感情力発電装置

空蟬

第1話

冷蔵庫、洗濯機、エアコン、スマホ等、我々の生活に必要なものは電力を消費する。その電力を発電するために、火力、原子力、水力、風力、地熱、太陽光を利用した発電方法があるが、既に石油、石炭、天然ガス等のエネルギー資源は枯渇してきていて、火力発電の使用が制限されていた。さらにここ最近の爆発的な人口増加に伴って、ここに挙げた発電方法だけでは、世界中に電力を供給することはできないと言われている。


「これで、いいんだ・・・」


遡ること半年前、その日から俺たちの暮らし、いや俺たちだけではなく、おそらく世界中の人々の生き方が変わっただろう。


「パパ!明日は遊園地行くんだよね!」

「そうだぞ~!乗り物にいっぱい乗るぞ~!」

「わーい!!」

リビングをどたどたと駆け回り、まるでもう遊園地に来ているかのようにはしゃぐ娘の鈴花(りんか)をみると、俺自身もなんだか嬉しくなってしまう。

そんな俺たち二人の[喜]感情力が電力に変換され、少しずつ電力貯蔵器に貯まっていくのを見ていた妻の美香(みか)も微笑んでいた。

「二人とも!そんなにはしゃいでるけど、もう明日の準備はしたのかな?」

「やばい、早く準備するぞ鈴花!」

「うん!」

「もう俊介(しゅんすけ)!明日は早いんだから!」

「ごめんごめん~!」


美香と結婚し、鈴花が生まれてから5年。俺は少しずつだが幸せな家庭を築いていた。

「よし、準備完了!明日は思いっきり楽しむぞ!」

ここ最近仕事が忙しく、なかなか休みが取れなかったため、明日は久しぶりの楽しい休暇だ。鈴花以上に俺の方が心躍っているかもしれないな。それは腕にしている装置の[喜]メーターが、鈴花が70なのに対して、俺のは75と表示されていることからも明らかだった。


俺たちの腕についているこの装置は、感情力発電装置と呼ばれるものである。

この装置は身につけている人の感情をはかる測定メーターである。測定できる感情は喜怒哀楽の4種類。自分が現在どういう感情なのかを数値として表示してくれる。例えば、友達からプレゼントを貰ったとする。すると[喜]メーターが50といった整数で表示される。もしそのプレゼントが自分の想い人からだったら、[喜]メーターが50よりも大きい100を表示するといったように、感情の大小も分かるようになっている。さらに、この装置は感情を測定するだけでなく、感情を電力に変換することができる。政府は電力を発電する新規のエネルギーとして、人間の感情に関心を持った。感情は人間の内側から芽生えるものであり、コストがかからない。そして、時にそれはとてつもないエネルギーを生み出す可能性もある。加えて、無感情の人が増えている今の時代に、人間らしさを取り戻すきっかけを与えることができる、といった点から世界中の有識者を集め、この感情力発電装置を開発し、世界中の人々に配布している。

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