第18話 魔族討伐・開戦

 敵が来るのを構え、待っていた。

 すると、討伐隊が集まっている上空に悪魔デビルが現れた。

 体長は大きく、2メートルは優に超え、鋭い爪と牙を持ち、肌は赤黒く光っていた。

 大きな翼をゆらゆらと動かし、両手を広げ話しかけてきた。


「こんばんは。下等な人間共よ。貴様らはわれ――」


 悪魔の発言は、そこで遮られた。

 シリルが、悪魔の後ろから、アルマに乗り、真っ先に突っ込んだのだ。

 アルマから飛び上がり、雷に変換した魔力を右の貫手に込め、首を切りに行く。

 寸での所で悪魔が、シリルの腕を掴む。

 シリルは間髪入れずに、左足で蹴りを入れようとするが、それも余裕で防がれる。


 「話もき――」


 するとアルマが、悪魔の後ろから炎を吐きながら、突っ込んで来た。

 余裕ぶっていた所為で、アルマの炎を直撃する。

 基本的に魔族は、炎に弱いとされ、更にアルマの予想以上の威力に、シリルを投げ飛ばし、慌てて魔力を高め、逃げ出すが、かなりのダメージを負ったようだった。

 投げ飛ばされたシリルは、すぐさま空を蹴り、悪魔へと飛び込みつつ、アルマと二人で、炎の球を作り、攻撃しようとする。

 だがしかし、そこに悪魔の姿はなかった。


 そして、討伐隊達の真中に突如現れる。


「クソ共がっ!雑魚からみなごろ――」

「シリル!さすが喧嘩っぱやいな!」


 そう言いつつ、今度はグラントが悪魔に殴り掛かった。

 それも当たらず、悪魔は再び消えた。

 小悪魔レッサーデビル百角の猟犬ケルスハウンドが、一斉に攻めて来る。


「あのガキ、さいっこうじゃねえか!行くぞ!野郎共!」


 ギデオンはどうやら、シリルの速攻に刺激されたようで、百角の猟犬へと突っ込む。

 鉄剣の制裁の他のメンバーも、リーダーの援護をしつつ、敵に突っ込んでいく。


「これじゃあ、目的も聞けないじゃない。なんなの、あの野蛮な子供は。」

「全くですね。」


 そう言ったのは、アレグロだ。

 彼女はそう言いつつ、魔法で炎の弾を放ち、瞬時に三体の小悪魔を倒していた。

 そして彼女の仲間も、アレグロを守りつつ、すでに小悪魔と百角の猟犬を、相手していた。


「開戦だ!皆の者!征くぞ!」


 騎乗戦士の一団もマーティーの声に続き、すぐさま、リーチの長い槍を持つものを先頭に、敵に突っ込む。


 百角の猟犬とは、4メートル程の大きく固い体を持ち、長く鋭い角が、体の至る所から生えている、凶暴な魔族の犬だ。

 ゆえに、彼等の様に、リーチの長い獲物で討伐するのは、賢い戦法だった。

 ギデオンも大剣を持っているとはいえ、リーチで言えばギリギリだったが、力と魔法でそれをねじ伏せる。


 シリルが攻めた時、真っ先に動いていたのは、クレアだった。

 悪魔が上空に現れた瞬間、シリルが様子を見るなんて事はしないと分かっていて、ほぼ同時に動いていた。

 自分では、悪魔を倒すにはまだ力が足りないと判断し、悪魔が出現した近くの、小悪魔達と百角の猟犬に対峙していた。


 そしてその次に、動いていたのが無名だ。

 まるでクレアを補佐するように、小悪魔達を殺しつつ、百角の猟犬を牽制する。


「みんな血の気が多いねー。」


 ニコニコしながら、状況を見ていたジェフリーだが、彼の足元から一気に木の根が飛び出し、彼に向かっていた小悪魔達六体をなぎ倒し、百角の猟犬を縛り上げる。

 精霊の力を借りた、魔法とは別の精霊術という力だ。


 各地で戦闘が始まり、周辺は一気に乱戦状態となる。


 シリルは悪魔を取り逃がし、上空から戦場を見つめる。

 初めて戦闘中に、見失って驚いていた。

 そして念話で、アルマに問う。


『どうやって、あの悪魔は消えてるの?』

『あれは影移動だな。闇移動と言った方が、近いがな。闇の中に溶け込み、その中を移動出来る。月明りで一瞬出来た、私達の影に入ったのだろう。今は夜だから、月明かりが届いていない所は、どこでも移動出来るぞ。』

