第1話 ボスVSシリル
―――あれから5年が経った―――
重たい物が倒れるような衝撃音が森に響き渡った。
「よおし!今日のご飯は
白い髪を靡かせ、片手を上げながら満面の笑みで振り返る。
肌は透き通る様に白く、右目は青く、左目は緑に輝き、中世的で綺麗な顔立ちの少年。
5年前馬車で移動中、
アルヴァイス族とは、シリルのように髪と肌が白く、オッドアイを持ち、魔力と身体能力が他の人間達に比べ群を抜いて高い一族である。
「上出来だ。シリル。」
そう答えたのはかつて馬車を襲い、彼に試練を与えた銀狼のボスである。
シリルはたった6歳でありながら、ボスに言われた通り魔物や魔獣が蔓延るこの森の中、一人で生き抜いた。
そして半年を過ぎた頃、ボスは彼の前に再び現れ「生きていた褒美だ」と言い、彼を銀狼の巣へと連れ帰った。
ボスはシリルに魔力操作、闘い方、その他生きるための全てを教えた。
「巨熊は他の子達に運ばせ、他の獲物も狩りに行くか?」
「いいねそうしよう!兄さん姉さんよろしくー!」
銀狼達はそれに吠えて答え、巨熊の死骸を咥え巣へと帰って行った。
彼等と別れたシリルは、ボスに乗り森の奥を目指す。
森の一番奥にある山まで行くと、レッサーワイバーンが空を飛んでいた。
巨熊よりも強く、空を飛び、炎を操る、この森最強と言われる魔獣である。
それを発見したボスは凄まじい速さで真下まで移動し、地面を強く蹴り、一瞬で空へと舞い上がった。
シリルは貫手の形を作り、その手に雷を纏わせていた。シリルの得意技だ。
そしてワイバーンに近づくと、ボスから飛び上がり突っ込むシリル。
ワイバーンは気付くのが遅れ、回避行動を取るが間に合わず、胸を貫かれ一撃で魔石を抉り取られた。
ボスは空中を蹴り、シリルを回収する。
「もはや慣れたものだな。」
「今はボスがいるからね!一人だと流石に苦戦するよ。」
「それでも倒せるのだろ?十分さ。」
「そうかな。」
シリルはボスに褒められ上機嫌で、ボスの背中に抱き着いた。
ボスは急降下をして、落ちて行くワイバーンを追う。
地に落ちる前に追い付き、今度は貫手に風を纏わせ首を切り止めを刺した。
レッサーワイバーンの死骸を回収し、巣へと戻る。
獲物を外に置き、巣に入っていくシリル。
巣は大きな洞穴だった。
子供も含めると8匹程の群れだったが、全員が寝れる程の広さだった。
しかし入り口は狭く、シリルやボスが狩ってくる獲物は確実に入らないため、毎回外で解体し食事をしていた。
ボロボロな剣を拾い外へ出て、慣れた手つきで今日仕留めた獲物を捌いていく。
森に取り残された時に武器を持っていなかったため、死んだ馭者達の剣を回収し使っていた。
だがボスに剣を使わない戦い方を教わり、もはや剣ではなくただの包丁と成り下がっていた。
捌いた肉を他の銀狼達に分け、残った肉を剣へと刺し、用意してあった木に手から炎を出し、火をつけ肉を焼くシリル。
他の銀狼達は、すぐさまそのまま食べていた。
焼かれている肉を眺めていると、ボスが食事を中断しこちらを見た。
「シリル。お前はこの森を出なさい。」
「…なんで急に?」
「お前は強くなった。もうこの森で狩れない魔獣も魔物もいないだろう。これ以上ここにいても強くなれない。もう森を出た方がいい。」
「確かに…。そうだね。そうしよう!」
その決断の早さにボスは一瞬驚いた顔したが、すぐ優しい表情へと変わった。
彼女は思い返していた。
出会った時、試練を与えた時、一緒に過ごしてからもずっと、彼は即断即決だったなと。
生きるためならと。強くなるためならと。
「よしそれなら!ボス、勝負をしよう!」
シリルは立ち上がり、肉の刺さっている剣をボスへと突き出し提案する。
突如の提案に目を丸くするボス。
「…勝負?それは何故?」
「この森で唯一戦っていない相手。そう、それはボスだ!今回はもう修業じゃない!本気で勝負しよう!」
「なるほど。そうか。そうだな。いいだろう。本気の勝負だな!」
