第176話 夏休み最後の日と後輩ちゃん

 

 とうとう夏休みが最後の日になった。最後の日になってしまった。


 今年の夏休みはいろいろなことがあった。


 まず、桜先生が酔っぱらって俺と後輩ちゃんの姉になり、花火大会があり、お盆に帰省して、プールに行って、遊園地デートに行って、クラス会で高級温泉旅館に行って、露天風呂で告白した。


 イベントが豊富な夏休みでした。


 まあ、騒がしい妹が襲来したこともあったけど、あの日は一日楓に振り回されたなぁ。


 兄と妹だったら妹のほうが権力強いよね……。


 楓が襲来してきた日を思い出すと、どんよりと疲れるから頭を振って忘却の彼方へと吹き飛ばす。


 あぁ~明日から学校かぁ。嫌だなぁ。ずっと休みがいいなぁ。


 俺はボケーっと宙を見上げて黄昏る。



「せ~んぱぁ~い! 私、暇で………って、何があったんですか!?」



 寝室に入ってきた後輩ちゃんが、ベッドに座る俺を見てギョッとして固まった。


 俺はボケーっと後輩ちゃんを見つめる。



「どんよりと黄昏てどうしたんですかっ!? ま、まさか倦怠期ですか!? もう来ちゃったんですか!?」



 後輩ちゃんが涙目で縋りついてくる。


 不安で不安で仕方がなさそうだ。少し脆い印象を感じる。



「…………はい? 倦怠期? 違うけど。後輩ちゃんのこと大好きだけど」


「えっ? 違うんですか?」



 キョトンとして俺の顔を見上げた後輩ちゃん。


 自然な上目遣いに少しドキッとしたのは内緒である。



「いやぁ~、明日から学校だなぁ、と思ったら憂鬱でさぁ」


「あぁ~そういうことですか。明日から二学期ですもんね」



 後輩ちゃんが納得して、倦怠期じゃなかったことに安堵している。


 去年、ズル休みしまくった俺からすると、一学期は物凄く頑張ったんですよ! 後輩ちゃんに無理やり連れていかれたけど、風邪ひいた以外休んでいないんですよ!


 だから、二学期くらいは一学期の分も休んでいいと思うんです! 学生の有給休暇! 世間でも有給休暇を取得するように呼び掛けているじゃないですか!


 うぅ…学校に行きたくない…。



「先輩! 今、『学校に行きたくない』って思いましたね!」


「………よくわかったな」



 後輩ちゃんが得意げに平均より大きな胸をポヨンと張った。



「ふふん! 先輩のことは性癖から心の隅々まで全てわかるのです!」



 ………………性癖は知らなくてもいいです。忘れてください。



「ですが先輩! 学校に行きたくない、と黄昏るより、有意義なことをしましょう!」


「………何をするんだ?」


「私を可愛がるのです!」


「………確かに有意義だな。かも~ん!」


「わーい!」



 両手と両足を広げると、後輩ちゃんがベッドに乗ってきて、ポスンと俺の脚の中に納まった。


 俺の胸にもたれかかって身を預けてくる後輩ちゃん。


 俺は無意識に手を後輩ちゃんのお腹に回し、フニフニと触り始める。



「先輩は本当に私のお腹が好きですよねぇ」


「はっ!? 身体が勝手に!」


「私も先輩に触られるのは好きなのでいいんですけど!」


「では、遠慮なく………………癒されるぅ……」



 このフニフニでモッチモチでフワフワな後輩ちゃんのお腹。


 別に脂肪がたくさんついているというわけではない。


 このスラッとほっそりしながらも絶妙なバランスを保っているくびれとお腹周り。


 もはや芸術レベルの身体だ。素晴らしい!


 このおへそも可愛らしいよねぇ。



「あの~? 他のところも触らなくていいんですか?」



 しばらくお腹を堪能していたら、後輩ちゃんが軽く振り向いて問いかけてきた。


 後輩ちゃんの甘くて熱い吐息が顔にかかる。



「ふむ……ではここを」


「ひゃんっ♡」



 後輩ちゃんの短パンから覗く白くて綺麗な太ももをスリスリ…。


 最近の女性は脚が細すぎるけど、後輩ちゃんは程よく肉がついている。


 これはこれでいいものですなぁ。


 ………だんだん俺がエロ親父と化している気がするんだが、気のせいだろうか?



「ど、どうでしょうか?」


「………大変すばらしいと思います」


「そ、そうですか! もっと撫でて私を可愛がるのです!」



 後輩ちゃんは俺の撫でられてご満悦だ。


 そんなに俺に触られるのが好きなのだろうか?


 ふむ、俺もよく後輩ちゃんからペチペチと触られるけど、嬉しいな。それと同じか。


 今度は後輩ちゃんの頭を撫でよう。


 後輩ちゃんの黒髪は、いつもサラサラで気持ちいい。



「んんぅ~」



 気持ちよさそうな後輩ちゃんの口から可愛らしい声が漏れた。


 子猫のように撫でる俺の手に擦り寄ってくる。



「子猫の後輩ちゃんだ」


「にゃん!」


「ぐはっ!?」



 子猫の後輩ちゃんの泣き声。可愛らしく手で猫のポーズもしている。


 俺の胸がズキューンと撃ち抜かれた。何という破壊力!



「くっ! ネコミミをつけたい…!」


「ハロウィンの時つけましょうか? あっでも、ゾンビメイクで先輩を驚かせるのもいいですね」


「ネコミミだけでお願いします!」


「じゃあ、血だらけの化け猫で」


「ネコミミだけでお願いします!」



 俺の心の底からの要望に、後輩ちゃんが悪戯っぽく微笑む。



「ふふふ。どうしようかなぁ~! 先輩がもっと私を可愛がってくれたら考えようかなぁ~」


「心を込めて可愛がらせていただきます!」


「ふむ!」



 俺は後輩ちゃんを可愛がって可愛がって可愛がる。頭をナデナデ~!


 気持ちよさそうに顔が蕩け、顔を俺の身体にスリスリしてくる後輩ちゃん。とても可愛い。


 ふと、後輩ちゃんの僅かに朱に染まった頬が目に入った。


 そぉ~っと人差し指でツンツンしてみる。


 おぉ! なんというモチ肌! 楽しい!


 後輩ちゃんの頬がぷくーっと膨れた。ツンツンすると、ぷしゅ~っとしぼんでいく。



「あっ! そうです!」



 後輩ちゃんが突然声を上げ、もぞもぞと動いて体勢を変える。


 対面になった俺と後輩ちゃん。むぎゅっと抱きついてきた。


 そして、俺の頬に後輩ちゃんが頬をスリスリしてくる。


 後輩ちゃんのモチ肌が俺の頬に……。



「おぉ~! ムニムニして気持ちいいですぅ~!」


「そういえば気に入ってたな」


「はい。私は勝手にスリスリしているので、先輩は私をナデナデするのです!」


「かしこまりました、俺のお姫様」



 超絶可愛い俺のお姫様からのご命令だ。たっぷりとナデナデしてあげよう!


 夏休み最終日、俺は一日中後輩ちゃんをナデナデして過ごすのだった。


 大変有意義な一日でした。

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