第4話 出会い
街道を駆ける狼、アルマ。
その上に乗る少年、シリル。
二人は【エンディー王国】の街道を走り、町へと向かっている。
「最初の町は、どんな町かな?知ってる?」
「確か、【クアガット】という名前の町だ。大きな町ではないと聞いたが、私も入ったことはない。」
「クアガット…。楽しみだね!俺町って初めて入るよ!」
「そうだったのか。」
「うん!森に住む前は、大人以外町に行っちゃダメって言われてたからね。」
「……そうか。記憶が正しければ、確か町に入るには、お金を払っていたはずだ。町に入る前に、誰かに話を聞けるといいな。」
「そうだね。」
そんな会話をし、順調に進んでいると、魔獣の気配がした。
街道を逸れた所に、男女が二人。
それに、対峙する真っ赤な魔獣。
周りには、動かない人、下半身、バラバラの手足が転がっていた。
片腕が無く、残っている手で、折れてボロボロになった剣を持つ、満身創痍の男。
鎧が破壊され、なんとか両手で剣を持っている、こちらも満身創痍の女。
そして、それに対峙する赤と黒の縞々の体に、真っ赤な目を持つ魔獣。
「逃げろ!私が時間を稼ぐ!」
「いや、ダメだ!俺の今の足では、もう逃げれない!」
「しかし――。」
「すまんな。俺も男だ。お前が逃げろ。このままお前を見殺しにしちまったら、あの世であいつらに殺されちまうよ………。とにかく行け!」
その声と共に、男は魔獣へと突っ込む。
女は振り返らずに、一心不乱に反対へと駆けだした。
魔獣はそれを見て、男へと飛びかかる。
片手で剣を振り回し、なんとか防ごうとする男だったが、剣は簡単に薙ぎ払われ、次の瞬間、男の剣を持っていた腕は無くなっていた。
女は振り返らなかったが、男の叫び声が途絶え、男が亡くなった事を確信した。
(ロン……皆………ごめん…………!!)
しばらく走っていると後ろから、猛スピードで迫る足音に気付いた。
振り返り、咄嗟に剣で魔獣の攻撃を防いだが、剣ごと彼女は吹き飛ばされた。
その勢いのまま木へとぶつかり、呻き声を上げる。
(ッ…!!防ぐ事すら出来ないッ………!!でもまだだ……!ここで殺されたら、ロンの…皆の犠牲はッ………!!私はなんのために逃がされたんだ!!)
剣を支えに、立ち上がろうとする女。
だが、顔を前に向け絶望した。
魔獣が今まさに、こちらへ飛び込んで来ていたのだ。
その瞬間恐怖からか、はたまた諦めからか、目を瞑る女。
しかし、いつまで経っても魔獣の攻撃は、彼女には届かなかった。
シリル達は魔獣の気配を感じ、進路を変更し、そちらへ一直線で向かう。
木の間を、凄いスピードで駆け抜けていくアルマ。
そして魔獣の気配が近くなった時、剣を持った金髪の女が、吹き飛ばされているのが見えた。
「あ、人間!話聞こう!」
「なら、助けるぞ!一気に近づく!」
そう言うとアルマは、思い切り地を蹴り、一瞬で魔獣へと詰め寄った。
その女は木にぶつかるも、すぐさま剣を支えに立ち上がろうとしていた。
だが、魔獣はその女へと再び迫っていた。
シリルは一瞬で右手に雷を纏わせ、貫手の形を作り、魔獣に近付いた瞬間、首を切り落とした。
「間に合ったね。そして、魔石もゲット。」
「ちょうど良かったな。町について、色々聞いてみよう。」
「そうだね。」
そしてアルマは声を落として忠告した。
「だが、あまりこちらの事は話すなよ。後々面倒になるかもしれん。」
「分かった。」
ドサッっという倒れる音と共に、子供のような声と、それに応える大人の女性…?のような声が聞こえた。
目を開けるとそこにいたのは、先程の魔獣ではなく、不思議な模様の仮面を被った金髪の子供と、額に青い模様のある白い狼だった。
その一人と一匹は、こちらへと向かって来る。
