第158話 スイカ割りと俺

 

「みぎみぎー!」


「左だって! 左だぞー!」


「く、来るなっ!? や、やめろぉー!」


「よしっ! ここだ! チェストォォオオオオオオオ!」


 バコンッ!


「ぎゃぁああああああああああああああああああ!」



 悲鳴が上がるスイカ割り。なぜこうなった……?


 回想シーン行ってみよ~!



 《回想シーン》



「夏と言ったらスイカに花火! というわけで、スイカ割りしまーす!」



 桜先生が昼食後に遊んでいた俺たちを集めて宣言した。大きな胸がバインと跳ねる。


 男子たちは股を押さえて蹲った。全然慣れないらしい。



「くぅっ! 俺は美緒ちゃん先生の二つのスイカがいい…」


「わかる…わかるぞ、その気持ち…!」


「俺は先生の桃派」


「ここにお尻派の同志がいたとは…!」


「お胸派! お胸派の同志はこの指とまれ!」



 もはや隠すことなく男子たちが同志を募って集まっている。欲望の塊だ。まあ、男子高校生らしいと言えばそうかもしれない。


 ただ、男子たちよ。それはコソコソとやるべきで、間違っても女子たちの前ですることではないぞ。ほら、女子たちが冷たく蔑んでいる。


 お隣にいる白い清楚なワンピースを着たお嬢様姿の後輩ちゃんが、下から可愛らしく俺の顔を覗き込んできた。



「先輩は何派ですか? お尻派? おっぱい派? それとも、太もも派? おにゃか派?」



 お、おにゃか!?


 後輩ちゃんは今、おにゃか、と言わなかったか!? 噛んだのか? おなか、と言いかけて、おにゃか、と噛んでしまったのか!?


 可愛すぎる! 噛んだ後輩ちゃんが可愛すぎる! 真っ赤になりながらも、私噛んでいませんよ、とすまし顔の後輩ちゃんが超絶可愛すぎる!


 俺の彼女は天使だ!



「そうだな。しいて言うなら、葉月派かな」



 俺は後輩ちゃんならお尻でも、胸でも、太ももでも、おにゃかでも、全部好きだな。だから、俺は葉月派なのである。


 後輩ちゃんが俺の腕をギュッと抱きしめ、軽く頭突きしてきた。



「…………先輩のばか。…………ちなみに、私は幼児退行した先輩派です」



 幼児退行した俺!? 一体どういうことだ!?


 ニヤニヤする後輩ちゃんを問い詰めようとしたところで、邪魔が入る。



「はーい、そこのラブラブカップルさーん! 先生の説明を聞いてねー!」



 残念なポンコツ教師に注意されてしまった。屈辱である…。



「まず、スイカはいくつか用意してありまーす。目隠ししたまま、ぐるぐるバットして、皆の声でスイカの近くまで行って、自分の好きなところで棒を振り下ろしてください」



 スイカを棒で割ると砕け散るんだけどなぁ。どうせ食べるなら普通に切って食べたほうがいいと思うんだけど…。



「はい、そこの彼女と妹と姉が大大大好きな少年! 今、普通に切って食べたほうがいいと思ったわよね? スイカ割りそのものが楽しいのよ! 思い出作りよ思い出作り!」



 ビシッと俺を指さした桜先生。何故わかった!?


 それに、俺が彼女と妹と姉が大大大好きだと? 彼女は後輩ちゃんで、妹は楓で、姉は桜先生か………まあ、間違ってはいないかな。


 はいそこ! コソコソと、シスコン?、と囁き合わないで!



「美緒ちゃんセンセー!」



 男子の一人が手をあげた。何故か嫌な予感がする。俺の方をニヤニヤしながら見つめている気がする。



「はい何でしょう?」


「ちょっとしたお楽しみを追加していいですかー? ハラハラドキドキを追加したいんですけどー。思い出作りに」



 今最後にニヤッと笑ったぞ! 絶対にニヤッて笑った!



「許可しまーす!」



 許可するなよポンコツ教師! まだ何をするのか聞いていないだろうが!


