第13話 巫女の見たモノ

 二人と一匹は、警戒しながら村の探索を続ける。

 日は落ちかけていたが、クレアはこのまま放置は出来ないと、完全に日が落ちるまで、シリルとアルマの探知能力に頼り、調査を続けた。

 シリルの経験則による、この村を襲撃したものが、最近生まれたばかりなのでは、というのには納得出来たが、警戒しない理由にはならない。

 日が落ちた頃、アルマがクレアを呼ぶ。


「おい、血が外へと続いているぞ。」


 アルマに言われ、クレアは近くに行く。

 その血の跡は、小さな扉……だった物を通り、細い道へと続いていた。


「これは、もしかしたら精霊の祠に繋がる道か……?」

「ああ。多分そうだろう。」

「精霊の祠って何?」

「精霊の祠というのは、精霊から加護を得るために、精霊を祀る場所だ。そしてそこへは、精霊の声を聞けるという巫女しか行けないとされている。」

「へえ!精霊の声を聞けるっていいなぁ!」

「あ……ああ。そうだな……。とにかく、行ってみよう。」


 そしてその血は、奥へと続いていた。

 辺りは暗くなっていたが、ここで足掛かりを見つけたのだ。

 クレアはここで引く気はなかった。

 警戒しながら森の中に入ると、真っ直ぐ細い道を進んでいる様だった。

 そのまま進んでいくと、瓦礫の山があった。


「せ……精霊の祠なのか………?」


 精霊の祠と呼ばれた物は、完璧に壊され、ただの瓦礫の山と化していた。

 そして、その瓦礫の影に、瓦礫にもたれかかる様に、水色の長い髪をした、一人の血だらけの女が倒れていた。

 クレアは人と気付いたが、先程の事を反省し、走りたい衝動を我慢し、周囲の警戒を解かずにゆっくりと近づいていった。


「人間か。生きているな。しぶといものだ。」

「ち……治療をしないと!」


 そうしてクレアは、急いで治療薬をかけ、回復魔法を詠唱する。

 クレアの処置により、血が止まり、少し落ち着いたようだった。


「二人共一度村まで戻ろう!この人は、私が運ぶ!」

「ああ。」

「いいよ。」


 そうして、クレアはその人を村まで運ぶ。

 シリル達は、あまり興味がなさそうだった。



 暗闇をとにかく急ぎ、戻る一行。

 村へと戻ると、探索中に見た、あまり破壊されていない建物の中へと入る。

 そこは民家であった。

 中は破壊されている箇所もあったが、寝室は無事な様だった。

 彼女の汚れている服を脱がし、ベッドへと寝かすクレア。


「あそこにいたという事は、巫女だろうか……。」

「さあな。興味はない。」

「巫女だったら、精霊の声を聞こえるんだよね!?起きたら、精霊の声を聞く方法って、教えてくれないかなー。」

「シリル。精霊の声は、才能だ。耳長族のように一族全てが聞こえる者達もいるが、他の者達は、才能がない場合は無理だ。」

「そうなんだ。でも、聞きたいなー。」

「まあ、シリルならもしかしたら、聞けるかもな。」

「そうかな!そうだといいな!」


 二人は相変わらずこんな状況にも関わらず、普段通りの会話をしている。

 しばらく様子を見るも、彼女は起きる気配がなかった。

 夜になっていたため、この家で休む事にした一行。

 クレアは、用意していた携行食をシリルとアルマに渡す。


「なにこれ?」

「携行食だ。袋を開けて、食べるんだ。」


 そう言われ、クレアの真似をして袋を開ける。

 アルマは肉じゃないのなら、いらないと断った。

 そして一口食べ、落胆した顔をするシリル。


「パサパサしておいしくない……。」

「え……栄養はあるんだ……。」


 全て食べたが、本当においしくないようだった。

 そして、一応の食事を終えると、二人と一匹は同じ部屋で休む。



 朝日が昇り、目を覚ますとクレアは真っ先に彼女の顔を見る。

 どうやらまだ起きてはいないようだったが、顔色はだいぶ良くなっていた。

 そして、シリルとアルマが、昨晩寝ていた場所にいなかった。

 探すために立ち上がり、外へと出る。

