第366話 最後詣と後輩ちゃん
真冬の冷たい空気の中、俺たち家族は神社に向かって歩いていた。全員でお出かけだ。
防寒対策は完璧。厚着をして、手袋やマフラーもしくはネックウォーマーを着け、ポケットにはカイロが沢山。温かいけど寒い。寒いものは寒い。早く暖かいところに行きたいなぁ。
僅かにお化粧をして外出用にオシャレをした後輩ちゃんが俺の腕に抱きついている。寒さで頬がピンク色に染まっている。冷たそう。吐く息は真っ白。
「先輩。取り敢えず着替えでお外に出ましたけど、最後詣って何ですか?」
「お姉ちゃんも気になってた!」
そりゃ知らないだろうな。特に桜先生は。最後詣は宅島家特有の行事だから。
「普通新年最初に初詣に行くだろ? でも、一年の最後にお参りに行くから最後詣なんだ」
「いや、それくらいはわかりますよ。なんで初詣じゃないんですか?」
「いくつか理由はあるけど、一番の理由は『初詣は人が多いから』だな」
「「 あぁ~! 」」
あっさりと納得するんだ。まあ、後輩ちゃんも桜先生も並外れた容姿の持ち主だ。人が多い場所に行くと必ずナンパされるほどの美少女と美女。人混みは嫌いである。
初詣は人が多い。だから、宅島家は避けてお参りに行く。誰も行かないであろう新年の前に。
でも、意外と人は多い。準備をする神社の関係者とか、超早くスタンバイしている人とか。夜になればなるほど人は多くなる。お参りをしている人は少ないけど。
親子のように父さんと手を繋いで歩く幼女の母さんが振り返った。
「それにね、人が少ない方が神様もよく見てくれるんじゃないかなぁって思うの。人が多いと神様もスルーするでしょ!」
「流れ作業みたいに、はいはい次々~ってやってそうですね」
「いちいち顔は覚えなさそう」
「そういうことだよ、我が娘たち! だから、我が宅島家は人が少ない12月31日に『今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします』って言いに行くのです。それに、『昨年はありがとうございました。今年もよろしくお願いします』って言う初詣の内容が変わらないでしょ?」
「確かに。言葉が違うだけですね」
「中身は一緒。なるほどねぇ~」
後輩ちゃんと桜先生が深く納得した。ただ単に人混みに行きたくないだけで、無理やり理由付けしている気がしなくもないけど、俺はこの母親の下で育ったから何も言わない。
ふと後輩ちゃんが可愛らしく首をかしげた。
「あれっ? でも、先輩も楓ちゃんも普通に初詣に一緒に行きましたよね? 去年とか一昨年とか」
「誘われたら行くだろ」
「……それもそうですね」
今まで、俺も楓も後輩ちゃんや裕也から誘われたら普通に初詣に行っている。行ってはいけないという決まりはないし。家族で行くのが最後詣なだけだ。
家の近くの小さな神社に到着した。寒くて冷たいけど、氷のような水で清める。手の感覚が無くなるほど冷たかった。
おいコラ、楓、後輩ちゃん、桜先生。その冷たい手をそっと近づけるな! ピトッと触れるつもりだろ! その汚れて邪な感情はこの水で落として心身ともに清めるんだよ! ここはそういう場所なんだ!
ニヤニヤと笑う小悪魔三人。このまま神様の前に行ってもいいのだろうか? 神罰が下ったりしない?
五円玉をお賽銭箱の中に投入! 鈴をガランガランと鳴らす。
はいはい、女性の皆さん。子供のようにはしゃがないで!
ペコリ、ペコリと二回礼。
パン、パン、と二回拍手。そして、お祈り。
都合の良いときしか信じていない神様。今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします。
そして、ここからが大事なことなんですけど、ウチの家族をどうにかしてくれませんか? 出来ればもっと真面目と言うか常識人にして欲しいです。特にポンコツ三姉妹を。
『無理じゃ……』
む、無理なの!? 神様が匙を投げるレベル!? そ、そこを何とかなりません? なんでもしますから。五円玉で足りなければ、財布の中身を全部投入してもいいですよ。
『お主の恋人の超絶可愛い後輩ちゃんをもっと甘やかして可愛がって愛してあげるのじゃ。欲望のままに襲い掛かって、ドロッドロにしてやるのじゃ! 目指せ、ヘタレ卒業!』
神様が欲望まみれなんですけど!
えっ? 後輩ちゃんをドロッドロにしていいの? 欲望のままに襲い掛かってもオーケー?
『お主のお姉ちゃんも襲うのじゃ。あれだけアピールしているのに可哀想だとは思わないのかの? 可愛そうだと思います! だから処女を奪って大人の女にして、子供を作るのよぉ~! 大丈夫。姉弟なら子作りなんか普通のことよ! ……のじゃ』
そっかそっかぁ。姉弟で子作りするのは普通なんだ……。
『そして最後に……You、彼女と姉を妊娠させちゃいなよ♪』
「そうですね、後輩ちゃんと姉さんを妊娠させ……るわけねぇーだろうが! さっきから耳元で何を囁いてんだ、このポンコツ三姉妹!」
「「「 あっ、バレた 」」」
もっと何か囁こうとしたのか、三人は口元に手を添えていた。人が真剣にお願いしているところを邪魔しないで欲しい。
三人が囁いたのは悪魔とか、神は神でも邪神にお願いすることだと思うんだけど。
あっ、悪魔はこの三人だったか。悪魔の囁きか……悪魔退散!
「先輩が真剣にお願いしているのでつい……」
「一度してみたかったのよねぇ」
「私が言ったのは悪魔の囁きじゃなくて神託だよ。神の予言。というわけで、お兄ちゃん頑張れー」
あぁもう。無視してお願いの続きをしよう。
神様お願いします。この三人に軽い神罰を! 脚が痺れるくらいの軽いやつ。
「葉月ちゃんは何をお願いしたの? お兄ちゃんとイチャラブできますようにって?」
「いや、神様にお願いしなくてもイチャラブするけど。邪魔したら神様でもぶっ飛ばす」
「うわぁーお! お惚気いただきましたぁー! 美緒お姉ちゃんは?」
「お姉ちゃんも似たような感じよ。一度私から家族を奪ったから、二度目はありませんよね? もしあったら……覚えておいてくださいね。例え神様でも容赦しませんから、って脅しておいたわ」
「おぉー! 今頃神様はガクガクブルブルしてるかも!」
……神様、この二人は手作り料理を口に放り入れるくらい普通にすると思うので、気を付けてくださいね。
そして最後に、来年も幸せに暮らせますように……と神様にお願いなんかしません。
俺たちは来年も幸せに暮らすことをここに宣言させていただきます。
ペコリ、と一礼してお参り終了!
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