「うん!そして俺は勝つよ!」
「いや、まだ負けんよ。」
「いや勝つ!」
そんな言い合いをしながら、食事を再開するボス。
シリルも座り直し、焼けた肉を食べ始めた。
他の銀狼達は、どこまで分かっているのかは不明だが、心なしか笑顔のようだった。
翌朝、森の奥にある山の上。
その中でも開けた場所で対峙するシリルとボス。
周りを囲む銀狼達。
「これが最後の試練になるな。シリル。」
「そうだねえ。…あのさ、勝ったら一つお願い聞いてもらっていいかな?ボス。」
「勝ったらか…。まだ流石に無理だと思うがな。まあ勝てたらいいだろう。」
「必ず勝つって!」
「ふふ、そうか。いいだろう!来い!!」
そう言われ笑顔で特攻するシリル。
一直線にボスへと突っ込み、魔力を込めた右手の拳で殴り掛かる。
ボスは軽々と避け、拳が地面に突き刺さる。
その隙を衝き、炎の弾を放つボス。左手で水の塊を作り相殺するシリル。
右手を地面から抜きざまに、雷の弾を放つが同じ雷の弾で相殺され、その瞬間二人の間に大きな稲妻が走る。
その衝撃により土煙が舞い上がったが、間髪入れずにボスはその更に上空から炎を吐き、シリルへと特攻する。
左手で水を放ち相殺したが、そのまま口を開けたボスが煙の中から突っ込んで来る。
咄嗟に左腕を曲げてボスの口に押し込み、右の貫手に雷を纏わせぶっ刺しに行くシリル。
ボスは再び炎吐き、更に口を閉じ、シリルの左腕を焼きながら噛み千切ろうとする。
シリルはそんな事はお構いなしに、右の貫手をボスの横腹へとぶっ刺す。
ボスは横腹から血を流し、呻き声とともに軽く吐血する。
その瞬間口が開き、シリルは左腕を引き抜いた。
その直後、右足で思い切り突き刺した場所に蹴りを入れる。
ボスはなんとか堪え、後ろに飛び一旦距離を取り、口の中の血を吐き出す。
そして前を見ると、既にシリルはいなかった。
シリルはボスが後ろに飛んだ直後、ボスの上へとすぐさま飛び上がっていた。
飛びながら足に風を纏わせ、ボスの真上で逆さまになって空を蹴り、ボスへと凄いスピードで垂直落下していく。
そして半回転をしながら、右足で踵落としを喰らわせようとするが、既の所で気付いたボス。
踵落としを避けるべく瞬時に横へと飛ぶ。
しかし、シリルはそれと同時に纏わせていた風を開放させ、その風が鎌鼬のようにボスの体を切り裂く。
体を覆っている魔力を増幅させ、ダメージを軽減させるが、シリルの攻撃の手は止まらない。
踵落としの反動を利用し右足で踏み切り、再び雷を纏わせた貫手で刺しに行く。
避けれないと判断し、先程より強力に魔力を纏うボス。
貫手は魔力を貫けず、シリルの右手がバキバキに折れる。
しかし砕けた右手にさらに魔力を送り、爆発させた。
その威力にかなりのダメージを受けるボス。
だがまだ止まらないシリル。
一回転して着地と同時に再び突っ込み、今度は炎を纏わせた蹴りをボスへと放つ。
ボスはカッ!と気合を入れ魔力を全身から放ち、蹴りもろとも吹き飛ばす。
(狩りの時から、止めを刺すまで追撃を止めないのは知っていたけど、この子は本当に…。しかも笑いながら攻めてくる様は、もはや狂気だな。)
一度息を整え、しっかりとシリルを見る。
吹き飛ばされたシリルは、体で着地をしたがすぐに立つ。
左腕は焼け焦げボロボロ、かつ噛まれた後からは血も流れていた。
右手はもはやバキバキに折れ、手の形をしていなかった。
肩で息をしているが、それでも彼から笑顔は消えなかった。
それは心底この戦いを楽しんでいるのだろう。
シリルはすぐさま回復魔法を発動させる。
魔法陣が左肩と右腕に出現し、左腕の血が止まり、右手が手の形に戻る。
左腕を完治させなかったのは、痛みはあるものの動かせる左腕に、魔力を消費するのは非効率と判断したものだった。
普通であれば焼け焦げ皮膚がボロボロの腕など、何もせずとも耐えがたい激痛の筈だが、動けば問題なしとぶっ飛んだ考えを持っているシリル。