『ふうん。じゃあ明るくすればいいの?』

『そうだが、森の中だからな。木が多くて、影なんていくらでもある。』

『……分かった!』


 自分の視界から、敵が消えたのは初めての経験だった。

 珍しく興味が、沸いていた。

 見た事のない技を使う敵に、標的を定めたのだ。

 シリルならば、片っ端から倒すと思っていた、アルマは驚く。

 そして満面の笑みで笑っているシリルに、嫌な予感を抱く。



 どうやら、何者かの指示により、小悪魔は六体ずつ、百角の猟犬は一体ずつに分かれていたようだった。

 討伐隊は、シリルとグラントを除き、皆百角の猟犬と小悪魔を相手取っていた。



 ギデオン率いる鉄剣の制裁は、さすがに全員がランクCだけあった。

 ギデオンが最初に、百角の猟犬を相手し、動きを抑えると、残りの五人は、一瞬で小悪魔達を葬る。

 小悪魔達を片付けると、一斉に百角の猟犬へと攻撃を加える。

 鉄剣の制裁は、全員が剣を持ち、そのすべてが魔法付与されている剣だった。

 百角の猟犬は、角から槍を、口からは黒い炎を吐き、全員をまとめて片付けようとするも、鉄剣の制裁達は、お構いなしに攻撃を加える。

 ダメージを負うが、耐久性の高い鎧に、戦闘開始と共に、相当高度な防御魔法を纏っていたようで、かなり軽減される。

 そして仲間達が一斉に叩き伏せると、ギデオンが剣に、更に魔法を加え、巨大な炎の刃を解き放つ。

 燃え上がり倒れる、百角の猟犬。

 そして一瞬、百角の猟犬の魔力が上がる。

 しかし、仲間達が倒れた瞬間に追撃を加え、更にギデオンが止めと、爆炎の魔法を剣に込め、振り下ろす。

 百角の猟犬は、跡形もなく消え去っていた。



 魔女と仲間達の一行は、アレグロの周辺を固めつつ、三体の小悪魔と、百角の猟犬を相手取っていた。

 アレグロが魔法で、百角の猟犬に炎を食らわすが、魔力を放出され、一瞬で振り払われる。

 その瞬間、他のメンバーが盾でアレグロを守り、槍で攻撃する。

 剣を持っている者達は、小悪魔と戦っていた。

 これが、彼女達の戦法だった。

 強い敵は、アレグロが魔法で牽制、盾を持っている者達は、アレグロを守る。

 雑魚を剣や槍を持った者が、攻撃する。

 今回は百角の猟犬という敵だったのと、雑魚が周辺には少なかった為、槍を持つ者達も援護していた。

 小悪魔程度なら、一瞬で倒せていたが、百角の猟犬は魔力も操り、かなりの強敵だった。

 アレグロも魔法を唱え、攻撃するも苦戦していたようだった。


 アレグロが自分の炎では、あまり効いてないと判断し、光魔法を放とうとする。

 百角の猟犬はそれに気付き、全ての角の先から、黒い槍をまとめて放ち、周辺を一気に攻撃した。

 仲間達が、盾でアレグロは守ったが、その他の者達が、それにより吹き飛ばされていた。

 そして、小悪魔達にもその攻撃が当たり、小悪魔達も吹き飛ばされ、動かなくなる。

 たった一撃で、魔女と仲間達は甚大な被害を負った。

 