 男子たちが全員悪意を含んだ笑みを浮かべた。



「総員! 準備にかかれぇええええ!」


「「「「「おう!」」」」」



 男子たちが一斉に俺の周りを囲い、ガシッと掴まれる。



「やめろぉー! 放せぇぇええええええええええええええ!」



 先輩頑張れー、という後輩ちゃんの声を聞きながら、俺は手足を拘束されて炎天下の砂浜に運ばれていった。





 《回想シーン終了》





 まあ、こういう事があって、手足を拘束されて砂浜に敷かれたシートの上に正座している俺。右隣にはスイカ。その隣には、カレー作りの時に女子といい感じになった男子が、同じく手足を縛られて正座させられていた。


 今丁度、その男子の頭に棒が振り下ろされたところだ。頭を押さえて悶絶してる。痛そう…。


 次の男子がぐるぐるバットを始めた。よろよろになって、こけたりしている。周りから笑い声が起こった。


 目が回って倒れ込みながらも、徐々に近づいてきた男子。



「右だよー!」


「左左! ちょっと行き過ぎ!」


「そのまま真っ直ぐ―!」



 クラスメイト達からの声はバラバラだ。


 男子からの声は全部間違っている。俺やもう一人の男子の方向に誘導している。


 女子は、比較的まともにスイカに案内しているが、時々ふざけて俺たちのほうへ誘導している。


 目隠しをした男子が、俺の目の前で立ち止まった。そして、大きく振りかぶった。


 こ、これはヤバい。本当にヤバい。絶対に叩かれてしまう!


 俺が縛られた手を何とかしようと動かしていると、目隠しをした男子がニヤリと笑った。


 こ、こいつ! 目隠しの下の僅かな隙間から覗いてやがる!



「ふっふっふ。死ねぇええええええええええええええええ!」


 パシィィィイイイイイ!


「な、なにぃっ!?」



 ふぅ。危なかった。間一髪、真剣白刃取りが間に合った。


 縛られた手が抜けなかったら頭を叩かれていたところだった。危ない危ない。



「や、やるではないか!」



 全力で棒を押し込んでくる男子。俺も全力で防ぐ。


 グググっとお互いに拮抗した状態が続く。


 歯を食いしばりながら力を込めていた男子がニヤリと笑った。


 棒から片手を離し、自分の水着の中に手を突っ込んだ。そして、手を引き抜くと黒い棒が握られていた。


 フッと振ると、シャキッという音がして、棒が伸びる。



「そ、それは特殊警棒!? って、どこから出してんだよ! 大きさ的に入らないだろ! それに汚いだろうが!」


「き、汚くないわ! 男の子の水着の中には特殊なポケットがあるのだよ、野比君」



 誰が野比君じゃ! 水着の中の多重次元ポケットなんて汚すぎる!



「というわけで、安心して逝くがいい」



 頭の上にはスイカ割りの棒。横から迫るのは特殊警棒。


 くっ! 俺はどうすればいい!? 二刀流なんて卑怯だぞ! 


 最後の最後まで抵抗してやるー!





 後に、パッコーン、と小気味のいい音と、男子たちの大歓声が白い砂浜と青い海に響き渡ったとさ。











<おまけ>


「あーよしよし。痛かったですねー。甘いスイカを食べて、彼女である超絶可愛い私がナデナデしてあげますよー。ナデナデナデナデ」



 うぅ…スイカが甘くて美味しいよ…。ズキズキする頭が後輩ちゃんに撫でられて気持ちいいよ…。


 スイカを食べながら後輩ちゃんに頭を撫でられる俺。


 男子たちをチラッと見て、ドヤ顔してやったら、全員が膝から崩れ落ちて血の涙を流し始めたとさ。


 ざまあみろ!




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お読みいただきありがとうございます!

作者のクローン人間です。

この作品は、シチュエーション斬りコンテストのほうに応募しており、中間選考を突破しておりましたが、最終選考でダメでした。

取り敢えず、ご報告を。


『汚隣の後輩ちゃん』はまだまだ続きます。

一応、高校一年生の春休みで完結の予定です。今はちょうど半分くらいですね。

その後、おまけということで、二人の過去や未来の話を書く予定です。

二学期には、文化祭や修学旅行、冬休みにはクリスマスやお正月、三学期にはバレンタインデーとホワイトデー、などたくさんのイベントがあり、軽く300話ほどいきそうだなぁと思っております。


まだまだ長くなりそうですが、お楽しみください。

以上、長くなりましたが、クローン人間でした。 (2019/11/30)

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