第60話 疲れ果てた俺

 

 今日は一日中桜先生の家を掃除していたのでとても疲れた。


 寝る準備が終わってから疲れがどっと来た。もう動きたくない。


 後は寝るだけだけど、まだちょっと寝たくない。


 うぅ……癒しが欲しい。



「先輩! 一緒に寝ましょう!」



 寝る準備が終わった後輩ちゃんがナイスタイミングで寝室に入ってきた。


 俺は即座に捕獲する。



「…えっ! なになにっ! なんですか先輩!?」



 捕獲されて驚きの声を上げているが、一切抵抗がない後輩ちゃんを抱きしめてベッドに運ぶ。



「えっ? 何が起こってるの?」



 混乱する後輩ちゃん。俺は構わず後輩ちゃんを抱き枕にして、顔を擦り付ける。


 後輩ちゃんは温かくて甘い香りがして柔らかい。とても気持ちいい。


 ん? 何やら柔らかい。これは後輩ちゃんの胸? うん、まあ今日はいいか。



「えっ? えっ? 先輩が私のおっぱいに顔を擦り付けてるぅっ!?」



 後輩ちゃんは混乱してるなぁ。いつもなら気絶するのに。びっくりしすぎて気絶しないみたいだ。


 後輩ちゃんを抱きしめていると安心する。何でだろうなぁ。



「せ、先輩? 一体どうしたんですか?」


「………………つかれた」


「疲れた? あっ! 今日一日お掃除していましたもんね」


「………………癒して」


「おぉ……相当疲れていますね。可愛い……。いいでしょう! 先輩を癒すのが私の仕事です! 私が疲れを癒してあげましょう! ということで、ナデナデしてあげますね。今日はお疲れさまでした」



 後輩ちゃんが頭を優しく撫でてくれる。とても気持ちいい。



「あ、あんまり動かないでください。お胸に顔が……」


「……………気持ちいい」


「うわぁ……先輩が重症です。でも可愛いです! よし! もう好きにしてください!」



 後輩ちゃんからお許しが出たので身体をあちこち触り始める。



「ひゃぅっ」



 ふにふにして柔らかい。今触っているのは太もも? お尻? まあ、どこでもいいや。ふにふにさわさわと触り続ける。



「あぅ…んんっ」



 後輩ちゃんの喘ぎ声が聞こえた気がする。うん、気のせいか。俺はふにふにを続ける。


 どのくらい時間が経ったのだろう? ふぅ。やっと癒されてきた。


 あれ? なんで俺は後輩ちゃんの胸に顔を押し付けているんだろう? この手の感触は後輩ちゃんのお尻?