女は何が起きたか分からず、震える手で剣を構え直す。
「おねーさん!ちょっと聞いていい?」
「な…何者だ、貴様等!?」
「俺はシリル。こっちはアルマだよ。お姉さんは?」
「……………わ…私は、【クレア】だ。」
「よろしくね。」
「……。」
女はその仮面の被った子供と、狼を警戒し、剣を構えていた。
しかし彼らは、こちらをじっと見るだけで、特に何かをしてこようという気配はなかった。
そして彼らの後ろに、首と胴体が分かれた、先程の魔獣が倒れていたのが見えた。
「すまない、疑った…。助けてくれて、ありがとう。」
「いいよ全然!」
頭を下げるクレア。
「改めて、私は【クレア】と言う。……本当にありがとう。」
「いいえ。どういたしまて!お姉さん一人?」
「いや……仲間はもう……。」
「そっか。まあ、しょうがないね。」
「……な…なんだと!?」
「だってよわか――」
「シリル。それ以上言うな。」
「……分かった。」
シリルの無神経な発言を、アルマは止める。
シリルはよく分からないという顔をしていたが、アルマが止めたのでそれ以上言うのはやめた。
「……………使役魔獣か。……いや、こちらこそすまない。取り乱した。」
そう言い、クレアは強く剣を握った手を弱めた。
シリルはそれを見ると、魔獣を指差した。
「…とりあえず、この魔獣食べていい?」
あの後、クレアは仲間を埋葬させてほしいと言い、仲間が亡くなった近くに、彼等の残っている遺体を埋めた。
持って帰るには、あまりにも悲惨だという判断だろう。
その後、魔獣によって荷物の大半は破壊されてしまっていたが、使える物だけはなんとか回収し、シリル達と合流した。
シリル達は少し離れた所で、いつも通り魔獣を解体、火を作り、肉を焼いていた。
シリルは肉を食べる為、仮面を横へとずらし、顔を出していた。
勿論仮面の効果で、金髪緑目にはなっていたのだが、それでもその顔を見てクレアは驚いた。
本当に子供だったのか……と。
そして、そんな驚いているクレアに、シリルは肉を勧めたが、クレアは黙って首を振った。
そうしている内に日が落ち、アルマはシリルのすぐ横に、クレアは対面に座り、火を囲っていた。
「私達は【金獅子の牙】というパーティだ。……いや、だった…だな。最近ランクDに上がったんだ……。」
「ふうん。パーティって何?」
「パーティを知らない……?」
「知らない。アルマ知ってる?」
「確か冒険者と呼ばれる者達が、複数で集まる時に名乗ったはずだ。」
「ふうん。ランクってのも何?」
「…………ランクも?…………子供が危険度〔D-〕の【
「危険度っていうのも知らない。」
「……………ほんとになんなんだ……。」
クレアはあまりにも謎が多い彼らに、驚き、しばらく呆然としていた。
だが気を取り直し、改めて説明してくれた。
クレアの話によると、人間達は魔獣や魔物に危険度というモノをつけることにより、出現した際にどのくらい警戒が必要か、また冒険者達が討伐をする際の参考にしているらしい。
その中で赤き猛獣は危険度〔D-〕となっていた。
危険度〔D〕とは、下手をすれば町が一個滅ぶ程の脅威だった。
最近になってこの辺りに出没し、被害も出て恐れられていた。
兎に角力が強く、獰猛で、動きも速い。
危険度のランクは、同一ランクの冒険者であれば、複数人で対処可能という判断だった。
彼女のいる町では、強い冒険者は少なく、また最近魔獣がこの近辺で増えているため、強い者達は皆対処に当たっていた。
なので、最近ランクDに上がったばかりとは言え、倒せるだろうと思い、皆の制止を振り切り、赤き猛獣の討伐に名乗りを上げたの事だった。
それがこんな事態になってしまうとは、思わず………。
「……その、君達は何者なんだ?」
