3章 6

 いつもの様に二人して学食へと向かおうとする玲と留美。先日あんなことがあったが、今となってはそれが当たり前のような行動だった。


 学食での出来事は広く知られてしまっていた。それなのでクラスメイトも一部はニヤニヤと、あるいは羨ましそうに二人の背中を見つめている。ただし今日はひとつ違うことがあった。

 二人が教室を出て学食へと向かおうとすると、背後から二人がいなくなった教室へ向かって

「秋山玲さんっていますか?」

 自分を呼ぶ声に足を止める。


 教室に残っていたクラスメイトが教えたのだろう、玲の名前を読んだ女生徒が振り向いてきたので

「ボクになにか用ですか?」

 すると、女生徒は手に持っていた封筒を玲へと差し出して

「これを渡しに来ました」

 ピンク色の封筒はどう見ても

「ラブレター!」

 差し出された玲よりも大きなリアクションを見せる留美。

 しかしたしかにそれはラブレターで

「これをボクに……」

 留美ほどではないが玲も動揺を隠せない様子。

 ただ一人差し出した女生徒だけが平常心で

「はい。と言っても私は頼まれて来ただけですけどね」

「……え?」

 首を傾げる二人。


「私と同じ一年生のクラスメイトの子からの手紙です。親友なので1つだけ言わせてもらいますけど、ちゃんと読んで真剣に答えてあげてくださいね」

 そう言うと手紙を玲の手に渡して

「それでは失礼します」

 頭を下げて去っていった。残された二人と玲の中の手紙。

「……読んでみたらどうですか?」

 予想外の出来事に固まっている玲へと声をかける。

「う、うん……」


 少しだけ硬直が解けて、手に持っている封筒を開いて中の手紙を開く。その光景を眺めている留美は今すぐにでもここから走り去りたい気持ちを抑えつつ、読み終わるのを待っている。手紙にはどんな言葉が書かれているのだろうか。ラブレターなのだから送ってきた女の子から秋山玲への愛の言葉が羅列されているのだろうか。ストレートに好きですなのか、友達が渡してきたところを見ると恥ずかしがり屋で、手紙の中でもストレートに好きと言えずに遠回しな告白がされているのかもしれない。考えれば考えるほど胸が痛い。


 読んでいく玲の表情に変化らしいものはなかった。

 やがて読み終わり、手紙を折りたたんで封筒に戻す。どうだった、と聞いてもいいのだろうか。関係のない自分が入り込んでもいいのだろうか。玲さんも言い難いだろうしここはスルーをする方向で

「小等部の女の子からだった」

 玲の方から報告をしてきた。

「そ、そういえばさっきの女の子も小等部の制服でしたね」

 心を落ち着かせながら答える。

「それで、なんて書いてあったんですか?」

 報告されたのなら仕方ないと自分に言い聞かせて訊ねると

「うん、今日の放課後に音楽室に来て欲しいって」

「そ、そう。それで……行くんですか?」

 無意識に

「待っているのなら行かないと失礼だしね」

 胸を押さえていた。

「わかりました」


 胸から手を離して。だから出来るだけの笑顔を浮かべて

「じゃあ今日は一緒には帰れませんね」


 心の中で泣いた。

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