彼は痛覚がない人間ではない筈だが、戦闘中に痛みで怯んだことなど一度もなかった。
戦闘中に怯み動きを鈍らせる行為がどれほど危険か、教えられた訳ではなくきっと本能で感じていたのだろう。
しかし、血を止めずにいると出血多量により倒れる可能性を考慮し、血だけは止めた。
シリルが回復魔法を発動させている間に、ボスも魔法を発動させた。
ボスの周りに数えきれない程の魔法陣が出現。
シリルの腕が治るのとほぼ同時に、全ての魔法陣から雷の矢が放たれる。
シリルは急いで両手を前に出し、魔力で障壁を作る矢を受ける。
しかし量が多すぎるため、全弾防ぎ切ることが出来ないと判断すると、すぐさま障壁を解除し突っ込む。
全身を魔力で覆いダメージを軽減しつつ、ボロボロの左腕でガードをしながら、突っ込んでいくシリル。
シリルに向かって、さらにでかい雷を口から放つボス。
それはあまりにも速い攻撃だったため、気付いた時には遅く、雷を喰らい爆発音とともに、シリルから煙が立ち上る。
しかし止まったのはほんの一瞬。再び突っ込むシリル。
次の攻撃を放つ暇がないと判断し、上へと飛び真下へと炎を吐くボス。
シリルがボスの真下の地面を蹴り、炎へ突っ込む。
再び魔力で覆い、今度は膨大な魔力を右手に込める。
不意に炎が止まった。
拳がボスへと当たり、ボスが血を吐きながら吹き飛ぶ。
しかし次の瞬間、吹き飛ばされながらドデカイ雷の弾をシリルへと放つ。
炎が止まったのは、殴られた直後に雷の弾を放とうと全魔力を溜めるためだった。
それがシリルに当たった瞬間、雷鳴が轟く。
シリルは喰らう直前、瞬間的に魔力で全身を覆ったが、それが打ち破られ意識を失い落下していく。
二人共着地は出来ず、地に倒れる。
先に立ち上がったのはボス。
フラフラになりながらもなんとか立ち上がり、シリルの元へと向かう。
もう意識はないはずだが、シリルは全身から煙を立ち昇らせながらも立ち上がっていた。
ボスは警戒をしつつもシリルを見つめている。
(魔力はもうない。シリル…。あれは気絶している…か。しかしあれを喰らって立つとはな。)
少し笑いながらシリルの元へ向かおうとした。
しかし次の瞬間、シリルが一瞬でボスへと突っ込んだ。
もはやそれはただの本能だろう。
足に魔力を溜め地面と水平に飛び、そして最後に残った微量の魔力を拳に込めボスを殴った。
油断…というよりは親心か。
本来のボスであれば、いくら魔力がなく、深いダメージを負ってフラフラとはいえ、多少の回避行動を取りダメージを軽減させただろう。
しかし4年以上も色々な事を教え育てた彼を、ボスは息子のように思っていた。
その息子が自分の全魔力を込めた最大の攻撃を喰らい、意識を朦朧としながらも立っていた。
その事実にボスは少しの驚きと、大きな喜びを感じていたのだ。
その事によりボスは判断が遅れ、シリルの拳をモロに受けてしまった。
拳を喰らわせたシリルも、拳を喰らったボスも、二人共倒れる。
周りの銀狼達が固唾を飲んで見守っていた。
しかし再び、自力で立ち上がる者はいなかった。
シリルが目を覚ますと完全に日が落ち、夜になっていた。
起き上がろうとすると全身に痛みが走り、再び倒れた。
すると、頭の上から声が聞こえてきた。
「まだ起きれないだろう。あんだけ暴れたんだ。無理はするな。」
シリルを包み込むように、ボスが横になっていた。
シリルは首だけを動かし、体を確認する。
確かに痛みはあるが、怪我自体は治っていたようだった。
ボスが先に起き、回復魔法を施してくれたのだろう。
ついでに周りを確認すると、他の仲間達も眠りについていた。
「私もほとんど動けない。強くなったなシリル。」
そう言うボスの顔は、笑っていた。
二人が意識を失った後、仲間達はボスとシリルを運び巣に戻っていた。
他の仲間達に比べ一回りも大きいボスを運ぶのは大変だったようで、引き摺られながら運ばれていたボスは途中で気付き、仲間に支えられながら自力で帰ったようだが。
「俺の負けだよね…」
「引き分けだな。最後にお前に殴られて、私も意識を失ってしまったからな。」
「空中で殴った時?」
「いやその後だ。私はお前に全魔力を注いで攻撃したが、まさかその後立ち上がって、しかも凄いスピードで殴り掛かって来るとは思わなかったよ。」
「ええ…?最後の攻撃喰らってから全然覚えてない。」
「やはり無意識か。しかし、よく無意識でよくあんな攻撃できるもんだ。もうお前の戦闘能力というか闘争心には、呆れを通り越して尊敬してしまうよ。」
微笑みながら、長い尻尾でシリルの頭を撫でる。
「んーでも意識ないし、引き分けって言われてもなー…。すっごい悔しい。」
「無意識の攻撃でも、引き分けは引き分けだ。最後に二人共倒れてたんだ。それで納得をし。」
「んー…でも悔しいもんは悔しい!くそお。次やったら絶対勝つ!」
「森を出てこれ以上強くなって帰って来られたら、さすがにもう勝てそうもないな。」
「あ!そうだお願い…って勝ってないや…はぁ…。」
さっきまで悔しそうにしていたシリルの顔が、いきなり暗くなった。
不思議そうな顔をして尋ねるボス。
「そういえば、戦う前に言っていたね。お願いってのはなんだい?」
「勝ってないし…言えない…。」
不貞腐れる様にそっぽを向くシリル。
(闘っていた時は、笑いながら鬼人の様に攻めて来ていたのに。今はもはや不貞腐れたただの甘えん坊だな。)
そんな事を考え微笑みながら、尻尾で撫でるボス。
「いいさ。叶えるかどうかは別として、言うだけ言ってみな。」
「でも勝ってないし…。」
「いいから、ほら。」
「でも…。」
「いいから。」
「んー…」
その後も、しばらく押し問答をしていると段々イライラしてきたボス。
「やっぱり勝ってないし、言え――」
「早く言いな!!このがんこもんが!!」
と目を吊り上げ、怒鳴るボス。
ビクっとしてボスの顔を覗き込み、諦めたように話し出す。
「勝ったらさ、一緒に旅したいなーって思って…。」
「一緒に旅?森を出て付いて来いという事か?」
「そう。ボスはなんでも知ってるし、一緒に旅しながらもっと色んな事教えて欲しいなーって。そりゃ兄さん達も一緒に来てほしいけど、流石にそんな大勢じゃ街へ行ったら大変な事になりそうだし…。」
「もし私がお前と一緒に森を出たら、他の子達はどうする?私はここのボスだ。それを考えなかったのか?例え負けてたとしても、その願いは絶対に無理だ。」
「分かってるよ…。でも少しの間、旅に慣れるまでは付いて来てほしかったの!さみしいから!」
「少しの間だけでも無理なモノは無理だ。それは自分の事しか考えていない、我が儘と言うものだ。周りの事もちゃんと考えな。何より強くなるんだろう?そんなんでどうする。」
「分かってるよ…言ってみただけ!どうせ勝ってないし!はい!この話お終い!」
そう言うと、また不貞腐れそっぽを向いた。
ボスは何も言わず、尻尾でずっとシリルを撫でていた。
その日の夜は、珍しく静かな夜だった。
(寝たか…まさか最後に甘えてくるとは。やはりまだ子供だったか。だが、私はここのボスだ。ここを放っておいて行く訳にはいかない。)
(しかし私が強制したとはいえ、たった一人でこの森の中を生き抜いたシリルが、寂しがるとはな…随分と気に入られたものだ…。まあ、寂しく思ってしまう私も同じか。)
(…一緒に行きたいと思ってしまうとはな。昔なら迷わず行ったな。)
そんな事を考えていると、一匹の銀狼が起き上がる。
ボスの次に大きく、右目に傷のある銀狼が現れた。
『ボス。イケ。』
『起きてたか…。行かないよ私は。あんたらのボスだからね。』
『ツギノボスオレ。イケ。』
『あんたがボスか…。頼りないな。まだまだ私がいないと、縄張りの広げ方も、上手な狩りの仕方も分かってないくせに。』
『オレタチモウヨワクナイ。イケ。』
『シリルの方が強いだろ。それに、あんたらは私の子供のようなもんだ。それを置いていけないよ。』
