第131話 遊園地デートと先輩 その7
私は先輩と遊園地デート中。先輩と写真を撮って、観覧車に乗って、メリーゴーラウンドに乗って、庭園を散歩して、お土産物屋さんを覗いて、少し早い昼食を取って現在に至ります。
お土産物屋さんでは、先輩とペアのキーホルダーを買ったり、お姉ちゃんへのお土産を買いました。絶対に先輩はお化け屋敷に行った後は動けなくなるからね。ふふふ。楽しみ。
昼食は…やっぱり先輩の料理のほうが美味しいと思った。以上! 他に言うことはありません! まあ、いつも通りあ~んをしたというくらいかな?
私はかっこいい先輩の手を握り、あるエリアへと引っ張っていく。
今の私は猛烈に輝く笑顔を浮かべているに違いない!
「い、嫌だ………行きたくない……」
そのエリアが近づくにつれて、先輩の瞳に涙が浮かび、顔が真っ青になって、足取りが重くなっていく。
先輩が行きたくないエリアとはもちろん、ホラーエリアだ!
「行きたくない……行きたくないよ……」
「先輩! 諦めてください! もう決定しているんです!」
「……わかってるけどさ。行きたくないものは行きたくないの!」
「この超絶可愛い女の子の前ですよ? 男の子としてちょっとはかっこつけようとは思わないんですか? 『お前は俺が守る!』的な」
「ホラーの前では無理! むしろ俺が守られたい! 後輩ちゃん! 俺を守って!」
先輩ったらプライドないんですかね? まあ、ホラーの前では無理ということは、逆にホラー以外では守ってくれるということなので、ここは許してあげましょう。
「いいでしょう先輩! 安心して私について来てください!」
「イエスマム!」
あぁ~先輩ったら可愛い…。
もう恐怖で頭が働いていないみたい。ぎゅっと私の手を握って、安心した様子で私について来てくれる。
では、行きましょうか! 恐怖の世界へ! 安心してついて来てくださいね♪ くふふ…。
ホラーエリアはそれらしい建物がたくさん並んでいた。
血濡れた廃病院。墓場の風景が描かれた教会風の建物。夜の学校。
中から甲高い恐怖の悲鳴が響いてくる。
めっちゃ楽しそう!
ついに…ついに私の時代が来たぞー! 待っててね! お化け屋敷!
「うぅ……うぅ……」
途中まで安心して私についてきた先輩は、恐怖でガタガタと震え、もう既に私の腕にしがみついている。
滅茶苦茶可愛い。何この可愛い生き物! もっと愛でたい。先輩の悲鳴が聞きたい! 泣かせた~い!
よし。やるぞ!
「さて、どれから行きますかね。最初に一番怖いお化け屋敷に行ってもいいですけど、その後難易度が下がるんですよねー。やっぱりここは難易度が低い順から行くべきでしょうか? いや、でも、最初に最恐のお化け屋敷に行った方が怖いですよね。くっ! 迷います!」
「あの~? 行かないっていう選択肢は……」
「ありません!」
「ですよね~」
何言ってるんですか、先輩は! 私は今日、お化け屋敷のために来たんですよ! いや、お化け屋敷で怖がる先輩を愛でるために来たんです! 行かないという選択肢は皆無です!
虚ろな笑みを浮かべている先輩は放っておいて、お化け屋敷の順番を決めなければ!
「どうしよっかなぁ~? ここはやっぱり一番怖いのから…でも、先輩が気絶しちゃったら意味ないし…」
「………………その手があったか」
「残念ですが、先輩が気絶したら頬を思いっきり叩いて目覚めさせます。逃げは許しません!」
「ですよね~。と、取り敢えず、あのミラーハウスから行ってもいいか? まだ時間があるし、ゆっくり考えてもいいだろ?」
先輩が指をさした先には楽しそうな建物のミラーハウスがあった。
明らかにお化け屋敷に行くのを先延ばしにしたい先輩の下心が丸見えだけど、ここは乗ってあげましょう。
「いいですよ。ミラーハウス。行きましょうか」
「えっ? マジで? よっしゃ行くぞ! 後輩ちゃん!」
先延ばしだけど、先輩が嬉しそうに顔をほころばせる。そして、私の意見が変わる前にミラーハウスへと引っ張っていく。
ふっふっふ。先輩? ここが何のエリアかお忘れですかな?
私は引っ張られながらほくそ笑んだ。
ホラーエリアのミラーハウスは、いかにもミラーハウスみたいだった。
一歩建物の中に入ると、暗めの照明と全面鏡でもう既にどこへ行ったらいいのかわからない。
「行きますよー! イテッ!」
私は一歩踏み出したところで、鏡にガンっとぶつかった。
「大丈夫か後輩ちゃん!?」
「あははー。大丈夫ですよ」
心配する先輩に、私はぶつけた鼻を撫でながら答えた。
あー痛かった。鼻折れてないよね? 鏡鏡っと。目の前にあったな。うん、ちょっと赤くなってるけど大丈夫。折れてはいない。鼻血も出てない。
私は手を前に出して鏡がないか確認してから歩くようになりました。
先輩と手を繋いでミラーハウスを探検する。
薄暗い部屋の中。前面に写る、鏡の回廊にいる私と先輩。
どこが現実の世界か、どれが本当の自分かわからなくなっていく。
繋がれた手がギュッと握られた。私もギュッと握り返す。
「……後輩ちゃん」
「……先輩」
私たちは見つめ合って、お互いに自然と距離を詰めて唇が繋がった。
目を閉じて、先輩の身体を抱きしめて、先輩の柔らかな唇を、先輩のすべてを感じ取る。
いやー、薄暗い建物中だとムラムラするよね?