「だからシリルとアルマだって。」
「いや、そうじゃなくてな…。」
「私達は旅人だ。事情は話せないが、町の事に詳しくなくてな。出来れば、町について教えて欲しい。」
シリルでは町の情報が得られないと思い、代わりに話すアルマ。
それを察して、シリルは魔獣の肉を食べる事に集中する。
魔獣は旅人と言ったが、どう見ても旅人には見えなかった。
装備も道具も何も持たず、持っているのは魔石の入った袋だけ。
そして桁違いに強い子供と、流暢に喋る見た事もない魔獣。
そこから読み取れるのは、何か想像も付かない、深い事情があるという事くらいだった。
「……何か事情があるのだな。だが、命を助けて貰ったんだ。それくらいは、全く構わん。しかし、その……アルマ殿と言ったか…?魔獣の割に、喋りが流暢というか……見た事もない魔獣だし……高位の魔獣なのか………?」
「すまないが、それも言えん。」
「……そうか。いや、いい。人……いや魔獣にも色々事情があるからな。詳しく聞く事は、マナー違反だ。」
「助かる。」
アルマは軽くお辞儀をした。
クレアはそれを見て、佇まいを直し、改めて聞いてきた。
「それで、町についてだな。町についてと言っても、何が聞きたい?」
「とりあえず、町への入り方だな。」
「………そこからか…。分かった。」
驚きよりももはや諦めを感じるクレアだが、それも無理はなかった。
普通の者であれば知っていて当然、その事を知らずに生活は出来なかったからだ。
例え他国の者であっても、国境を超える時に、それぞれの国のルールは知らされる。
ただ目の前にいるのは、〔D-〕の魔獣を倒したとはいえ、謎の子供と見た事もない魔獣。
知らなくても無理はないのだろう……と、自分を納得させた。
「町へ入る時はその町の住民証、又はその町の滞在証を持っている者以外は、大人は銀貨15枚、子供は銀貨5枚が必要だ。その時、身分証も必ず必要になる。滞在証は、役所に行くか、ギルドに行けば貰えるぞ。」
(身分証……そんなものがあったのか……面倒な………。)
アルマが旅をしていた時代には、そういう物がなかった。
確かに町へ入る際は、お金は必要だったが、魔石をこれだけ持っていれば、なんとかなるだろうと思っていたのだ。
「……身分証がない者はどうすればいい?」
「やはり……身分証を持っていないのか………。」
「…ああ。」
「……失くしたという事か?」
「まあ、そんな所だな。」
身分証はほとんどの人は、持っている物であった。
それがなければ町へ入る事が出来ず、国に至っては、もはや出入りが出来ない。
唯一身分証を持たない者は、奴隷やスラム街出身の者、又は親に捨てられた孤児くらいだ。
ただそういった者達は、町を出る事は少ない。
奴隷は魔法に縛られ、抜け出す事は至難であり、スラム街の者や孤児も、魔獣や魔物に襲われる可能性がある町の外へは、わざわざ行ったりしない。
そんな危険を侵す者は少ないのが、普通の考えだった。
だから、彼らが如何に異質であるか、その証明になっていた。
だがそれでも、クレアは丁寧に説明を続けていく。
「ちなみにエンディー王国民か?エンディー王国出身の者ならば、身分証の再発行は簡単なのだが……。」
「いや違うな。」
「その場合だと、難民登録になるだろう。一度町で難民申請を出し、大きい都市へと移動、ここからなら【スティルラス】に警備兵と共に赴き、そこで難民登録をする形になる。」
「なるほど。」
「難民登録には、真偽を判断できると言われる高位の聖職者達が、詳しい事情を聴くと聞いたことがある。さらに君の主は、どう見ても子供だ。その場合、事情を詳しく聞き、親がいないと判明すれば、自動的にどこかの孤児院に入る事になるだろう。」
「…………それ以外の方法はないのか?」
