第121話 ご飯? お風呂? それとも、美緒ちゃんと後輩ちゃん?

 

 お盆が終わる。


 俺は実家から一人暮らし…いや、実質三人暮らしのアパートに向けて、強烈な8月の真夏の日差しの中を歩いている。


 後輩ちゃんと桜先生は二人で先に帰った。俺は置いて行かれた。


 二人は絶世の美女と美少女だから、ナンパ対策に一緒に帰ろうと思っていたけど、二人に拒否された。


 なんでも、瞳から光を消し、据わった目で見つめれば一発で撃退できるらしい。


 二人から放たれた病んだオーラを目の当たりにした俺は、思わず後退りしてしまった。


 滅茶苦茶怖かった。美女と美少女だからこそ滅茶苦茶怖かった。


 二人ともヤンデレじゃないよね? 精神的にちょっと依存されてるけど、病んでないよね? 大丈夫だよね?


 とても心配になりました。


 汗だくになりながら、トボトボと歩いて行く。やっとアパートが見えてきた。


 二階にある俺の部屋。涼しい部屋を期待してドアを開けていく。



「ただいまー!」



 部屋の中は冷房が効いていてひんやりとする。ここが天国なのか!


 ドタドタと奥から後輩ちゃんと桜先生が出迎えに来てくれた。


 ニッコリと輝く笑顔を向けてくれる。



「「おかえりなさーい!」」



 そして、二人は何やら視線を合わせて頷き合うと、ウルウルと上目遣いをしてきた。



「先輩! ご飯にしますか?」


「お風呂にする?」


「「それとも…わ・た・し・た・ち?」」



 二人が同時にウィンクした。


 胸元が見えている二人の薄着の服。谷間を強調させるポーズが可愛らしい。


 紫色とピンク色の可愛らしい下着が見えている。紫が桜先生で、ピンクが後輩ちゃんだ。


 普段なら二人に見惚れるところなんだけど、今の俺はそれどころではなかった。



「っ!?」



 俺は靴を乱暴に脱ぎ捨てると、二人を掻き分け、勢いよく部屋の中に上がる。



「せ、先輩!?」



 後ろから後輩ちゃんのびっくりした声が聞こえたけど、今は答えている暇はない。


 急いで確認しなければ!


 走って向かった先はお風呂。バーンッと扉を開けてお風呂を確認する。


 よしっ! 泡だらけでもない。爆発もしていない。お風呂は大丈夫!


 次だ!


 俺は足音荒く走って、キッチンへ向かう。


 水を飲んだ形跡はあるが、焦げてもいないし爆発もしていない。火災の様子もない。



「あぁ~安心した。よかったよかった」



 俺は額に浮かぶ汗をぬぐった。


 俺が一人安堵していると、背後から二人分の視線を感じた。


 振り向くと、こめかみに青筋が浮かんでいる不機嫌そうな後輩ちゃんと桜先生が俺を睨んでいた。



「おいコラ先輩。何故慌ててお風呂やキッチンを確認していたのか、理由を聞こうじゃありませんか」


「ちょっと弟くんの慌てようは私たちに失礼だと思うの」



 ヤ、ヤバい。二人がキレている。笑顔で微笑んでいるけど薄ら寒い気配が漂ってくる。


 俺は無意識にその場に正座をした。目の前の二人が腕を組んで俺を睨む。



「ふ、二人がお風呂やキッチンを爆破させてないか心配になったので確認をしておりました」


「家事能力皆無のお姉ちゃんと妹ちゃんだけど、流石に爆破はさせないと思うの………たぶん」


「そうですよ! 私たちはそんなことはしません! ………たぶん」



 そこは断言してくださいよ。滅茶苦茶不安になるじゃないですか。



「家事能力皆無を自覚している私たちが、ご飯とお風呂の準備をするはずがありません。だからあそこは最後の”私たち♡”の一択しかないんです! なのに先輩は………!」


「す、すいません」


「というわけで、やり直しを要求します。テイク2です!」



 やり直しをするらしい。


 床で正座している俺の目の前に、後輩ちゃんと桜先生の二人が膝に手を当てて前屈みになる。


 服の奥にある胸の谷間とブラが見えてしまっている。いや、わざと見せている。


 実に素晴らしい光景だ。ありがとうございます!


 二人は大人っぽく妖艶に微笑んだ。



「先輩♡ 私にしますか?」


「お姉ちゃんにする?」


「「それとも…わ・た・し・た・ち?」」



 さっきと言葉が違うんですけど! まあ、これはこれで悪くない。


 お年頃の俺としてはグッとくるシチュエーションだな。



「質問だ。後輩ちゃんだけを選んだらどうなる?」


「私は大変喜んで、先輩に沢山ご奉仕をします」


「でも、お姉ちゃんは泣いちゃいます」



 後輩ちゃんは喜んだ演技をして、桜先生は泣くふりをする。



「じゃあ、姉さんだけを選んだら?」


「お姉ちゃんは大変喜んで、弟くんに沢山ご奉仕をする!」


「でも、私は泣いちゃいます」



 今度は逆で、桜先生は喜んだ演技をしたが、後輩ちゃんは泣き真似をする。



「二人を選んだら?」


「私とお姉ちゃんは大変喜んで」


「弟くんに二人同時にご奉仕する!」



 二人とも、ウィンクして胸ちらをさせる。


 いや、胸ちらさせなくてもがっつり見えていますから。眼福ですけども。


 三択の問題だったけれど、四択目、誰も選ばなかったらどうなるんだろう?



「どれも選ばなかったらどうなるんだ?」


「「泣いちゃう!」」



 ふむ。やっぱり二人は泣いちゃうのか。


 じゃあ、二人を悲しませないように三番目の”私たち”を選ばないといけないな。


 俺は、年頃の男として美女と美少女のご奉仕を選ぶという選択を……ゲフンゲフン、二人を悲しませないという最善の選択を選ぶことにする。苦渋の決断だ。


 決して下心がないわけではないこともなくはない。



「後輩ちゃんと姉さんでお願いします。でも、汗かいたから先に着替えてもいい?」


「ふふふっ。そういうことは任せてください♡」


「お姉ちゃんと妹ちゃんが弟くんの身体をフキフキしてあげますね♡」


「えっ? えっ? 冗談じゃないの? 本気なの!?」



 ご奉仕は冗談で、俺を揶揄って遊ぶだけだと思っていたのに、俺は両サイドを後輩ちゃんと桜先生にがっちりと掴まれ連行される。


 寝室に連行され、二人の手にはいつの間にか濡れたタオルがあった。


 汗をかいて帰ってくることを予想していたらしい。


 今にも涎を垂らしそうに、欲にまみれた厭らしい笑みを浮かべる美女と美少女。



「ぐへへ…」


「ごくり…」


「ふ、二人とも? 怖いんだけど! 目がぎらついているんだけど! 来ないで! 近づいてこないで!」


「せんぱぁ~い。大人しくしててくださいね」


「すぐきれいさっぱりするから」


「く、来るな! 来るなぁあああああああああああああああああ!」



 その後、げっそりとやせ細った俺と、お肌がつやっつやした処女ッてる痴女の二人の姿があったとさ。


 俺たちの間に何があったのかはご想像にお任せする。


 まあ、きれいさっぱりにはなりました。

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