トケルのエロティックな食事
「カタメくん、『
「うん。先週オープンした新しいラーメン屋さんでしょ?毎日開店前から並んでるらしいよ」
「ふたりで食べにいかない?」
「おっ。トケルさんはラーメンが好きなの?」
「うん。まあ人並みに。それでその天涯孤独が今までに無い系統のラーメンだって評判だからね、食べに行ってみたいの」
「うん。じゃあ行こう」
「カタメくん、今からでもいい?早く行かないと。数量限定らしいから」
「いいよ。どうせお昼ご飯食べなきゃいけないし冷蔵庫の中にはもう目ぼしい食材がないから」
トケルとカタメがベスパで『天涯孤独』に着くと開店30分前で、もう30人ぐらい客が並んでいた。仕方なくふたりで最後尾に並ぶと前の客たちからメニュー表がリレーのように回されてきた。
トケルがメニューを広げて読み上げる。
「まぜそば。まぜまぜそば。まぜまぜまぜそば」
「なにそれ?」
「書いてあるよ。『まぜそば』は
トケルはテンションが上がっているようだ。カタメの目を覗き込んで自分の目は思わずグリーンがかるくらいに輝かせている。
「ねえカタメくん。割り込んでもいいかな!?」
「ダメだよトケルさん!なんだかトケルさんらしくないよ!」
「そうかしら」
そうかしらなどというトケルにしては有り得ない言い回しがスムーズに繰り出されるということは極限までに高揚しているに違いなかった。
そしてその原因は間違いなく美味しいに決まっているだろうそのラーメンの脳内描写だった。
「はーい!今日の食材はこちらのお客様で売り切れでございまーす!」
「なっ!?」
数量限定とは聞いていたもののたったの30人。最後のひとり。店のスタッフが無情にもトケルとカタメに告げたのはふたりを引き裂く宣言だった。
「あの。わたしたち彼氏・彼女なんです。もうひとり分だけでもなんとかならないんですか?」
「本当に申し訳ございません。どちらかおひとりさまだけとさせてください」
カタメが彼氏らしくトケルに言った。
「トケルさん、俺はいいから食べなよ」
「カタメくん・・・」
「その代わり・・・店員さん、俺、食べなくてもいいから彼女が食べてるところ、後ろで見ててもいいですか?」
列に並んでいる周囲もなんだかこのふたりに反応したがっているようだった。無言だが『もうひとり分ぐらいなんとかしてやれよ』という空気が周囲を包んでいたが、カタメは自分が食べられなくてもトケルが喜ぶ様子を見られるだけで満足だった。
「トケルさん、いよいよだね」
「うん・・・この『まぜまぜまぜそば』悔いのないように完食するよ!」
トケルのラーメンの食べ方はエレガントそのものだった。
箸でひとたぐりの麺をくくり、肘から先の動きだけで麺を持ち上げ、そしてその可憐な唇に運ぶ。
カタメが何度か自らの唇で触れたそのトケルの赤みをさした鮮やかな唇に箸にくくられた麺が触れるか触れないかの瞬間、カウンターでラーメンに集中していたはずの客たちが、いつの間にかトケルの食事の瞬間を凝視していた。
トケルはそれを知ってか知らずか、更に美しさを増した食べ方で憧れていたラーメンを一口一口、着実に喉を滑らせ、胸元をするりと落とし通し、くっ、と凹んだ腹筋の下の、小さな胃に流していく。
既にトケルのオーディエンスと化していた客たちは、内臓の中の流動の描写であるはずの
そして、気がつくとカウンターの丸椅子の上で丁寧にぺたんと重くない体重で美しく平たく潰されたショートパンツから露出する太腿の柔らかな
汁なしの、濃厚なまぜまぜまぜそばの山椒と食べるラー油とを完食し、潤んだように艶やかな唇に細い右手首の根本あたりから手の甲を、きゅ・きゅ、と
「楽しんでくれた?わたしの食事」
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