第173話 チョロい俺

 

 輝く太陽の下、俺は洗濯物を干している。


 クラス会で温泉旅行に行った分、洗濯物は少し多い。


 タオルを干して、タオルで隠すように後輩ちゃんと桜先生の下着を干す。


 ふむふむ。二人はこんな下着をつけてたのか…。なるほどなるほど。


 まあ、着けてない場合はただの下着なので、あんまり何とも思わない。


 何故着けた瞬間、物凄くエロくて興奮するんだろう? 不思議だ。


 洗濯物を干し終わり、涼しい部屋の中に入る。



「洗濯物しゅーりょー!」


「お疲れ様でーす!」


「お疲れ、弟くん」


「おつー!」



 部屋の中では三人姉妹がリビングでダラダラしていた。


 ぐてーっと脱力して伸びている。これはこれで可愛い。


 ………………んっ? 三人? 一、二、三。うん、三人いる。


 目を何度も擦っても、瞬きを繰り返しても、頬を抓っても、三人いる。


 そろそろ現実逃避は止めるか。



「……………………おい愚妹よ。いつ来た?」


「さっきー。朝一で来ました」



 俺が洗濯物を干している間に来たであろう、俺の妹の楓が桜先生の胸を揉んでいる。


 何故来た? そして、何故胸を揉んでいる?



「そこに大きなおっぱいがあるから!」


「………………心を読むな。そして、揉むのを止めろ!」


「いやー!」



 楓が桜先生の胸に顔を埋めた。ぐりぐりと顔を押し付け、大きく大きく息を吸っている。


 これが妹だなんて思いたくないな。ただの変態だ。



「姉さん。変態の愚妹でごめん」


「いーのいーの! 私、お姉ちゃんだから!」



 慈愛の籠った瞳で楓を撫でる桜先生。楓はご満悦だ。


 そして、ニヤニヤ笑った後輩ちゃんが爆弾を落とす。



「嫌だなぁ! 先輩も昨日同じことを私にしてたじゃないですか! 胸に顔を埋めて、背中を直にスリスリと撫でて……」


「後輩ちゃん!?」


「何それ詳しくっ!? 流石我が兄! 血筋だねぇ」


「うぐっ!」



 楓も、いいことを聞いた、とニマニマ笑っている。その両手は巨乳をモミモミしているが。


 くっ! 何も言い返せない!


 後輩ちゃんと楓からのニマニマ笑顔がうざい。



「コホン! さて、我が妹よ。何故いきなりこっちに来たんだ?」


「話を逸らしましたね」


「逸らしたわね」


「逸らしたねぇ」



 くっ! 梅雨の時期よりもじっとりとしたジト目が三人分も!


 こ、これは流石に心に響く…………負けるな俺!



「い、妹よ。何故こっちに来たんだい?」


「どこかのヘタレの兄が着信拒否とかブロックしてるから、直接話を聞こうかと思いまして。取り敢えず、お付き合いおめでとー! そして、詳しい詳細を述べるのだ!」


「さぁーて、買い物に行こうかなぁー!」



 俺は楓の言葉を無視して、買い物に行こうとする。


 しかし、いつの間にか俺の脚を楓にガシッと掴まれていた。



「お兄ちゃん逃がさないよぉ~」



 い、いつの間に移動したんだ!? さっきまで桜先生の胸を揉んでたのに! 一瞬で俺の足首を掴むなんて………………ちょっとゾンビみたいで怖いので止めてください。



「私は実妹として聞く義務があるのです!」


「いやいや、そんな義務ないだろ!」


「じゃあ、葉月ちゃんの親友として!」


「うぐっ! そ、そんな義務はないはずだ!」



 お、俺は買い物に行かないといけないんだー!


 冷蔵庫の中身はあんまり入っていないから、皆の昼食のために買い物に行かないといけないんだ!



「い、いいのか? 昼ご飯はご飯とみそ汁になるぞ! ただの豆腐の味噌汁になっちゃうぞ!」


「あぁ~それもいいですねぇ」


「昨日と一昨日、お菓子とかたくさん食べちゃったから、それくらいでいいわね」


「あっ! なら、焼きおにぎり作ってよ! それくらいできるでしょ、お兄ちゃん? 偶にはお兄ちゃんの焼きおにぎりが食べたーい!」


「「食べたーい!」」



 くっ! そう来ましたか。でも、俺は一刻も早く逃げ出さないといけないんだ!



「ゆ、夕食の分は何もないぞ! 買い物に行かないと…!」


「昼過ぎてから行けばいいよ~!」


「で、でも…!」


「ああもう! 最終兵器! 葉月ちゃん! お兄ちゃんをやっちゃって!」



 楓が最終兵器を投じた。


 後輩ちゃんがスクっと立ち上がり、俺にむぎゅっと抱きついてきた。


 そして、綺麗な瞳をウルウルと潤ませ、上目遣いで見つめてくる。



「先輩……どっか行っちゃいや……一緒にいて?」


「ぐっはぁっ!?」



 な、何という破壊力。俺の心臓が巨大な杭で撃ち抜かれた。穴が開くほど撃ち抜かれた。


 か、可愛い。あざとさの中に天然の可愛さがあって、俺の心をピンポイントで貫く絶妙な綺麗さと可愛さ。


 俺のことを良く知る後輩ちゃんだからこそできる、俺を堕とすためだけのおねだり。


 流石小悪魔の後輩ちゃん。流石です。流石としか言いようがないです。



「先輩……おねがい」


「ぐふぅっ!? す、少しだけだぞ」



 更なる追撃に、俺は反対する気力も起きなかった。


 後輩ちゃんが楽しそうに俺の腕に抱きつく。



「ふふっ。ちょろい」


「んっ? 何か言ったか?」


「いいえ何もー! 先輩、私のこと好きすぎじゃありませんか?」


「葉月を好きすぎるのは当たり前だろ! 悪いか!?」


「ふ、不意打ちは卑怯ですってば! ………………べ、別に悪くないです…」



 思わず本音を言ってしまった俺。意図せず後輩ちゃんにやり返すことができたようだ。


 後輩ちゃんが恥ずかしそうに俺の腕で顔を隠している。その耳は真っ赤だった。


 でも、スッと俺の手を握ってきた。自然と指を絡めて恋人つなぎにする。


 何この可愛い生き物は。ずっと愛でていたい。


 自分の顔も真っ赤になっているのを自覚しながら、恥ずかしがる後輩ちゃんをずっと愛でているのだった。


 この場にいる姉と妹のことを忘れて―――


















「うわぁ……お兄ちゃんがチョロいと思ったら、何この甘~い空気。胸焼けしそう。口の中甘ったるい。私とユウくんよりもバカップルじゃん!」


「うぅ…羨ましい……でも、ごちそうさまです!」


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