 家の前に出ると、上から声が聞こえてきた。


「あ、おはようクレア。」

「あ……ああ。シリル殿。屋根の上で何してるんだ?」

「見張りー。やっぱりなんもいないね。」

「……そうか。すまないありがとう。」


 するとアルマも一緒にいたようで、二人は同時に軽く飛び、屋根から降りた。


「昨日のお姉さんは?」

「顔色は、良くなったようだった。」

「そっか。良かったね。それで?この後どうするの?」

「とりあえず一旦調査は終了だが、彼女に事情を聞きたいところだな。」

「まだ寝てるんでしょう?」

「ああ。だから意識が戻るまで、待った方がいいかと思う。」

「じゃあまだ、この臭い村にいるの?」

「長い間目覚めなかったら、どうするんだ?」


 そう言ったのはアルマだ。

 アルマもこの臭い村を、早く出たいのだろう。


「…………その時は、町まで私が運ぶ。」

「出来るのか?」

「それくらいは、問題ない。」

「とりあえず、お姉さんの様子見に行こうよ。」



 寝ていた女は、クレア達が外にいる間に意識を取り戻していた。

 自分が生きている事に驚き、また自分の状況が全くつかめなかった。

 起き上がろうとすると、頭がふらつき再び倒れ込む。

 怪我は治っていたようだが、血と体力が戻っていなかったのだろう。

 すると、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。

 彼女は、恐怖で布団に身を隠す。

 まともに動けない上、ベッドの上では全く意味のない行動だったが、それでも、そうせざるを得なかった。

 すると扉が開いた音が聞こえ、声が聞こえた。


「お姉さん起きたかな?」


 その子供の声に、小さく驚きの声を漏らしてしまう。


「おぉ!気が付いたか!」


 しばらく身を動かさず、布団の中に隠れていたが、そーっと頭を出し、周囲を覗こうとすると、金髪の綺麗な女が、自分の顔を覗き込んでいた。

 それに再び驚き、顔を隠してしまうが、大丈夫か?という声に、恐る恐るまた顔を出す。

 そこには金髪で鎧を着た女、仮面を付けた小さい子供、そして見た事のない魔獣がいた。

 驚き身構える女。


「あ……あなた達は?」

「ああ。私はクレアという。」

「俺はシリル。こっちはアルマね!」

「彼の使役魔獣だ。」

「しえき…………私は【ヘスティア】と言います。…………助けていただいたのですか?」

「ああ。そうだ。君は精霊の祠の所で、倒れていたんだ。」

「…………そうですか。…………ありがとうございます。」


 辛そうだったため、クレアはまだ無理をするなと、ヘスティアをそっと寝かそうとする。


「あの…………村は…………。」

「その話はあとだ。まだ寝ていた方がいい。」


 優しく頭を撫でると、彼女は再び静かに目を瞑った。



 クレアに頼まれ、水を汲みに行くシリルとアルマ。

 井戸の水は使えない為、村の外へ行き、川まで行く。


「何故、私達が…………。」

「俺も喉乾いてたから、ちょうどよかったけど。」

「シリルがいいのなら、いいが…………。」


 まだアルマは、不満そうだったが、シリルは気にしていなかった。

 クレアは、シリル達に水を汲みに行って貰っている間に、その家から服を探した。

 運よくヘスティアにも着れそうな服とタオルを見つけると、寝室へと戻る。

 ヘスティアは、まだ静かに寝ている様だった。

 昨日は暗く、しっかり顔を見れなかったが、シリル程ではないがまだ幼そうだった。

 村が滅んでしまった事を、彼女は受け止められるのか、その顔を見て不安になるクレア。


 シリル達が戻ってきたが、ヘスティアは再び寝てしまっていて、いつ起きるのかが分からなかった。

 それを伝えると、シリル達は、村の周辺をご飯を探すついでに、見て来ると言って出かけて行った。

 分かったとは言ったが、正直不安ではあった。


(もし何かあったら、私だけで彼女を守れるのだろうか……。)


 一度頭を振り、その考えを捨て、何かあれば今ある最善を尽くそうと心に誓う。

 そして、シリル達が汲んできた水で、タオルを濡らし、彼女の体を拭ってやる。



 日が真中辺りに来た頃だろうか。

 ヘスティアは、目を覚ました。

 横には先程、クレアと名乗った人が座っていた。


「あの……ありがとうございます。」

「体は大丈夫か?」

「ええ。」


 そしてヘスティアは、なんとか起き上がる。

 無理しなくてもと言われたが、自分がどのくらい気を失っていたか、そして、村がどうなっているのかが、気になって仕方がなかった。

 その事を聞こうとしたが、とりあえずタオルと服を渡される。

 よく見ると、自分は下着のみだった。

 彼女が軽く拭いてはくれたらしいが、所々まだ体には血が付いていた。

 タオルで体を拭こうとするが、力が入りきらず、結局再びクレアが手伝う。

 そして着替えまで終わった頃、シリル達が帰って来た。


「あ、お姉さん起きてる!おはよう!」

「え……ええ。おはようございます。」

「シリル殿、タイミングが良かったな。ちょうど着替えが、終わった所だ。」

「そうなんだ。」

「ご飯は見つかったのか?」

「うん。祠周辺を探索してたら、【爆走豹シュベルパンテラ】がいたからね。」

「そうか。」

「え……祠の近くに行かれたのですか!?それに、爆走豹ですって!?」

「うん?」


 驚き、慌てるヘスティア。

 爆走豹とは魔物だ。

 魔物が祠の近くに出る事は、あり得ない。


「どうかしたの?」

「あの……突然で申し訳ありませんが、祠はどうなっていましたか?」

「壊れてたよー。」

「…………そうですか。」


 やはり夢ではなかったと、落ち込むヘスティア。

 夢であって、欲しかった。祠が壊れたなんて。

 その暗い顔を心配そうに見つめる、クレア。


 しばらくすると、大分落ち着いてきたようで、改めて自己紹介をしてくれた。


「改めて、初めまして。私はこの村の巫女【ヘスティア】と申します。この度は、命をお救い頂き、本当にありがとうございました。」


 クレアは気にしなくていいと言い、改めて冒険者と名乗り、三人も自己紹介をする。

 アルマは、喋りはしなかったが。


「ところで、付かぬ事をお伺いいたしますが、今日は何日でしょうか?」


 ヘスティアは、気を失ってから、どのくらい経っていたのか、全く読めずにいた。

 そして、日付を聞き、驚いた。

 自分はあそこの祠で、5日間も寝ていたのかと。


「あの状態で5日間も寝ていたのか!?」

「…………そのようです。」

「君は血だらけだったんだよ!?……信じられない……。」


 クレアも驚きを隠せない。

 いや、シリルやアルマだって驚いていた。

 血だらけの人間が、5日間も祠で気を失っていたのだから。


「一体何が起きたんだ?」

「その前に、確認したいのですが、ここはロキシ村ですよね?」

「ああ。そうだ。」

「魔族は見られましたか?」

「ああ。一匹小悪魔がいたな。シリル殿が倒したが。」

「倒した……。ち…ちなみに村の者達は!?」

「いたのは君だけだったよ。」

「…………やはりそうですか。」


 これは、予想していた事だった。

 あの状況で、生き残りが出るはずがなかった。

 むしろ、私が生きていること自体が、奇跡だった。


「あなた達はどうして、救助に来られたんですか?」

「レスターという者に頼まれたんだ。」

「ああ。レスターに。」


 彼がいてくれて良かったと、思うヘスティア。


「今度は、こちらから聞いていいかい?」

「……ええ。」

「一体何が起きたんだ?説明し辛かったら、申し訳ないのだが――」

「いえ、大丈夫です。あなた方には、全て説明します。」


 彼女は、彼女自身が見た、全てを説明してくれた。


 異変が起きたのは、10日前。

 ヘスティアはその日、朝起きると違和感を感じていた。

 最初は何か分からなかったが、外に出てみると、その原因に気付いた。

 村を覆っている、精霊の加護が消えていたのだ。

 彼女は急ぎ、村の者達にその事を伝え、警戒するよう促す。

 そして彼女自身は、原因を探る為、一人精霊の祠へと向かった。

 村の者達は護衛を付けると言ったが、精霊の祠へは、対話出来る者以外が行ってしまうと、精霊が怒り、加護を失うと言われていた。

 なので護衛を断り、一人向かった。


 祠へと着くと、そこに祠はなく、ただの瓦礫と化していた。

 彼女は精霊に語り掛ける時、耳長族程は力がない為、祠がないと精霊の声を聞く事が出来ない。

 また精霊の祠は、一流の精霊使いでなければ、作れない。

 精霊の祠が破壊され、村が精霊の加護を受けられなくなったのだ。

 彼女は自分に何も出来ない事に、無力さを感じたが、急いで村へと戻った。

 兎に角この事を村に報告、なんらかの対処、または町へ避難をすべきと考えていた。


 村に近付くと、聞いたことのない唸り声、村人の悲鳴や叫び声が聞こえてきた。

 精霊の加護が無くなり、すぐさま魔獣が村を襲っていたのだ。

 いくらなんでも早過ぎるとは思ったが、とにかく状況を把握しなければと考え、彼女は一時避難所へと向かう。

 向かっている最中に目の前に、突然【岩石蠍ローク・スコルピウス】が現れた。


(岩石蠍!?こいつが、暴れていたというのですか!?なんでこんな魔獣が……村にっ……!?)


 魔獣が、彼女へと一直線に向かって来る。

 だがなんとか男達が間に合い、ヘスティアと魔獣の間に入る。

 必死に魔獣を止めていが、力の差は歴然だった。


「巫女様!御逃げ下さい!とてもじゃないが、勝てない!避難所へ村の者達と共に避難して下さい!若い奴等は、護衛だ!」


 そう言い、周りにいた若者達が、ヘスティアの護衛に周り、残りの者は逃げ遅れている村人の非難を手伝った。

 彼女はまたここでも、私は力になれないと思うが、ここに残れば足手まといは確実であった。

 大人しく従い、避難をする。

 ヘスティアが避難所へ着き、けが人を治療していた。

 すると、数名の男達が後ろから、走って避難所へと入って来た。

 その者達は、もう外はダメだ!扉を閉めろ!と叫んだ。

 まだ家族が!友人が!と叫ぶ者達もいたが、ヘスティアは閉める様に命令する。

 避難所は扉を閉めない限り、魔法陣が発動せず、他の建物と強度が全く変わらない。

 もしこのまま、開けておけば、避難所が破壊され、ここの者達まで全て死んでしまう。

 それだけは避けねばと考えた。


 避難所に入り、一晩が過ぎた。

 避難所には、天井に小さな穴があり、そこからなんとか日の光が入る。

 そこで、昼が過ぎ、夜が過ぎ、朝になった事が分かった。

 外の音が、しなくなっていた。

 もしかしたら魔獣が、いなくなったのかもしれない。

 村の者が、避難所に飼っているソケル達を使い、救助を呼ぼうと提案したが、その小屋を見に行くと、ソケル達は誰かに無残に殺されていた。

 彼等は皆、絶望した。

 連絡を取る手段はなくなり、外の状況を判断するには音のみだった。


「俺が、助けを呼んでくる!」


 突如一人の若者が、声を上げた。

 もし魔獣がいたら死ぬんだぞ!と言われていたが、彼は村一番に強いと言われた男の息子だった。

 真っ先に魔獣に挑み、村の子供達を救い、死んでしまった父親。

 彼はそんな父親を、昔から尊敬していた。


「俺はこの中じゃ若い!強いし、体力にも自信がある!行かせてくれ!」


 そう言うと、俺らも行くぞ!と周りにいた彼の友人達も声を上げる。

 そして彼は、ヘスティアの前へと行き、膝を付く。


「どうか俺達を行かしてください!必ずや、救援を呼び、村を助けます!」


 しばらく考えるヘスティア。

 だが彼の真っ直ぐな眼差し、さらに他の良い方法が浮かばなかったのもあり、彼等に頼むことにした。

 彼等は避難所内にあった、数少ない武器を託され、三人で扉を出た。

 音はしないが、もし魔獣が村にまだいたら、扉を叩けと言われ、三人は承諾し、外へと出る。

 扉は再び閉められた。


 ヘスティアは、精霊に祈る。

 彼等三人をお守りくださいと。

 避難所では、少しでも魔法を使える者は、怪我をしている者を治療していた。

 食料と水は避難所内に用意してあり、そこは無事であった。

 何故、ソケル達は殺されていたのに、食糧は無事なのか…。

 本当に今回の事は、不明な事が多かった。



 旅立った若者達は、非常に運が良かった。

 魔獣に遭遇せず、町へ一日で行けたのだ。

 そして彼らが旅立ち四日目の夜。

 彼等は帰って来た。

 生き残った村人達は、大喜びをした。


 彼等の話では、避難所を出た時、魔獣はいなかったため、急いで町へと向かったそうだ。

 運良く魔獣達には、見つからず無事に町へとたどり着いた。

 だが辿り着いたのは、夜だったそうだ。

 基本的には、門は夜は開かず、彼等は町の外で一晩明かした。

 そして、朝一番で町へと入り、役所へ救助を求めたが、魔獣退治はギルドへ行けと言われ、ギルドに行った。

 ただ依頼料が支払えずに、困っていたそうだ。

 そこで彼等は、レスターを思い出す。

 出稼ぎに来ていた彼に、お金を借りるのは申し訳なかったが、レスターの家へと行き、報告をし、お金を借りれたそうだ。

 そこで討伐依頼を出せた。

 レスターも付いて来ると言っていたが、危ないからと止めた。


 彼等が戻ってきた日の朝、依頼を受けてくれたのが、ランクCパーティ【騎乗戦士の一団】だった。

 彼等は名前の通り、メンバー全員が馬種の魔獣を使役していた。

 一日かかると言われている距離を、村人も乗せ、半日とかからず走破、昼頃に着いた彼等は、あっという間に、魔獣達を討伐。

 周辺の魔獣もいないか、軽く捜索し、見当たらなかったため、日が暮れる頃、町へと戻って行ったそうだった。

 町周辺にもまだまだ魔獣達がいるから、戻らなければと彼等は言っていた。


 ヘスティアも安堵はしたが、手放しでは喜べなかった。

 魔獣は消えたが、何が原因で精霊の祠が壊れていたのか、分からなかった。

 基本的に魔獣は、精霊の祠に近付けないはずだ。

 それなのに、破壊されていた。

 そして、村で見た魔獣は、魔法が使える程高等な魔獣では、ないはずだった。


 正直冒険者達に、その原因を調べて欲しかったが、まさか魔獣を倒して、すぐ帰ってしまうとは…………。

 ヘスティアは、一人そう考えていた。


 

 そしてその夜、更なる悲劇が起こる。

 町が破壊されていたため、さらに魔獣達が討伐されたばかりであったため、大半の村人は、避難所で寝ていた。

 その日の夜、避難所が破壊され、悪魔デビルが現れた。


「ちょうどいい。君達には、彼等の餌になってもらおうか。」


 そう言うと、小悪魔レッサーデビル達が攻めてきた。

 魔獣より弱かったが、数が多かった。

 そしてこちらは強い者は、ほとんど残っていない。

 そこからは、まさに地獄絵図。

 残虐に殺される者、生きながら喰われる者、おもちゃにされる者。

 反抗した者もいたが、そういった者は直接悪魔に殺され、死体が小悪魔へと変異させられていた。

 減る仲間、増える敵。破壊された避難所。

 もはや抵抗する術は、なかった。

 一部の村の者達が、ヘスティアを逃がす。

 どうか精霊達の所へ、精霊達の力を借りてくれと。


 ヘスティアにはもう、精霊の力を借りる事は出来なかったが、それでもかすかな希望を掛けて、行くしかなかった。

 もう他の手は残されていなかった。

 途中襲われ、怪我もした。

 血もたくさん出した。

 それでもヘスティアは、足を止めずようやく精霊の祠へたどり着く。

 そこでヘスティアは、気を失っていた。

 


 それがヘスティアが、見てきたモノだった。

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