第142話 再会と写真と私
全ての説明が終わった私たちは、男女に別れてそれぞれの部屋に案内される。
私たち女子は女将さんの案内のもと、広くて景色がいいお部屋へと入った。
ぽけーっとクラスメイト達が固まっている。
「うわーきれー!」
「何この眺め!? ありえん!」
「ほ、ほんとにこんなところに泊まっていいの!? 夢じゃないよね!?」
「ぎゃー! いったーい! なんであたしの頬を抓るの!?」
「だって、自分だったら痛いし、可愛い私の頬が真っ赤になっちゃうじゃん!」
「そっか。じゃあ、あたしがあんたの頬を抓ってやる!」
「や、やめてー! ぎゃー!
数人取っ組み合いの喧嘩に発展しそうだが、それを差し置いても絶景だ。
女将さんがスススッと静かに近寄ってきた。
「どうですか? ウチの旅館は?」
「すごく素敵です! 来ることができて本当によかったです!」
「ふふふ。私もあなたが来てくれて本当にうれしいわ。来てくれてありがとう。思ったよりも早く再会できたわね」
「えっ?」
私が来て嬉しい? 早く再会できた? 一体どういう事?
凛とした面持ちの女将さん。ニコニコ笑顔で優しく微笑んでいる。
綺麗な着物に身を包んだ女将さんの顔をどこかで見た覚えがあるんだけど…。
最近、本当に最近どこかで……。
「やっぱり素敵な彼氏さんだったわね! あの後付き合えたのかしら?」
悪戯っぽく微笑む女将さん。この笑顔を見て、とある女性の姿が思い浮かんできた。
「………あっ! あぁああああああああ! 遊園地で出会ったおばちゃま!? 嘘っ!? なんで!? おばちゃまが働いている旅館ってここ!?」
「お久しぶり……ってわけでもないけど、ちょっとぶりね、可愛いお嬢さん。割引券にウチの旅館の名前があったはずなのだけど」
「わっ、す、すいません! あの後いろいろあってまだ調べていませんでした」
「うふふ。いいのよ。こうして遊びに来てくれたのだから」
おばちゃまからもらった割引券をもっと詳しく調べておけばよかった。
遊園地デートした後、寝落ちして、そのまま先輩に甘えて、この旅行の準備でバタバタしてたから……。
私が女将さんとお喋りしていると、お姉ちゃんが…いや、美緒ちゃん先生が近づいてきた。
キリッとクールなお仕事姿の美緒ちゃん先生だ。
「いも……ゴホン! 山田さん、一体どうしたの?」
「聞いておね…美緒ちゃん先生! この間先輩と遊園地デートに行ったとき、少しお喋りして仲良くなったおばちゃまが女将さんだったの! すっごい偶然!」
「あらあら! 世間って狭いわね」
おねえ……美緒ちゃん先生と笑いあっていたら、クラスメイト達によってザッと周囲を囲まれた。
何やら怖い。目がキラキラ…いや、ギラギラ輝いて、ニヤニヤニマニマ楽しそうに笑っている。本当に怖い。
「葉月氏。颯氏との遊園地デートとはこれのことですかな?」
変な呼び方で呼ばれた私に一台のスマートフォンが差し出された。
画面に映っていたのは、遊園地のベンチで二人の男女がキスしている場面の写真だ。
カップルの二人はとてもとても見覚えがある。見覚えがありすぎる。毎日毎日見ている顔だ。
「な、なんで私と先輩のキスショットがここにあるのぉぉおおおおおおおおおおお!? どこっ!? 出所はどこ!?」
「ふっふっふ。信頼できるとある情報筋から手に入れた写真ですぞ!」
ザッとみんなの視線が一人の女子に向けられる。
その女子は女将さんの孫だ。舌をペロッと出してブイサインしている。
なんかムカつく。
くっ! そうか。女将さんが遊園地にいたということは、彼女もいた可能性があるのか。これは絶対にいたな。だからこんな写真を!?
「もしかしてこれって……」
「もちろんですぞ葉月氏! ここにいる女子は全員持ってます!」
いえーい、と全員が私と先輩のキスショットを自分のスマートフォンで見せつけてくる。
皆酷いよ…流石にこれは酷すぎるよ…許せない…これはガツンと言わないと!
「みんな! その写真私にもちょうだい! 今すぐ送れ!」
「いいよー」
ピコンッと私のスマホに送られてくる先輩とのキスショット。
ぐふふ……先輩とのキスショット……うふふ……これはいい。いい写真が手に入ったぞ……ふひひ……。
「うわー。ものすっごい頬が緩んでニマニマしてる」
「幸せオーラ全開だね。おっ、くねくねし始めた」
「人ってこんなに蕩けた笑顔になれるのか…羨ましいぞ、この野郎!」
なんか周りが何かを言っているけど、そんなことどうでもいい!
あぁ…観覧車のキスはすごかったなぁ。お化け屋敷の先輩は可愛かったなぁ。
くっ! 今日から二日間先輩と一緒に寝られないというのが残念だ。
いや、待てよ。先輩をこの部屋に引きずり込んで一緒に寝れば……ナイスアイデア! グッジョブ私!
「ねえ、妹ちゃん。弟くんとのキス写真をお姉ちゃんも貰っていい?」
「んっ? いいよー。ほいどうぞ」
「ありがとー!」
お姉ちゃんに今貰った写真を送ってあげる。
お姉ちゃんは嬉しそうに私に抱きついてきた。ふむ、今日もお姉ちゃんの巨乳は素晴らしい柔らかさだ。
「さてさて。葉月氏? やはり美緒ちゃん先生氏の妹になったのですか?」
「全部話してねー。嘘はダメだよー」
「もちろん、夏休みに旦那とやったこともね。遊園地デートやらキスやら全部報告しなさい」
一糸乱れぬ連携で包囲網を築く。どうやら尋問されることは決まっていたらしい。
まあ、言ってもいいよね? どうせ全て白状することになるんだし!
「えーっとね、お姉ちゃんの妹になったのはね……」
こうして、私はお姉ちゃんの妹になった経緯と、夏休みにあった出来事などをクラスメイトの女子たちに喋っていった。
しれっと女将さんも混ざっていたけど仕事はいいのかな?
ずっと一人で喋り続けた私。全部喋り終わった時には、胸や口を押えた女子たちが床で悶え苦しんでいた。
甘い、とか、砂糖が、とか、胸焼けが、とか、キュン死する、とか、幸せって凶器だ、とか言いながらのたうち回っていたけど大丈夫かな?
これでも結構省いたんだけどなぁ。
私は先輩についてならまだまだ喋ることができます! 何時間でも!
「まだまだ先輩とのエピソードあるんだけど聞く?」
「「「「もう勘弁して!」」」」
女子全員から断られてしまいました。解せぬ!
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