「それ以外……?難民登録もせず、孤児院にも入らずということか…?」
「そうだ。」
「それは、詳しい事情を話したくないということでいいか…?」
「ああ。」
「それだと他の遠い街、いや他国に…しかも無断で入るしかないな………。それでも、可能性は薄いが………。」
「そうか…。」
「何故そこまで話したくない?シリル殿の事を考えれば、例え事情を話しても、町へ入った方がいいだろう。」
「いや……。」
しばらく考え込むが、やはり首を横に振り、無理だと呟くアルマ。
「……やはり事情は話せないか…。」
「……ああ。」
そうか……と言い肩を落とすクレア。
シリルは先程倒した魔獣のほとんどを、一人焼いて完食していた。
食事が終わり、夜も更けてきたため、とりあえず三人は寝る事にした。
(どんな深い事情があるのか……こんな幼い子に………。)
翌日、日が昇り目が覚める三人。
特別に荷物が多い訳でもなく、ささっと片付けをして、旅立つ準備をする。
「クレア。色々教えてくれた事、感謝する。」
「ありがとう!お姉さん!」
「いいや、大した事は教えていないさ。誰でも知っている事だ。……それで君達は、どうするつもりだ?」
「とにかく違う町……いや国か…を目指してみようと思う。昨日の話を考えると、この辺は無理だからな。」
しばらく考え込むクレア。
それを不思議そうに見ている、シリルとアルマ。
「………もし可能なら、私を信用して貰えないだろうか?」
「……どういう事だ?」
「一切事情も話さず、身分証も持たないで、町に入るというのは、多分どこの国でも無理だろう。」
「…………。」
「それなら私を信用してくれれば、私が保護した事にして、町へ入れるようにできると思う。話が通じる門番がいるからな。頼めば、口外しないだろう。」
「………何故、そこまでする?」
「命を助けられた……だけだと納得しなさそうだな。私にはそれだけでも十分なのだが、無理して理由をあげるなら、殺されていない事だな。」
「………殺されていない?」
「身分証がなく、事情も話せない者は、大概いい事情ではないと思うんだ。だが、悪人ならば、適当なタイミングで私を殺せばいい。君達の方が強いんだ。このまま私を帰せば、町で話してしまうかもしれないからな。」
「……実はこの後、殺すつもりだったと言ったら?」
「……ああ、ははは。…そうくるか。いや、それでもだな。」
「……何故だ?」
「普通なら私が話した内容は、誰でも知っている話だ。だが、君達は本当に知らないようだった。そんな者がわざわざ、悪巧みをするとは思えない……。というまあ無理して理由は付けたが、単純に二人が悪人には見えなくてな。シリル殿はアルマ殿を信頼している様に見えるし、逆にアルマ殿は、シリル殿を大切に思って、守っている風に見えたからな。」
「………。」
「だからな、さっきも言ったが命を助けて貰い、そしてその二人は悪人には見えない。そんな二人が困っている。私にとって手助けする理由には、十分なんだ。」
「………そうか。」
しばらく思案するアルマ。
すると、ずっと話を聞くだけだったシリルが割って入って来た。
「アルマ。その話、乗ろうよ。多分この人、悪い人じゃない。」
「どうしてそう思うんだ?」
「んー……勘だね。でもさ、いちいちびくびくしてたら、一生町に入れないと思うんだ。」
「……まあ、そうだな。」
「でもありがとうアルマ。アルマがたくさんお姉さんと話してくれたから、そうしようと思えたし、アルマがいなかったらまた捕まってたと思う。」
「いや、そのために付いてきたんだ。構わん。」
「んでもありがとう」
「ああ。」
シリルは、アルマに抱き着き撫でる。
アルマは、目を瞑りそれを受け入れていた。
