第89話 花火大会と後輩ちゃん その3
俺は一人キッチンでカチャカチャとお皿を洗っている。俺の作ったアップルパイは全て食べられた。結構大きかったと思うんだけど、みんな幸せそうに食べてくれたから安心した。
俺は一人でお皿洗い中で、他の四人はぐ~たらしている。二人は戦力外で、残りの二人はお客さんだから仕方がない。ササッと洗って手を拭きながらリビングへと戻る。
幸せそうに顔を緩ませた楓がお腹を撫でている。
「ふぇ~。お兄ちゃんの作るお菓子は絶品だよぉ~。美味しかった美味しかった」
「そりゃどうも」
「もう先輩なしではいられません! 普通の料理では満足できませんよ!」
後輩ちゃんが興奮している。俺の料理には愛という麻薬?媚薬?が入っているらしいからな。
だから後輩ちゃん、肉食獣のような瞳で俺を見ないでください。
「そうよねぇ。弟くんの料理が美味しすぎて、もうコンビニ弁当が美味しく感じられないの。インスタントラーメンもなんで美味しいと思っていたのかしら」
桜先生が恍惚とした表情でお腹を撫でている。仕草が大人の色気を放っており、エロティックだ。
あっ、見惚れてしまった裕也が楓に目つぶしされた。ドンマイ!
ぐおー、と叫び声をあげながらのたうち回る裕也を放置して、楓が人差し指と中指をハンカチで拭いながら桜先生の胸を凝視している。
「………今までコンビニ弁当とインスタントで生活していたのに、なんで太っていないの? 脂肪は全部その大きなおっぱいとお尻にいってるの? お姉ちゃんはボンキュッボン……くびれがすごいんだけど………私の敵」
「わ、私って敵なの!?」
「お姉ちゃんも葉月ちゃんも私の敵だぁー! 巨乳は天敵だぁー!」
巨乳の桜先生と平均より大きな胸の後輩ちゃんに、スレンダーな楓が敵意を向けている。最近毎日桜先生と生活しているけど、巨乳は巨乳で大変そうだぞ。
楓が何やらすり寄ってきた。
「その点、お兄ちゃんは私の味方です。ちゃんとカロリーを考えて料理したり、お菓子を作ってくれるので! 最近お兄ちゃんが家にいなくて、体重維持が大変だけど……」
あぁ~、普通はそうだよね。健康とためにいろいろといつもは考えているんだけど、今日はお祭りだから…ね。
「ねえお兄ちゃん? なんで視線を逸らすの? ねえねえ? 嫌な予感がするんだけど……。お兄ちゃん? ちょっと私と視線を合わせてくれる?」
「………………ごめん楓」
その一言で全てを察したのだろう。楓が絶望する。この世の終わりが来たらしい。
「………………お兄ちゃんの鬼! 鬼畜! ヘタレ! あはは……私、アップルパイをたくさん食べちゃった………あはは…」
楓の顔から感情が抜け落ちた。瞳から光が消えている。
今日はお祭りだから、と思って全く考えずに作ってしまったのだ。何かごめんなさい。後輩ちゃんや桜先生は意外と体重を気にしない人なので、全く考えずに作ってしまいました。本当にごめんなさい。
絶望する楓にすかさず後輩ちゃんがフォローに入る。
「だ、大丈夫だよ楓ちゃん! 夕食を減らせばいいんだよ!」
「………お兄ちゃんの美味しい料理を減らすことができると思う? そんな苦行……いや、拷問できると思う? お兄ちゃんの料理だよ?」
「………………できません。ごめんなさい」
のっぺりとした顔の楓に後輩ちゃんが一瞬で言い負けた。フォローできなかったらしい。
こういう時に慰める彼氏の裕也は床で目を押さえて転げまわっているし、桜先生はオロオロと戸惑っている。誰も楓をフォローできる人がいないらしい。
仕方がないから俺がするか。
「おーい楓よ。夕食は野菜たっぷりのお好み焼き中心だからな。マヨネーズをドバドバかけない限り大丈夫だぞ」
言葉を聞いた楓が一瞬で復活する。
「本当!? やったー! お兄ちゃん大好き!」
と言って楓が抱きついた……桜先生に。いや、そこは俺に抱きつくところじゃない? まあ、妹に抱きつかれても何も思いませんが。
「楓さんや? 何故姉さんに抱きつく?」
「…そこに大きな大きなおっぱいがあるから?」
「揉むのをやめろ!」
「えぇー!」
可愛らしく抗議してもダメだ! だから、両手で揉みしだくな! 先生の胸がすごいことになってるから!