キスをしながら薄っすら片目を開けると、無限に広がる鏡の世界の私と先輩もキスをしていた。
真っ赤な顔でキスをしている自分と見つめ合う。
トロ~ンと蕩けてキスを続ける鏡の中の私。
私ってこんな顔してるんだ。恥ずかしい! でも、先輩なら見られてもいいかなぁ。
先輩の唇が離れた。ちょっと、いや、とても残念だ。もっとしたいのになぁ。
目の前の先輩も、鏡の中の先輩も恥ずかしそうにしてる。とても可愛い!
「えーっと…出口、探すか?」
「そうですね! ヘタレ先輩!」
私はとっても可愛い先輩に抱きついた。
「えぇー! 俺、結構頑張ったぞ」
「知りませーん! 私がヘタレと言ったらヘタレなんですぅー!」
あぁもう! そんな顔するから先輩を揶揄いたくなるんですよ!
それに、先輩を揶揄わないと恥ずかしさと嬉しさで死んじゃいそうです!
先輩は、やれやれ、と苦笑して、再び私とミラーハウスの探索をし始める。
鏡にぶつかること十数回。キスをすること三回。やっと出口が見つかった。
出口と壁に書かれている。
「やっとか」
先輩は安心して気を緩めてしまう。
ふっふっふ、このミラーハウスはここからが本番です。
出口と書かれたドアを開けて中に入ると、再び全面鏡張りの空間に出た。
先輩が不思議そうに首をかしげている。
そして、突如鏡に浮かび上がる、朽ちた長い黒髪の女性の姿。
ぽっかり空いた目の穴が私たちを睨んでいる。
『………イカナイデ………』
「きゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
先輩が女の子のように可愛らしい悲鳴を上げて、私に抱きついてくる。
膝はガックガク。私のおっぱいに顔を押し付けて震える先輩。超可愛い!
「きゃははは! 先輩可愛い! 超可愛いですよ! あははははは!」
先輩の怖がりように私は笑いが堪えられない。
鏡の中の女性は何度も、行かないで、と叫んでいる。
先輩は声が聞こえるたびにビクッと震えて、嫌ぁ、と呟いている。
鏡の中の女性が近づいてきた。そして、内側から鏡を叩く動作をする。
ガンガンと鏡を叩く音がスピーカーから流れ出し、同時に鏡も揺れる。
「いやぁぁああああああああああああああああああああああああ!」
女性の一撃で鏡が割れる音が響き、部屋の中の照明が落ちて暗闇が私たちを包む。
『………イクナァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
女性の絶叫が響き渡って、沈黙が訪れる。
数秒したら電気がついて、出口の場所が表示された。どうやらこれで終わりらしい。
ふむ。私としては物足りなかったけど、先輩は今のがだいぶん怖かったみたい。私に抱きついて生まれたての子鹿のように震えている。
先輩の身体をギュッと抱きしめる。私の腕なのに先輩はビクッと震えた。
「もう終わりましたよ」
「な、なななななななななんで……」
「ここはホラーエリアです。ただのミラーハウスのはずがないでしょう?」
「こ、こわかったぁ…」
「はぅっ!?」
涙目で上目遣いの先輩。何この可愛い生き物!
先輩が可愛い。ズッキューンと私の
ねえ? もう襲っていい? この可愛い先輩を食べちゃっていい? 我慢できそうにないんだけど!
確か、恐怖を感じたら生存本能が刺激されて性欲が高まるんじゃなかったっけ?
この場に個室がないことが悔やまれる!
「……もう…ここから出よ…?」
「『お願い葉月ちゃん』って言ったらいいですよ」
「………お願い葉月ちゃん」
「ぐはっ!?」
何という破壊力! 冗談で言ったのに!
涙目で幼児退行している先輩には勝てないかも……。
「ほらほら、先輩。出口はあっちですよ~。私と一緒に行きましょうね~」
「うん」
「ぐほっ!?」
幼児退行した先輩が子供のように頷いて、ぎゅっと手を握ってきた。
先輩のすべての行動が私の心にクリティカルヒットする。
私は手を繋いでいないほうの手で撃ち抜かれた胸を押さえながら、よろよろと先輩と出口に向かう。
まあ、恐怖で震えながらも少し安堵した先輩に、更に追い打ちをかけるのが、この山田葉月という超絶可愛い先輩の後輩ちゃんなのです!
「わぁっ!」
「ひゃぁぁあああああああああああああああああああああああああ!」
「あははははは! きゃははは! あぁもう! 先輩可愛い!」
可愛い悲鳴を上げる先輩。可愛い笑い声を上げる私。
私はポカポカと可愛らしく叩かれた。
先輩、ナイスリアクションでした!
でも、私のパラダイスタイムはまだまだ続く! あぁ~楽しみだなぁ!
先輩、もっと愛でさせてくださいね♡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます