朱け色の街

古根

1

 夕日が落ちた後。街が完全に夜に覆われるまでの、ほんのわずかな時間。


 僕はそのとき、西講義棟の非常階段に腰掛けながら、鮮やかに空を映すガラス張りのビル群を眺めていた。

 わずかな隙間を縫って架けられる高架街道と高速道路、それらが林立する高層建築と描き出す複雑な光の陰影は、さまざまに明るさを変えながらビルの合間を通って下層の深淵へと落ち込んでいく。


 空が色濃い群青色に染まる、ほんのわずかな時間。その群青色がゆっくりと彩度を落としながら、眼下の街並みは次第に紺色の闇に覆われていく。僕はその光景を、まだ冷たい春先の風を感じながらぼんやりと俯瞰する。


 夕暮れ時に、たとえば見知らぬ街に、たったひとりで取り残されてしまったとき。

 または、行き先のわからない電車に乗って、どこか遠く、どことも知らない場所に運ばれていくような……。


 帰りかたがわからない、……だろうか。もしかすると、これからどうすれば良いのだろう……かもしれない。


 途方に暮れながら、そんな折にふと空を見上げると去来する、焦りと、不安と、諦めと、それから……引き絞られるような寂しさ、それから感傷。


 この時間の街並みを眺めていると、なぜだかそんな感覚が沸き上がってきて、そして僕は、時折ひとり非常階段やら屋上やらで黄昏ながら、そういう感傷に浸り込むのが好きだった。


 青い光に覆われ、どこか彩度の落ちた街並み。そんな視界で、ひときわ明るい光を振り撒く信号機。家路を急ぐ人影が足早に高架街道を往来するのを、いつしか点った街灯の光がやわらかく包み込んでいく。


 僕はこの光景に、どこか郷愁を感じるのだ。

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