第124話 不満だった後輩ちゃん

 

「あぁ~! お仕事行きたくなぁ~い! やだやだぁ~!」


 仕事の準備をして、玄関で靴を履いたのに三十歳のいい大人が駄々をこねている。


 まあ、桜先生は見た目が二十代前半だから、おかしくない。


 ウルウルとした瞳で俺におねだりポーズをする。



「ねえ? 休んじゃダメかな?」


「ダメです! どうせ明日行くことになるんだから、お仕事頑張ってください!」


「うわぁ~ん! 弟くんが冷たいよぉ~! 妹ちゃ~ん助けて~!」



 桜先生が見送りに来た後輩ちゃんに抱きついた。後輩ちゃんは抱きつかれた桜先生の頭をナデナデしている。



「なんで大人は休みが少ないのぉ~! 大人差別よ大人差別! 子供も大人と同じくらい学校に来なさいよぉ~!」



 大人差別ってなんだよ! シャキッとしろ! このポンコツ教師!


 でも、まあ、大人の皆さん。お疲れ様です。


 我々子どもは存分に夏休みを謳歌いたします。いぇーい!



「お姉ちゃん。ぎゅうしてあげるから頑張ってきて。ほらほら先輩も! むぎゅ~!」


「む、むぎゅ~!」



 俺は後輩ちゃんに言われるまま、ハグしている後輩ちゃんごと桜先生の身体を抱きしめる。二人分の甘い香りと柔らかな感触。こ、これは…癖になりそうだ。


 俺と後輩ちゃんにハグをされた桜先生は嬉しそうな表情で、たっぷり二分ほど抱きしめられていた。


 俺と後輩ちゃんから離れた桜先生。きりっとしたクールな表情で、仕事用の顔になる。



「弟くん、妹ちゃん。行ってきます! 帰ってきたらまたぎゅってしてね! 絶対よ! 絶対だからね!」


「了解姉さん。いってらっしゃい」


「お姉ちゃん、いってらっしゃーい!」



 名残惜しそうな桜先生は覚悟を決めると、玄関のドアを開けて仕事に行った。


 バタンとドアが閉まると、俺と後輩ちゃんだけが取り残される。


 黒のキャミソールという超薄着の後輩ちゃんがクルッと俺の方を向く。


 後輩ちゃんの白い肌と艶めかしい首筋や鎖骨がよく見える。そして、綺麗な胸の谷間と白のブラが見えている。実に素晴らしい光景だ。


 後輩ちゃんが両手を広げて目を瞑った。



「先輩。んっ!」



 俺は後輩ちゃんが何をしたいのかがわからず、首をかしげて考え込む。



「んっ! んっ! んぅ~~~~~~~~~っ!」



 可愛らしい唸り声を上げている。とても可愛い。この待ち受け画面が欲しい。


 これは……キスのおねだりだろうか? 取り敢えず、キスをしてみる。


 後輩ちゃんの腰を優しく掴んで、柔らかな唇にチュッ。


 でも、後輩ちゃんはお気に召さなかったらしい。パチリと綺麗な目を開けて、嬉しそうにしながら拗ねるという器用な芸当を見せる。



「んもぉ~! キスじゃありません! いや、キスもして欲しいですけど! 今日はハグの気分なのです! ハグをしながらキスをするのです!」


「かしこまりました。俺のお姫様」


「んぅっ♡」



 俺はお姫様の要望通り、優しくぎゅっと抱きしめ、再び柔らかな唇に優しくキスを施した。


 お姫様は満足したらしい。俺の腕の中でスリスリしたり気持ちよさそうにしている。


 ウルウルと上目遣いで潤んだ瞳が訴えている。もっとキスをして、と。


 ここまで甘えてくるのは珍しい。何かあったのか?



「後輩ちゃん。もしかして、お盆期間中寂しかったのか?」



 心当たりを述べてみると、後輩ちゃんが恥ずかしそうに顔を逸らした。



「………当たり前です。先輩と一緒に寝られなかったんですよ? 物凄くストレスと欲求が溜まりました」



 なるほど。俺と同じか。だから欲求不満って言っていたのか。


 俺は後輩ちゃんを優しく優しく抱きしめる。そして、何度もキスをする。


 艶やかな後輩ちゃんの唇からゆっくり離れる。


 何度もキスしたことがあるけど、やっぱり何度しても慣れない。


 顔が熱い。後輩ちゃんの顔も真っ赤に染まっている。


 恥ずかしそうで嬉しそうな後輩ちゃんが口を開いた。



「私、決めました。今度から絶対に先輩のおウチにお泊りします! それか、先輩が私のおウチに泊まってください!」


「了解」



 俺も後輩ちゃんと一緒に寝られなくて安眠できなかったんだよなぁ。


 実は俺も今度からそうしようと思っていた。後輩ちゃんがいないと生活ができません!



「では、今日は大変ご不満そうにしているお姫様を癒して差し上げましょう」


「わーい! 今日は一日私を抱きしめて、甘やかして、可愛がって、可愛がるのです!」



 俺は後輩ちゃんから一旦離れて、今度は後ろから優しく抱きしめる。


 手を彼女のお腹に回し、フニフニと触る。薄いキャミソール姿なので、後輩ちゃんの柔らかさが直に伝わってくる。とても柔らかい。


 俺の腕の中の後輩ちゃんがリビングのほうを指さす。



「さあ! 私を抱きしめたまま進むのです!」


「了解です。お姫様」



 俺は後輩ちゃんを後ろから抱きしめたまま、えっちらおっちらリビングに向けて歩いて行った。


 その後、俺は一日中後輩ちゃんを抱きしめているのでした。


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