第19.5話 魔族討伐・???

「クソがっ!」


 椅子に座った、ローブを着た男が怒り、地面を蹴る。


『なんなんだあいつは!?わざわざ雑魚を一掃するついでに、あいつらの実力を測るはずだったのに!なんであんな、変なチビに殺されなければならないんだ!』


 そう考え、再びクソ!と言いつつ、椅子の肘掛を殴った。

 そんな男を、傍にいた異形の者が宥める。


「まあ落ち着きましょう。戦力を削げたのに、何故そんな怒っているんですか?」

「戦力は確かに削げたが、本来ならもっと殺してるはずだろ!一人も死んでないじゃないか!」

「それは後で、まとめてやればいい事。こちらに攻めて来る者達を、全て殺してね。どの道奴等を殺せば、町ごと全て、潰すおつもりでしょう?」


 にやりと笑う異形の者。

 だが、ローブを着た男は、怒りが収まっていなかった。


「だが精霊使いが、まともに闘っていない!奴の実力を測るのも、目的だったはずだ!それになんだあの魔獣は!?見た事ないぞ!?」

「確かにそうですが。噂の森の中の女神が、大した実力じゃないと分かりましたよ?それに精霊使いの実力は、分かりませんでしたが、鉄棒使いとあの小さい人間の実力は、大体分かったので、十分かと思いますが。」


 なんで、そんな余裕なんだと思う男。

 確かに女神と呼ばれてたあの女、あいつが弱い事は分かった。

 他の者も、あの女程度だろう。

 あの変なチビと鉄棒使いは、悪魔と同程度くらいだろう。

 だが問題は、精霊使いの実力が全く読めない事と、あの変なチビが従えている魔獣だ。

 あのふざけた、でかい火の玉を使ったあの魔獣。

 見た事すらないのに、何故あんな奴が、変なチビに従っているかも理解できなかった。


「ならば、あの魔獣……貴様なら勝てるか……?」

「間違いなく。あの火の玉が、魔力で作られたとなれば、多少苦戦はしましょうが、奴がやったのは魔法ですからね。魔法は所詮、魔法です。純然たる奴の力じゃありません。」

「それだけじゃ、実力が全く読めないじゃないか。」

「使役魔獣は、仕えている者より強い事はあり得ないと、主が過去におっしゃっていましたよ。魔族とは違うと。いいとこ、長命な魔獣なのでしょう。魔法を覚えている程度で、あの小さい人間の力は、超えていないと思います。魔力量がそもそも、大した量じゃありませんしね。」


 納得は出来るが、どこかこの余裕が不安だった。

 だがその不安は、自分が小心者だからかなのか、と考える。


「精霊使いには、勝てるか?」

「実力の程は分かりませんが、所詮は人間です。問題ないでしょう。私は主のおかげで、ここまで力を得たんですよ?主はもう少し、自信をお持ちください。」


 そう言われ、男は考える。

 こいつなら、確かに余裕かもしれない。

 こいつがいれば、町どころか都市一つ、いや国すら破壊するのも可能かもしれない。

 だが生まれて間もないこいつは、どこか考えが浅い気がしてならない。


 異形の者は、このままわざわざ待たず、追い打ちをかける事を提案する。

 だが、男はそれを拒否する。

 仮に今ある、全勢力で潰しにかかれば、全員を殲滅出来る可能性はあるだろう。

 しかし男は、魔獣の放ったあの魔法が気になった。

 作り上げるのに時間はかかっていたようだが、もしあれを分裂させず、一つの火球として、攻撃してきた場合、こいつでさえ耐えられないのではと考えた。

 それならば、この洞窟内に来てしまえば、あの魔法は撃てない。

 崩壊するリスクがあり、撃たないだろうという考えもあるが、何よりこの洞窟内は、男の魔法によって、魔素の流れが乱れていた。

 ここで普通の魔法を使おうとしても、上手くいかないだろう。

 故にここで、迎え撃つことに決めた。


 そして魔素の流れが乱れている、この場で戦うからこそ男は、精霊使いの実力を知りたかった。

 唯一ここで、通常通り使えるのは、魔力変換と精霊術だった。

 男は精霊術について、知識はあるモノの、実際に扱える訳ではない為、どの程度の威力なのか、想定出来なかった。

 さらに、ここに来る精霊使いはランクBだ。

 冒険者達の中でも、高ランクの者。

 男は洞窟を監視されている事すら、気付かなかった。

 異形の者が、監視されている事に気付いたが、どのような方法で、どこから監視しているかは異形の者ですら、分からなかった。

 そんな精霊使いの実力を、今回の奇襲で探りたかったのだ。


 本来であればただの奇襲が、まず悪魔が、わざわざ上空で話しかけるという馬鹿な真似をしていた。

 悪魔達はこちらに生まれて間もないはずなのに、やたらとプライドが高い。

 元々そういうモノなのか、とにかくこちらの世界の者達を蔑む傾向がある。

 そして自分達は、絶対的な力があると。

 事実、村一つ滅ぼすのに苦労はしなかった。

 だが、悪魔は知らない。

 この世界が広く、悪魔すら倒す者達がいる事を。


 悪魔達は彼等が住む世界では、上位種族だ。

 彼等より上の者達は、数えられる程しかいない。

 しかしそれは、彼等の世界が、魔力や精神力といったモノのみで強さが決まり、こちらの世界の戦闘による強さとは異なっていたからだ。

 だが悪魔達は、こちらの世界も、魔素があり、魔力が流れている事を知っている。

 故に悪魔達は、この世界でも上位だろうと考えていた。

 他の者達は、所詮下等な種族と。

 事実それはあながち間違いではないが、こちらの世界で完全な上位種族ではなかった。

 それは肉体を持ち、様々な技術が発展しているこの世界において、単純な魔力だけでは、全く測れないものだった。

 大体の悪魔がそれを知らずに、知った頃には殺されている。

 それはこの洞窟にいる悪魔達も、大した差はなかった。

 しかも魔法を使う者達は、村にいる弱い者としか会った事がない。

 多少強い者がいた所で、自分より強いという発想には至らないのだ。

 

 そして、それは異形の者も一緒だった。

 さらに異形の者は、悪魔達すら従える事が出来る程、強くなっていた。

 自分より強い者はいないとさえ、錯覚するほどだった。

 それ故に、彼が見た事のない、主から話だけ聞く、精霊術とやらを使う者。

 自分の探知能力の網を掻い潜る程の相手にも関わらず、自分が負ける可能性というのは、微塵も考えていなかった。

 そして他の者達は、自分程魔力を保有している者が見当たらない事で、余計に負ける要素がなかった。

 それゆえに、追撃をかけようと提案するが、断られる。

 主は、慎重過ぎると考えるが、洞窟内ならば、魔法は使えないとみてよい。

 それならば、1%も負ける要素はない、ただ虐殺するだけかと考える。

 異形の者が、虐殺を嫌っていたわけではなかったが、ずっと隠れながら、弱い者を殺し続けてきたため、少しくらいは戦闘で楽しみが欲しいと思っていた所だった。

 精霊使いに期待を少ししつつ、今回もまたいつも通りの虐殺。

 ほんの少し強い者が増えた程度だろう、とそう異形の者は考えた。


「兎に角だ!ここで負ける訳にはいかん!奴等が洞窟に入り次第、全勢力を持って、潰しに行く!」

「かしこまりました。私の主マイマスター。」


 彼ら二人、そしてその仲間達は、臨戦態勢に入り、冒険者達を出迎える準備をする。

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