クレアは、シリルが言っていた捕まってたという発言に、引っかかった。
ただ、そのまま二人のやり取りを見ていて、
「やはり二人は、悪人には見えないな。」
そう笑いながらクレアは言った。
その後もう一度彼らは座り直し、シリルとアルマは、クレアに事情を話した。
アルヴァイス族であること。
奴隷として囚われ、輸送中に出会った事。
森の中で育った事。
クレアはその都度驚き、信じられないという風な反応をしていた。
当然だろう。
6歳の子供が森の中で半年過ごし、その後魔物達と育った事など誰が信用できよう。
アルマが進化したという事だけは、伏せていた。
何故なら、それはアルヴァイス族の秘術に関わる事だったからだ。
だがクレアは、こちらの言わない事には触れず、全ての事情を理解してくれた。
「だが、なんとも信じがたい話だな…。アルヴァイス族だけでも初めて見るというのに………。」
シリルは話の冒頭で仮面を外し、姿を現していた。
「これは事実だ。嘘のような話だがな。」
「いや信じるよ。アルヴァイス族であると名乗る事は、リスクでしかない。それを最初に、しかもわざわざその変装が出来るという仮面を外してまで、教えてくれたんだ。疑う余地なんてないよ。」
「ありがとう。」
「ほら、やっぱりお姉さんいい人だ。」
シリルは俺の言う通り!とでも言わんばかりの、笑顔をしていた。
「ただその、なんというか……今までの私の常識が壊れたというか……。信じてはいるんだ!………ただ【
「気持ちは分かるぞ、クレア。私が言った事だが、どうせ死ぬだろうと思っていたからな。」
「そうだったの!?ひどいねアルマ!助けてくれたいい狼だと思ったのに……。」
「あのな、私達からすれば人間の子供なんて、ただの餌なんだよ。ただそんな餌が、珍しく抵抗して、どう見ても死ぬ状況なのに、笑って戦おうとしていたからな。少し興味が沸いたから、暇つぶしに泳がせてみようという程度で言ったんだ。」
「そうだったんだ……。知らなかった………。」
あからさまに落ち込むシリル。
「言わなかったからな。だがな、その子供は死なずに、半年間も生きていた。さらに興味が沸いて、育ててみようと思ったのさ。まさか、ここまで信頼されるとは思わなかったがな。」
「そりゃ信頼するよ。たくさんの事を教えて貰ったんだ。アルマがいなければ、こんな楽しく過ごせてないしね。」
「私も今は、シリルが生きていてくれて良かったと思うよ。」
「んー………なんか照れ臭いね。」
シリルはそう言いながら、顔を赤らめて、頭をかく。
「……仲が良いな。………さて、そしたらこれからの話をしよう。」
クレアは改めて、座り直した。
「とりあえず私が門番に話を通して、町には入れるように出来るだろう。」
「うむ。」
「それでだ。やはりギルドマスターには、事情を話した方が良いと思う。」
「それは身分証のためか?」
「そうだ。確かに町に入るだけなら、私が知り合いの門番に頼んで、口外しないようには出来るが、君達はそもそも旅をしたいのだろう?身分証を作らなければ、旅は厳しい。そしてギルドであろうが、孤児院であろうが、やはりある程度の事情は聞かれるだろう。特にシリル殿は、子供だしな。」
「ふむ。」
「それならばいっそ、ギルドマスターに直接話した方が、話す相手が限られ、町の者達にも話が広がらないだろう。彼なら誰にも話を通さず、冒険者登録が出来るしな。」
「そのギルドマスターとは信頼できるのか?」
「ああ勿論だ。」
そう言うと、クレアはしばらく目を瞑り考え込む。
そして改めて目を開き、話し始めた。
「……実はな、私もかつては、この町で保護されたのだ。当時私は8歳だった。冒険者の親と共に、旅をしながら暮らしていたんだ。この町に向かっている最中に、魔獣に襲われてな。父は私達を逃がすために殺され、母も大怪我をしながら、命からがら私を連れ、町へと逃げようとした。しかし、もう少しの所で母も倒れてしまった………。」
