸を押し当てる。出来れば、耳に熱い吐息を吹きかけないでいただきたい。くすぐったいので。
「これは姉弟のスキンシップよ。普通よ普通。姉は弟の性処理や子作りをするのも普通なのよぉ~!」
「そうだそうだー…………って、本当にそうだっけ?」
くっ! 常識がわからなくなっている。常識って何だっけ? 誰か教えてくれー!
「うっわー。ぶっ壊れてるわぁー。お兄ちゃんが順調に洗の……調きょ……二人の色に染まっちゃってるよ。でも、面白いからいっか! もっとやれー!」
綺麗で美しい輝く笑顔でサムズアップ。とてもイラッとしたのは何故だろう。取り敢えず、後でチョップをする。
外は寒いので外出することもなく、各々ゆっくりのんびりと過ごす。
特に何もしていないが、昼食の時間になり、空腹を感じ始めた。後輩ちゃんや桜先生のお腹がグルグルと鳴るのが聞こえた。『私のお腹よ。乙女らしく可愛い音が鳴って!』と自分のお腹に訴えているのは、見て見ぬふりをして正解だっただろう。
結局、グルグルと鳴って、『ヒロイン属性の誰かさんには敵わないか』と肩を落としていた。ヒロイン属性の誰かさんって誰だろうね?
戦力外通告を受けていない人たちで昼食を準備する。お正月と言ったらお節料理! 頑張って作りました。
全員で手を合わせて、いただきますと言ってからパクパクと食べ始める。
「お節料理のおかずには色々な意味が込められてるんだってね」
ほう。楓がそんなことを言い出すとは、明日は大雪だろうか。天気には気を付けなければ。
「……失礼なことを考えてる気がする」
「な、何のことだ? それよりも、その意味は知ってるのか?」
「知らなーい! お兄ちゃん教えてー」
知らないんかい! 教えてって言われても、俺も詳しく知らないぞ。俺よりも大人の人に聞いたほうがいいと思うのだが……。
桜先生は首をかしげ、母さんは視線を逸らし、父さんは穏やかに微笑んでいる。
期待したけどダメそう。
「先輩! このイソギンチャクみたいな蕪の意味は何ですかー?」
「それはイソギンチャクじゃなくて、菊の花を表しているらしいぞ。邪気を祓うんだと」
「なるほど~! もぐもぐ。美味しいです」
「邪気や魔を祓うのは、紅白のカマボコや黒豆もだって。後輩ちゃんと姉さんと楓はいっぱい食べるように!」
「「「 なんで? 」」」
邪念が吹っ飛んでくれないかなぁと期待しているのですが、無理だよね。三人の邪念は神様も匙を投げると思う。邪神はとても喜びそう。
「海老は長寿を願って、鯛は『めでたい』にかけてる。昆布は『よろこぶ』にかけられてたり、『子生』の字を当てて子宝を願うらしいぞ。子孫繁栄だな」
「「「 子宝! 子孫繁栄! 」」」
何故か女性陣が目の色を変えて昆布に箸を伸ばした。パクパクモグモグ食べている。
ちゃんと味わって食べてる? よく噛んで食べて。急いで食べると喉に詰まるぞ。
「子宝を願うおかずは他にもあってだな、数の子や里芋が……」
今度は数の子と里芋を奪い合って食べる女性陣。ちゃっかり母さんまで混ざっている。これ以上弟か妹を増やすのは止めて欲しい。年齢を考えて。高齢出産だから。
「誰が高齢出産かなぁ~? かなぁ~?」
みぎゃー! 痛い痛い痛い痛い痛~い! 頬を引っ張らないで! 捻りを加えて痛みを増幅させないでぇ~! ごめんなさい。言い過ぎました。謝るので許してくださ~い!
頬を赤く腫れてお餅になるまで引っ張られた。痛かったです。言葉には出していないのに、何故わかるのだろう? 気を付けよう。
いつの間にか、パクついていた女性陣が落ち着いて食べていた。顔は幸せそうに緩み、ゆっくり味わって口をモグモグさせている。
「「「 美味しければ何でもいいよね! 」」」
結局そこにたどり着きますか。やっぱり味が一番大事だよね。作った側からすると、味わって食べてくれた方が嬉しいです。
俺たちはお正月のおせちをゆっくりと味わって完食するのだった。
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