うわっ、物凄く柔らかそう…まあ、実際にすごく柔らかいけど……って、俺は何を考えているんだ。楓さん止めてください! 目に毒です。
「わ、私は気にしないけど?」
「だってさ。お姉ちゃんの許しも貰いました! あっ、お兄ちゃんも揉みたかった? 一緒に揉む?」
「揉まない!」
「なるほど! 後で揉む気ですな?」
ニヤニヤ顔の楓をどうにかしたい。我慢しろ、俺。今すぐ家から追い出したいけど、我慢するんだ。
こういう時に妹を押し付ける生贄は……まだ床をのたうち回ってる。今日は復活遅いな。
俺が必死に我慢していたら、後輩ちゃんが可愛らしくクスクス笑っている。
「楓ちゃんに振り回される先輩って可愛いですね」
「いつもは後輩ちゃんに振り回されてるけどな」
「ふふふ。いつも可愛いですよ。私が可愛がっているおかげですね!」
「このドS後輩ちゃんめ!」
「あれっ? 前に言いましたよね? 私ってどっちかというとMなんですけど」
そう言えば、前に言ってたな。最近、後輩ちゃんが積極的で忘れてた。
「ぐへへ……二人がハードなプレイをするのかな? かな? というかヘタレのお兄ちゃん! SやMの体質の話ができるのに、なんで告白できないの! どっちかというと、SMのほうが暴露するのに勇気がいるでしょうが!」
いやいや、告白のほうが勇気がいると思うんだが。それに、近くにSMバカップルがいるから、慣れたというか……。
「キスしたのに告白してないとか、どんだけヘタレるつもりなの!? こうなったら葉月ちゃんが悩殺するしかないよ! 目指せ既成事実! というわけで、葉月ちゃん、お姉ちゃん、行くよ!」
「「えっ?」」
「お兄ちゃん、寝室借ります。絶対覗いだらダメだよ!」
楓が後輩ちゃんと桜先生の手を掴んで寝室へと押し込んだ。そして、持ってきた荷物のいくつかと一緒に寝室へと消えていった。
嵐……いや、竜巻のような勢いとスピードだった。連れていかれた後輩ちゃんと桜先生も呆然としているだろう。
一体どうなることやら。予想はつくから、このまま楽しみに待っておこう。
俺はリビングで女性陣が戻ってくるまで大人しくしていた。
「なあ裕也? いつまでのたうち回ってるつもりだ?」
「………だって誰も俺に気づいてくれないから。叫び声も上げてたんだけど」
「何で俺の家に来たら残念になるんだ? 折角のイケメンなのに」
「さあ? でも、楓ちゃんの容赦ない一撃ってすごいよなぁ」
うん、残念なドМのことなんか放っておこう。
<おまけ>
楓:「ベッドにダ~イブ! むほほぉ~! クンクン。お兄ちゃんと葉月ちゃんの濃密な香りがしますなぁ。お姉ちゃんの香りもちょっとするね」
葉月:「い、一緒に寝てるだけだから! 普通に寝てるだけだから!」
楓:「うんうん。イチャイチャしているようで安心しました。でも、お兄ちゃんはヘタレだから、理性を崩壊させないと手を出してくれないでしょ? というわけで、花火大会と言ったらコレ! 用意してきたので着替えましょう! これでお兄ちゃんを悩殺するのだ!」
葉月:「これって……」
美緒:「あの~? なんで私の分まであるの?」
楓:「んっ? 普通にお母さんが渡してくれたけど。娘三人分って」
美緒:「えっ?」
葉月:「お姉ちゃん……先輩のお母様なので普通じゃないよ。先輩と楓ちゃんを産んで育てた人だから」
美緒:「あぁ~!」
楓:「ねえ? なんでそこで納得するのかな? 確かにお母さんは普通じゃないけど! ちょっと心の中が複雑なので八つ当たりをします」
葉月:「きゃあっ! ちょっと楓ちゃん!? 服を脱がさないで!」
楓:「大丈夫大丈夫! 着替えるだけだから! ぐへへ……女の私でも見惚れちゃうくらい綺麗な身体ですなぁ」
葉月:「それならお姉ちゃんのほうがすごいから!」
楓:「それもそうか。ぐへへ……」
葉月:「ついでに私もぐへへ……」
美緒:「あ、あれ? ふ、二人とも? ちょっと怖いんだけど。目がギラギラしてて怖いんだけど!」
葉月&楓:「「問答無用!」」
美緒:「だめぇぇええええええ! らめなのぉぉおおおおおおおおおお!」
颯:「んっ? 今、姉さんの喘ぎ声が聞こえたような……気のせいか」
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