『ボス。シリルオレタチノオトウト。イッショ。』
『でもな――』
『イケ!!オレガボスダ!!』
ボスは目を丸くする。
この銀狼達のボスになってもう50年以上となるが、強く吠えられたのは初めてだった。
銀狼が強く吠えた所為で、シリルが起きる。
「んーどしたの?ギン兄さん」
ギン兄さんと呼ばれた銀狼は首を振り、すまないという風に鳴いた。
シリルはそれを見て、「そっか。分かったー。」と言い再び眠りについた。
仲間の銀狼達は、最初は人間であるシリルに興味はなかった。
小さい餌か、おもちゃくらいにしか思っていなかった。
ただボスが食べるなと言うから食べなかったが、ボスが止めなければすぐ食べただろう。
しかし一緒に暮らし、兄さん姉さんと呼ばれ、ふざけ合い、助け助けられ、気付けば銀狼達の間では小さい餌が小さい仲間、そして小さい弟になっていた。
ボス以外は喋れないが、シリルは銀狼達の言っている事を理解し、銀狼達もまた人間の言葉は分からないままだったが、シリルが言う事だけは分かっていた。
そしてそんなシリルが一人で旅をするという。
自分達より強いとはいえ、銀狼達も心配だった。
だからもしシリルがわがままを言わなくとも、ボスにはシリルに付いて行って欲しかったのだ。
ボスは銀狼達が、シリルを仲間のように思っていることは知っていた。
しかしまさか、ボスである自分に反論してくるとは思っていなかった。
そして、こんなにもはっきりと意思を伝えてくるとも。
銀狼達は魔物の中で仲間思いの方とは言え、シリルと出会う前の銀狼達なら、心配するという発想がなかっただろう。
シリルと共に暮らし、銀狼達もまた成長していたのである。
それに驚き、また嬉しく思っていた。
あんなにバカで弱かった子達が、こんなに成長するなんてと。
『…お前の気持ちは分かった。次のボスはお前だ。明日皆が起きたら伝えよう。』
頷くと右目に傷のある銀狼は、再び伏せて目を閉じた。
翌朝、シリルが目を覚ますと皆が起きて、シリルとボスの周りに集まっていた。
「おはようボス。兄さん姉さんもおはよう。」
「おはよう。体は大丈夫か?」
「うんもう大丈夫!みんな集まってどうしたの?」
「お前を心配してたようだよ。」
「そうなんだ!ありがとう!もう大丈夫だよ!」
その言葉を聞いた銀狼達は、安心した表情をしていた。
子供の銀狼達は、シリルに飛びついてじゃれだした。
しばらくじゃれ合い、一段落すると銀狼が皆に一声吠えた。
そこにいた皆が、ボスへ注目する。
『皆気付いてると思うが、私はシリルに付いてく。皆今後は、≪ギン兄さん≫の言うことを聞くように。』
そう言われ集まった銀狼の中から、右目に傷跡のある銀狼が前に出て吠える。
≪ギン兄さん≫というのは、目つきがギンッ!としてるからという理由で、シリルが名付けたあだ名である。
銀狼達同士では、あだ名をつけ合うという習慣はなかったが、シリルが呼び始めた結果、皆気に入りそう呼び合っていた。
『オレガボス。ヨロシク。』
『後は頼んだよ。ギン兄さん。そしてみんな、今までありがとう。』
みんな納得している顔をしていたが、その中呆然としているシリル。
銀狼達の言葉をある程度理解はしていたものの、さすがに今回は訳が分からなかった。
それを察して、今度はシリルの言葉で話す元ボス。
「シリル。私はお前に付いて行くことにしたんだよ。ボスはギン兄さんに任せてな。」
「え…?でもだって昨日――」
「そういう事にしたんだ。というか、皆にせっつかれてな。もう子供じゃないってさ。」
「みんな本当に大丈夫なの…?」
シリルがそう言って周りを見ると、皆笑顔で吠えた。
「ほんとに?本当に!?」
「ああ。」
「やった…やったー!!みんなもありがとう!!」
飛び跳ね喜び、皆に抱き着いて回るシリル。
しばらくの間、皆シリルを中心にわいわいとしていた。
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