 アレグロはそれに怒り、特大の魔法を放つ。

 彼女の前に、百角の猟犬より大きな魔法陣が出現する。

 百角の猟犬は、再び黒い槍を作りつつ、彼女へと突っ込むが、盾を持つ者達が、二人でそれを阻止する。


「下種な犬が。私の仲間達を攻撃した報いを受けろ!」


 そしてその魔法陣から、大きな光の槍が放たれ、その瞬間、仲間達は横に飛び、百角の猟犬は全てを浴びる。

 吹き飛び、血だらけになる百角の猟犬。

 それを確認すると、仲間に声をかけ、生きているか確認する。

 大半は大丈夫ですと、立ち上がったが、小悪魔と相対していた者は、槍をもろに受けていたようで、死にかけていた。

 アレグロは仲間の元へと急ぎ、二人に回復魔法をかけようとする。

 すると後ろから、百角の猟犬の雄叫びが聞こえた。

 あの魔法を喰らっても、未だ死なずにいたのだ。

 アレグロは瞬時に、向き直り追撃しようとするも、一瞬百角の猟犬の方が早く、仲間と共に、黒い稲妻を纏った体当たりを喰らい、吹き飛ばされる。

 


 騎乗戦士の一団も、百角の猟犬と小悪魔六体と相手取っていた。

 彼等も、小悪魔達にはあまり苦労していないようだったが、殺し切るのに時間がかかり、戦力が分散され、百角の猟犬を相手取るのに苦労している様だった。

 百角の猟犬は、角を防げば牙が来る。さらに、魔力変換で、黒い槍を飛ばしてくる。

 マーティーが後ろで指示し、槍で牽制しつつ、魔力が込められれば、それを防ぐ。

 なんとか相手に思い通りの攻撃をさせないようにしていたが、攻撃を加えるのは、難航していた。

 なんとか攻撃を与えようとするも、そのたくさんの角に阻まれ、なかなか攻撃が入らない。

 マーティーも、魔法で攻撃するが、アレグロに比べれば、大した魔法ではなく、あまりダメージはないようだった。

 

 周辺の小悪魔をなぎ倒し、マーティーも直接攻撃を開始する。

 角の隙間に槍を通し、それを無理矢理ひねり、角をまとめて折る。

 

「我に続けえ!!」


 そう叫び、マーティーは更なる攻撃を加える。

 仲間の二人は小悪魔を相手取りつつ、残りの三人が、一気に畳みかけに行く。

 百角の猟犬に一斉に攻撃を加えると、百角の猟犬は倒れる。

 

 「よし!あとは、残党狩りだ!」


 それが油断だった。

 黒い稲妻が、百角の猟犬から解き放たれる。

 マーティー含む、騎乗戦士の一団は吹き飛ばされた。



 クレアと無名の者達もやはり、百角の猟犬に苦労していた様だった。

 小悪魔達は、無名の者達により、一瞬で片付けられていた。

 なので、無名の者達三人と、一緒に相対していた。

 クレアも強くなっていたが、初めての相手、そして高い魔力で瞬時に攻撃してくる。

 なんとか、無名の者達と共に、相手取っていたが、もし一人で相手をしていたら、もしかしたら死んでいたかもしれなかった。

 クレアは剣の攻撃に、魔法で炎を纏わせ、威力を上げるが、魔力で防がれる。

 すぐさま、相手の槍の攻撃を防ぎ、再び反撃の姿勢を取る。

 

 無名の者達は、クレアが引き付けている間に、鋭い風魔法で、切り刻む。

 だが、傷跡はつくも、角を折る事すら出来なかった。

 無名の一人が、鎖に繋がれた棘だらけの巨大な鉄球を、どこからか取り出し、百角の猟犬へとぶち当てる。

 すると当たった瞬間、爆発し、百角の猟犬はよろける。

 すかさず、違う仲間が小さな鋭い弾を大量に解き放つ。

 凄い速さで、百角の猟犬の体を貫通し、唸り声を上げる。 

 そして最後の者が、大きな鎌を振り下ろす。

 先程小悪魔達の大半を、一撃で葬った武器だ。

 百角の猟犬の体を、一刀両断するかのように振り下ろすが、予想以上に固く、途中で刃が止まる。

 