 今更ながら恥ずかしくなってきた。


 後輩ちゃんは……何か身体が火照って目がトロンとしている。何かエロい。



「後輩ちゃん?」


「ふぇっ?」



 幸せそうに顔が緩みきっている。それに今にも涎が垂れそうだ。目の焦点が合っていない。



「後輩ちゃん大丈夫?」


「ら、らいじょうぶれすよぉ~!」



 うん、大丈夫じゃないな。気絶する寸前に見える。頭がオーバーヒートしているみたいだ。身体はピクピク痙攣しているし。


 俺は後輩ちゃんを後ろから抱きしめた。そして、いつものようにお腹をふにふにする。後輩ちゃんのお腹は最高だ。ずっと触っていたくなる。


 しばらくお腹をふにふにしていたら、後輩ちゃんが落ち着いた。何故かキョロキョロしている。



「後輩ちゃん?」


「あれっ? 先輩? いつもの先輩ですね。元に戻ったんですか。それで、その…いつの間にこの体勢になったんですか?」


「ちょっと前。気づかなかった?」


「気づかなかったです。そして、なぜ私のお腹を触っているのですか?」


「触りたくなったから」


「そうですか」



 後輩ちゃんは抵抗しない。俺に体重を預けてリラックスしている。


 後輩ちゃんが俺の片手を握りしめてきた。柔らかい手を握りながら、もう片方の手で後輩ちゃんのお腹を触る。


 後輩ちゃんがギュッと手を握りしめて話しかけてきた。



「今日の先輩はお疲れでしたね。一心不乱に私の身体を触っていましたよ」


「えっ…?」


「私が話しかけても途中から全く反応ありませんでしたからね。ふふふ…可愛かったですよ」


「ごめん」


「謝ることないですよ! いやーすごかったです。私、気絶……してましたっけ? 途中から記憶があるような無いような……」



 後輩ちゃんが首をかしげている。



「俺が気づいたときは、反応はするけど半分気絶してる感じだったぞ」


「ですよね。ふわふわした夢の中にいる感じでした」



 俺は後輩ちゃんの柔らかな身体を感じる。心まで温かくなる。


 俺は後輩ちゃんを抱きしめたままシーツを被る。そして、軽くくすぐる。



「ひゃっ! ちょっと! なんでくすぐるんですか!」



 後輩ちゃんが身体を動かして抵抗してくる。抵抗されるともっとしたくなるんだよなぁ。



「あははははは! も、もう! 止めてください! えいっ!」



 後輩ちゃんが俺の腕から抜け出し、体勢を変える。


 俺の上に馬乗りになり覆いかぶさってきた。


 後輩ちゃんのシャンプーの香りがする柔らかな髪が俺の顔をくすぐる。俺たちは至近距離で見つめ合った。


 綺麗な黒い瞳が俺を射抜く。俺は後輩ちゃんに囚われた。魅了されて身体が動かない。


 ぷっくらとしたピンク色の唇から囁き声が漏れる。



「お仕置きです」



 後輩ちゃんの顔がゆっくりと近づいてきた。唇がわずかに開き、興奮した熱い吐息が顔にかかる。徐々に近づいた後輩ちゃんの唇が――――


 チュッ


 柔らかな感触が鼻に当たった。唇ではない。鼻だった。


 バッと可愛らしい顔が勢いよく離れる。そして、楽しそうにニヤリと笑った。



「ふっふっふ! 残念でした! 唇にキスしてもらえると思いましたか! その残念そうな顔! ナイスです先輩!」



 ムカッ! 確かに期待しましたよ。ええ、期待しましたとも! 大変期待してしまいましたよ!



「私だって成長しているのです! 気絶しませんよ!」



 ええ、そうですね。気絶しないのは特訓の成果ですね。すごいすごい。



「私からは初めての唇へのキスも愛の告白もしませんよ! ヘタレ先輩! だから…」



 ニヤニヤしていた後輩ちゃんの表情がスッと変わった。俺のことを愛おしげに見つめてくる。



「ずっと待ってますから」



 それはズルい! 後輩ちゃんが可愛すぎる。ドキッとした。ドキッとしてしまった。後輩ちゃんはどれだけ俺を惚れさせれば気が済むのだろうか。


 視線を逸らしたいけど、身体が思うように動かない。後輩ちゃんから目が離せない。


 後輩ちゃんがクスクスと笑う。



「ふふふ。先輩? ドキッとしましたか?」


「…………うるさい」


「いつまで私を待たせる気ですかね?」


「…………さあな」


「今からキスしたり告白しますか?」


「…………今日は疲れたから寝る!」


「ありゃま。先輩が拗ねちゃいました。そんな先輩も可愛いですけど! 今日はもう遅いし寝ましょうか」



 時計を見るともう真夜中を過ぎている。いつの間にこんな時間が経ったのだろう? 明日は学校があるし寝るか。


 後輩ちゃんは横になって嬉しそうにスリスリしてくる。後輩ちゃんは寝る前にいつもスリスリしてくる。スリスリした後は大抵数秒で寝てしまう。


 ほら、もう、瞼が閉じかかっている。



「………おやしゅみなしゃい」



 微かに呟いた後輩ちゃんはもう既に夢の世界に旅立ってしまった。幸せそうな寝顔だ。驚くほどの寝つきの良さ。いつも感心する。



「おやすみ葉月」



 俺は毎日の密かな日課であるおやすみのキスを後輩ちゃんのおでこにそっと施す。


 後輩ちゃんのおかげで精神は癒された。あとは身体を休めるだけ。後輩ちゃんの温もりを感じながら、疲れ切った俺はあっさりと夢の世界に落ちて行った。


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