第329話 12月と後輩ちゃん

 

 後輩ちゃんとブルブル震えながら学校に登校した。もう既にいつの間にか真冬に突入している。まだ雪が降ったり、霜が降りたりすることはないが、寒いものは寒い。俺は寒いのは苦手だー!


 教室には暖房が入ったようで、外よりは若干マシだ。でも、教室の空気って床のほうは寒い。だから、足元が冷えてしまう。結果的に、体温が下がってしまう気がする。


 どうして暖かい空気は上に行くんだぁー!? 化学の授業で習った気がするけど、どうしてだっけ? 復習しておかなければ。


 そう考えつつ、教室に入って数歩歩いたところで、俺と後輩ちゃんの足が止まった。教室の中は、異様な光景が広がっていたのだ。なんだこれは……。


 俺と後輩ちゃんは目をゴシゴシと擦るが、異様な光景は消えてくれない。これは夢ではなくて現実のことらしい。



「何やっているのでしょう?」


「さあ? 俺にはわからん。後輩ちゃんは?」


「わかるわけないじゃないですか」


「ですよねー」



 目の前には、黒い塊が沢山群がっていた。太陽光を求めて、窓際に多くの女子たちが集まっている。しかし、窓に近いと寒いので、僅かに距離を取っている。


 良く言えば、おしくらまんじゅう。悪く言えば、アザラシの日向ぼっこ。おっと。流石に言いすぎか。ペンギンのおしくらまんじゅうにしておこう。


 寒すぎて元気がない女子たちが、気の抜けた声で挨拶してくる。



「おーっす……おっは~……」


「今日も寒いねぇ……」


「でも、二人は朝からお熱いこと!」


「見るだけで溶かされるわぁ……」



 おぉ……。余程寒いのが嫌らしい。女子たちが元気がないと、なんか調子が狂うな。いつもテンションがぶっ壊れているのに。クラスが平和だ。


 男子たちはホッと安堵している気がする。そして、同時に心配そうだ。やはり、女子たちが元気がないと、男子たちも不安になるらしい。



「私たちは変温動物……太陽がないと死んじゃうの……」


「寒い……寒いよ……」


「あたし、こう見えて超絶冷え性……」


「私の可愛いポンポンが冷えちゃうよ…………あれっ? ツッコミ無し? いつも酷いツッコミが来るのに? おーい? 皆元気ですかー!?」


「「「 元気じゃない! 」」」


「元気じゃん! 元気があれば何でもできるよー!」


「「「 うるさい! 黙れ! 」」」


「そうそうこれこれ!」



 女子のいつものやり取り。でも、あまり鋭さがない。やはり、元気が少ないらしい。


 俺と後輩ちゃんは、自分たちの席に座る。準備を整えた後輩ちゃんは、俺の太ももの上に腰を掛けた。柔らかなお尻の感触が伝わってくる。ふわっと香る甘い香り。さらに、腕を首に回して、むぎゅっと抱きしめ、身体を密着させてる。



「先輩と二人でおしくらまんじゅうです。一緒に温かくなりましょう!」


「こ、後輩ちゃん?」


「はい、先輩の愛しの彼女の超絶可愛い後輩ちゃんです」


「場所を考えましょうね? ここは学校の教室。多くの人がいるから! ほら! 男子たちが俺を殺そうと睨んでるでしょ!」



 毎日毎日男子たちは俺を射殺しそうに睨んでくる。殺気が溢れ出している。ブツブツと怨念や呪詛の言葉を紡いでいる気がする。俺って呪われてないよね?


 例え呪われていたとしても、笑顔一つで浄化してくれそうな後輩ちゃんが、可愛らしく首をかしげる。



「私はハグしてるだけですよ。毎日してますよね?」



 毎日していますが、それって普通じゃないからね。異常なんですよ。気づいています? 気づいていなさそうだなぁ。それか、毒されている。


 まあ、温かくなるのはわかる。俺も後輩ちゃんと抱きしめ合っていて、とても温かくなっている。恥ずかしさで身体が熱くなっている。俺たちは、お互いがカイロだ。


 女子たちも見ているだけで温かくなったようだ。胃の辺りを撫でたり、甘ったるそうに顔を歪ませているけど。



「ヤバいわぁ……一気に温かくなった」


「同時に胃もたれが……甘すぎ」


「このバカ夫婦は、寒いクリスマスで、どんなねっとりぐっしょり汗ばんだ熱いことをするんだろう? 私、気になります!」



 一斉に教室中が『気になります』という声でいっぱいになる。どれだけ桁上がりの四名家の豪農の娘がいるんだろう? 俺も気になります。


 クリスマスかぁ。気が付けば11月も終わり、12月になっている。道理で寒いわけだ。


 後輩ちゃんが至近距離でニッコリと微笑む。



「クリスマスですかぁ。先輩、今年は何が欲しいですか?」


「何でもいいぞー」


「むぅ。それが一番悩みます」



 拗ねて膨れた後輩ちゃんの頬を優しく指で潰す。ぷすーっと空気が抜けて、甘い吐息が顔にかかった。うむ、素晴らしいモチ肌。


 俺たちを見て、女子たちがはっきりと聞こえるコソコソ話をしている。



「クリスマスプレゼントだって! 当然のように一緒に過ごすんだって!」


「子供が欲しいって言ったら、子供を作るのかしら?」


「「「 きゃー! 」」」


「裸にリボンを巻き付けて『プレゼントは、わ・た・し♡』ってことをしたり!」


「「「 あり得る~! 」」」


「もしかして、もうやってたり?」


「「「 あり得る~! 」」」


「ちょっと! あり得ないよ! 考えたことはあるけど、実行したことはないから!」



 本調子を取り戻し始めた女子たちに、後輩ちゃんが声を荒げる。『いつかしてみたいけど……』って、俺にだけ聞こえるくらいの小声で囁かないでくれませんかね。思わず想像してしまって、理性がぶっ壊れそうになったんだけど。


 本当にされたら、俺は後輩ちゃんを襲ってしまう自信がある!


 女子たちが揶揄い、後輩ちゃんが言い返す。


 12月になっても、ウチのクラスは全然変わらない。相変わらず仲が良かった。

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