「今だ。やれ。」


 無名の者に言われる前から、既に構えていたクレア。

 アルマ達の修業のおかげで、一瞬も気を緩めない事を学んでいた為、攻撃の隙を伺っていた。

 そして今度こそ、威力を上げた剣で、百角の猟犬を切りかかる。

 一刀両断とはいかなかったが、燃え上がりかなりのダメージを負う。

 倒れた百角の猟犬は、その態勢のまま、全身から黒い稲妻を放つ。

 クレア達は、油断せず、すぐさま魔法で障壁を張り防いでいたが、予想以上に威力が高く、吹き飛ばされる。 



 ジェフリーとグラントは、少し離れ、様子を見ていた。

 二人は悪魔が、影移動した事に、すぐさま気付いた。

 だからこそ、他の者達が戦っている最中に現れ、奇襲をするのを警戒していた。

 だが、グラントは異変に気付いた。

 百角の猟犬と戦った事のある者は少なかったが、かといって、連れてきた者達が、ここまで苦戦するような相手ではないと思っていた。

 グラントがジェフリーにその事を伝えようとすると、ジェフリーの方から話しかけてきた。


「グラント、この百角の猟犬達は、普通じゃない。魔力が異常に高い。悪魔も普通じゃないかもしれない…。」


 いつもニコニコ冷静なジェフリーが、少し真剣な表情をしていた。

 そこで、どの程度異常なのか、分かった。

 ジェフリーは、木で縛り上げた百角の猟犬を、一瞬で捻りつぶそうとしたが、出来なかったのだ。

 過去の百角の猟犬なら、簡単につぶれたのに、それが出来ず、更に木を増やし、滅多刺しで殺した。

 その時に、魔力が異常に高い事に気付いたのだ。


 皆なんとか勝てそうか、と思った瞬間、跡形もなく吹き飛ばした鉄剣の制裁達以外の所から、黒い稲妻が放たれていた。

 グラントは慌てて、魔女の仲間達の元へと向かう。


「鉄剣の制裁は、他の者達を手伝え!」 


 すぐに魔族達を片付けていた、鉄剣の制裁に指示する。

 離れた場所からだったが、なんとか声は伝わったようで、彼等はおう!と答えると、半分は騎乗戦士の一団の元へ、半分はクレア達の元へと向かう。


 そしてジェフリーの後ろから、悪魔が現れた。

 悪魔は、予想以上にこの者達が強いと判断し、アルマに負わされたダメージが癒えるのを待ち、かつ一人になる者に奇襲しようと、タイミングを見計らっていた。

 だがしかし、ジェフリーに気付かれ、すぐさま木で縛り上げられる。

 悪魔が影移動をしようとするも、瞬時に明るい場所へと叩きつけられる。

 その瞬間、ジェフリーも、グラントも、悪魔も、いや、そこにいた者達全てが、気付いた。



 悪魔は自分が予想以上にダメージを負い、冷静さを失っていたから。

 討伐隊は、百角の猟犬に苦戦をしていたから。

 ジェフリー達は、百角の猟犬の異常な強さに焦りを感じていたから。

 だが何よりも、それが遥か上空で行われていたから。

 それゆえに、誰も気付かなかった。


 雲の上の空が、明るくなっていた。

 それは月明りとは、到底比べ物にならない程だった。

 それの原因を作ったのは、遥か上空にいるアルマだった。

 シリルは、木が邪魔と判断し、燃やし尽くそうと、アルマに伝え、とてつもなく大きい炎の球体を作っていた。

 魔力消費を抑えるため、魔法でそれを作っていた。

 ジェフリーや、グラントですら知らない魔法だった。 


 周辺の魔素を吸収し続け、巨大化していた炎の球体。

 森の魔素が通常通りであれば、遥か上空にいる状態で、ここまで大きくなってはいなかったが、この周辺ですら、瘴気で森が覆われるほど魔素が大気に含まれていた。

 それにより、とてつもなく大きな炎の球が出来上がっていた。


 シリルは、その炎の球の上にいた。

 グラントとジェフリーは、驚きその球体を見上げる。


「まじかよ……。」

「やはりあの魔獣。普通じゃないねー。」

「逃げろお!!」


 クレアが、全員に叫ぶ。

 もしあれを落とせば、全員が吹き飛ぶ。

 そしてアルマ達なら、間違いなくやると思った。

 だが、その叫び声が届いた頃には、それは始まった。



「やっと準備出来た。気付かれなくて良かったね。さて本番だ!」


 シリルの前に、魔法陣が出現する。

 シリルはそれを、殴りつけた。

 すると巨大な炎の球が割れ、炎の雨となって地上へ降り注ぐ。

 悪魔ですら、恐怖を覚えるほどの量の炎。

 クレアやグラント、全ての者達が、終わった……と思った。


 そして、その一帯は全て焼け野原と化した。

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