第181話 眠たい子猫の後輩ちゃん

 

「ぼえ~~~~~~~~~!」



 後輩ちゃんが目を瞑って間抜けな声を出している。


 現在俺は後輩ちゃんの綺麗なセミロングの黒髪をドライヤーで乾かしている最中だ。


 後輩ちゃんは気持ちよさそうに座っている。


 近くには桜先生が子犬のようにウズウズと順番待ちをしている。



「ぼえ~~~~~~~~~!」



 その声は何なんだよ! でも、可愛いからそのまま続けてください。


 サラサラの後輩ちゃんの黒髪。ふわっと甘い香りが漂ってくる。


 ドライヤーの風に乗って、黒髪が揺れている。とても綺麗だ。


 このままずっと続けていたいけれど、もう乾いたので終了です。



「はい。終了」


「あぁ……終わっちゃいました。ありがとうございます、先輩!」



 ちょっと残念そうだったけれど、すぐにニコッと微笑んでお礼を言ってくれた。


 後輩ちゃんは立ち上がり、今まで座っていたところに桜先生が座った。



「次はお姉ちゃんの番ね!」


「うん、いいけどさ。下着姿は止めてくれない?」



 今の桜先生は白い過激な下着をつけている。他には身に付けていない。完全な下着姿だ。


 絶世の美女の豊満な胸の谷間とか、スラリとしたくびれとか、女性らしい丸みを帯びた綺麗なお尻とか、むちっとした太ももとか、全開になっていますから。


 本当に毎日毎日! 俺の言葉を理解してる? 毎日言ってるよ?


 キョトンと首をかしげた桜先生は、何やら納得したようにポンっと手を打って、いそいそと下着を脱ぎ始めた。


 だからなんで!?



「……姉さん、何故脱ぐ?」


「えっ? 弟くんが下着姿を止めろって言ったから、ご要望通り下着姿じゃなくなりました。今のお姉ちゃんは全裸よ! 下着姿じゃないわ!」



 全裸で得意げに仁王立ちする桜先生。ドヤ顔をして胸を張ったら、バインっと大きな胸が揺れた。


 俺は酷い頭痛が襲ってきて、思わず頭を抱えた。


 背中に柔らかな衝撃を感じた。後輩ちゃんが後ろから抱きついてきたのだ。


 ふわっと甘い香りが漂ってくる。



「先輩? お姉ちゃんの髪を乾かさないんですか?」


「ちょっと激しい頭痛がしてるからちょっと待って」


「何ですと!? この超絶可愛い私がなでなでしてあげましょう! 痛いの痛いの飛んでけ~!」



 頭が優しくナデナデされる。うん、癒される。


 この頭痛があの全裸のポンコツの姉に飛んでいかないかなぁ。



「ちゃんと洋服を着てくれたらマッサージをしてあげようと思ってたんだけど、姉さんはどうする?」


「今すぐ着てきます!」



 全裸でシュパッと敬礼した桜先生は、白の下着をいそいそとつけ始め、今日のパジャマを着始める。


 だから、なんで今日のパジャマは透け透けのネグリジェなんだよ!


 いつものはどうした!?



「今日はこれの気分なの! どう? お姉ちゃん可愛い? 綺麗? 欲情する?」


「はいはい。可愛いよー綺麗だよー欲情しないよー」


「むぅ! 弟くんが酷いよ~! 欲情してよ~!」


「姉さん、ドライヤー…」


「なんでもありませ~ん! お願いしま~す!」



 透け透けのネグリジェを着た桜先生は、俺の言葉が終わる前にシュパッと姿勢正しく座った。


 勘のいい姉め! 折角ドライヤーしないって言おうと思ったのに。


 仕方なく、俺はドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かし始める。



「ぼえ~~~~~~~~~!」



 だから、なんでそんな声を出すのかな? 気持ちよさそうだからいいけど。


 俺の背中に胸を押し付けながらくっついている後輩ちゃんが、首や肩のあたりに子猫のようにスリスリしてくる。



「うぅ~! 先輩構ってくださいよ~!」



 後輩ちゃんの可愛らしい甘える声。熱い吐息が首にかかり、ふわっと甘い香りが漂ってくる。


 スリスリスリスリ、と柔らかな後輩ちゃんの頬の感触が伝わってくる。



「もうちょっと待ってて。今、姉さんの髪を乾かしているから」


「うぅ~! せんぱ~い……せんぱぁ~い……しぇんぱ~い……」



 スリスリグリグリと顔を擦り付けてくる後輩ちゃん。


 時折、チュッと首筋にキスしてくる。後輩ちゃんの柔らかな唇の感触を感じる。


 恥ずかしそうなのがまた可愛い。


 くっ! 俺の理性がガリガリと削られていくぅー!



「………後輩ちゃん、眠いのか?」



 俺は桜先生の髪を乾かしながら、チラッと後輩ちゃんを見た。


 後輩ちゃんの綺麗な瞳が眠そうにとろ~んと蕩けている。


 ぐりぐり、と顔を擦り付けてきた子猫の後輩ちゃんが、えへへ~と眠そうに微笑んだ。



「はい~! 急に眠くなっちゃいましたぁ~! にゃふぅ~…」



 ぐはぁっ!? 何この可愛い子猫ちゃんは!


 愛でたい。猛烈に愛でたい! 愛でて愛でて愛でつくしたい!


 くっ! あと少しで桜先生の髪を乾かし終わる。早く早く早く!



「はふぅ~………はむっ!」


「うおぅっ!?」



 俺はいきなり後輩ちゃんに耳を甘噛みされた。


 後輩ちゃんの柔らかくて温かな唇に耳を食べられている。



「はむはむ………はむはむ………はむはむ」


「こ、後輩ちゃん!? み、耳を食べるのは止めようか?」


「えぇー! はむっ……はむはむ……ぺろぺろ…」


「うわぉおぅっ!? な、舐めるなぁ~! 止めるんだ後輩ちゃん!」


「ふふふ……せんぱぁいは……かわいい…でしゅ…ねぇ………すぅ~すぅ~」



 あ、あれっ? なんか後輩ちゃんが動かなくなったぞ。それに、耳元で可愛くて規則正しい寝息も聞こえてくる。


 もしかして、後輩ちゃん寝ちゃった?



「お~い! 後輩ちゃ~ん? 葉月さ~ん!」


「………すぅ~」


「ダメだこりゃ。完全に寝てる。あれっ? もしかしてこっちも?」



 よく見ると、桜先生も髪を乾かされながら気持ちよさそうに寝ていた。


 一体いつの間に!? 俺、全く気付かなかったぞ!


 よし、ひとまず乾かし終わった。ドライヤーの電源を切ろう。


 ドライヤーを切ると、静かになった部屋の中に二人分の規則正しい寝息がはっきりと聞こえた。



「二人ともお疲れだったのかな? おやすみ、姉さん、後輩ちゃん」



 俺は二人に囁くと、起こさないように慎重にベッドまで運ぶのでした。


 二人とも、良い夢を!


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