幕間 そこが彼女の
闇が晴れたらどこかの部屋にいた。
秋山は部屋の中をひと通り見回して唯一あるドアを開けようとノブを回して、しかしどれだけ回しても開かないドアに直接手を掛けて開こうとしても結果は同じ。次にカーテンを開けて見知らぬ景色を眺めてから窓を開けようとしたが、こちらも開かない。
鍵はかかっていないしなにか詰まって開かない様子でもない。見知らぬ外の景色はよく見れば不気味だった。ごくありふれた住宅街なのだがどこを見ても誰もいない。
「ここって、女の子の部屋?」
ようやくそこで部屋の中の小物に目をやると、彩色が明るいものが多くて男の子には派手すぎる小物が多い。もう一度見回してクローゼットをみつけて、手をかけて開けようとして、掴んでいたものの感触が消えた。
視界からも部屋が消えて、また闇が訪れた。
「ごめんなさい。今のは間違いです」
また闇の中から水無月の声。
「いま見たものは全部忘れてもらえると嬉しいです」
明らかに焦った様子が伺える声だったが、そこを突っ込まずに
「そうだ。聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
闇の中から返事は返ってこないまま
「水無月さんは映画って好き?」
少しの間があった。
やっぱり答えてくれないかと口元に笑みを浮かべていると、闇から声が帰ってくる。
「好きですよ。だって、映画を12本見ていれば一日が終わるんですから」
声しか聞こえてこないために、どんな表情を浮かべてその答えを口にしたのかはわからない。
だが
「そう、か。ありがとう水無月さん」
秋山自身も、今どんな顔をして彼女に言葉を送っているのかわからなくなっていた。
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