「………。」
思い出し、悲しそうな表情をしているクレア。
二人は、黙ってその話に耳を傾ける。
「それでな、私は母を置いて門番の所まで走って、助けてくれと泣いて叫んだ。その時の門番が、先程言った話の通じる門番でな。彼が事情を聞き、急いでギルドに連絡。上に報告するより、対処が早いと判断したらしい。ただその時、ギルド内にはすぐ動ける者がいなくて、直接ギルドマスターが来たんだ。」
「それで保護されたと?」
「そうだ。ギルマスは門番に私を連れ、中へと非難するよう指示し、母の救出と、私達を襲った魔獣を討伐しに行った。ただその魔獣は、もういなくなっていて発見できず、母もいなかったらしい。」
「ギルドマスターとやらが強い者ならば、警戒心の高い魔獣は餌を咥え、逃げたのかもな。」
母を餌と言われ、少し憤りそうにはなったが、相手は魔獣であると思い、そのまま話を続ける。
「………そうだと思う。私はその後、すぐ孤児院に入れられた。…シリル殿とは違い、身分証は持っていたのでな。それで私は、孤児院で生活をしていたんだ。ここの孤児院はとても評判が良く有名で、事実私も何も不満はなかった。……でも、私はどうしても復讐がしたくてな。例え、死んでも。」
「………。」
クレアはそう言うと、握り拳を作っていた。
多分未だに、その魔獣への復讐は出来ていないのだろう。
「諦めきれない私は、ギルドマスターの所へ行き、修業をしてくれと頼み込んだ。最初は子供だからと断られていたが、最終的には修業をつけてくれるようになったんだ。まあそこまで、数年はかかったがな。」
「ギルドマスターは、多分クレアに死んで欲しくなくて止めていたんだろう?それなら何故、修業をつけるようになったんだ?」
「うん……。私はギルドマスターに会うために、冒険者ギルドへかなりの頻度で通っていたんだ。そのうち、そこにいた冒険者達と仲良くなり、色々な話を聞くにつれ、次第に復讐するために強くなるという気持ちが、旅をするために強くなりたいという気持ちに変わっていったんだ。」
「なるほど。」
「その後から、修業をつけてくれるようになったんだ。他の者達にも、絶対に修業させるなと通達していたみたいでな、ギルドマスターが許可した途端、毎日皆に修業をつけられたさ。そこでパーティメンバーとも出会い、旅をするようになったんだが。」
笑いながら懐かしそうな表情をするクレア。
しかし一転、その表情が暗くなる。
「そんなギルドの者達が困っていると聞いてな、それで戻って来たんだ。ギルドマスターは最後まで、赤き猛獣には手を出すな、他の者達の帰還を待てと言っていたが……。本当にその通りにしていれば………。」
シリルとアルマは、しばらくクレアを見つめたまま黙り込む。
「………あ、いやすまん。これは関係ない話だったな。」
「いや構わん。気にするな。」
「……ありがとう。まあ長々と話してしまったが、ようするにギルドマスターは信頼できる。絶対に悪いようにはしないよ。という事だ。」
「分かった。」
すると勢いよく立ち上がったシリル。
「じゃあ早速町へ行こう!」
「………シリル。ちゃんと話聞いていたか?」
「聞いてたよ。クレアは信用しているし、そのギルドマスター?っていう人も信用できるって話でしょ?」
「……まあ、そうだが。」
「ならいいじゃん!早くいこ!」
「……ああ。」
少し肩を落とすアルマ。
だがクレアは、そのシリルの気楽さに少しだけ救われ、小さく笑っていた。
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