#07 キャラクターメイキング
家に着いた俺は早速ベッドの上に横たわり、ヘッドセットを装着する。買ったばかりの独特の機械の匂いがする。ちょっと懐かしいなって思う。
スイッチを入れると、ハードのメーカーロゴが表示された。VRヘッドセットを利用するにあたっての注意と利用規約のようなものがずらずらと表示される。こんなのまともに読むやつなんかいないって。内心馬鹿にしながらも俺は『同意します』と念じる。
DOMもそうなのだが、VRゲームの操作は念じることで行われる。脳からの命令を体にするのではなく、その信号を直接マシンに送信されているらしいのだ。
例えば、右手を動かせと脳が命令すると、現実の自分の右手は動かずに、ゲーム内の自分の右手が動くのだとか。最初に聞いた時は科学の進歩に感動したものだが、今ではすっかり新鮮味も薄れてしまった。とにかく安全は保障されているようだから小さいことは気にしない。
ゲームアカウントの作成画面が目の前に表示される。以前使っていたアカウントと同じ情報を使うのはやめておいたほうがいいかもしれない。同一人物と思われて再び垢BANされてしまっては元も子もないしね。
名前と住所を少しだけ弄ってそれっぽい形にしてみせた。アカウントの作成が完了すると、いよいよ本命のDisappearance of Memoryを起動する。
「最初はゲーム内のアバターを決めるんだったな」
壮大な音楽と共に、目の前が光に包まれていく。アバターなんて復讐を遂げる上で何も関係ないことだと思っていても、やはり自分の分身という事もあり、つい真剣に作ろうと思ってしまうのは自己愛が強い証拠なんだろうか。
『まずは、あなたの名前を教えてください』
白い光の中に文字が浮かび上がってきた。一度決めると変更が出来ないので、ここは慎重に決めたいと思う。
「名前ね……」
自分の名前をそのまま使うのはあり得ない。以前と同じように、自分の名前を英語にしただけのスカイにするべきか悩む。流石に無いだろうけど、垢BANのリスクは極力避けたい。やはり変えるべきか……。
“シエル”
今回は空をフランス語にしてみた。中性的な感じがするけれど、なんだかこっちの方が名前としても自然な感じだし、スカイよりもいいかもしれないな。うん、これで決定だ。
『では次に、種族を決めてください』
4つの種族のモデルのようなイラストが目の前に現れる。以前は人間一択だったが、今度はよく悩んで決めようと思う。手を伸ばして触れてみると、種族ごとに簡単な説明が浮かんできた。
【人間】……最も標準的なステータスの種族。これと言った特徴はありません。
【エルフ】……魔力が高く、攻撃力が低い種族。尖った耳と美しい容姿が特徴。人間よりやや小柄。
【ドワーフ】……守備力と器用さが高く、素早さが低い種族。大きな耳と、丸々とした体形が特徴。キャラメイクでは特別にヒゲも設定できます。
【獣人】……攻撃力が高く、魔力が低い種族。頭の上に耳が付いているのが特徴。キャラメイクではマッスルボディからマスコットキャラのような可愛いものまで幅広く対応。
説明になっているんだか分からない、微妙な文章がつらつらと出てくる。最も主役っぽいのは人間だが、攻撃力が高い獣人というのも気になるな……。
人間か獣人か……。
以前ゲーム内で獣人をカッコよくキャラメイクしている人がいたのを思い出して、獣人で始めようって気持ちの方が強くなってきた。
「同じ人間じゃ飽きるだろうし、今回は獣人で始めてみようか」
すると、詳細なキャラメイク画面に移った。容姿の性別、年齢、体型、色、耳、目、鼻などなど……そう、声まで変えられるんだよな。現実の自分とは全く異なる自分がこのゲームでは作り出せるという訳だ。もちろん、フィロソフィのようなネカマプレイも可能だが、そんなことをするつもりはない。
デフォルトの獣人はいかにも獣っぽかったので、色々弄ってみる。
「マッチョからマスコットっぽいのまで幅広く作れるって書いてあったし、やるなら中間の人間みたいな見た目のキャラだな」
少し時間が掛かってしまったが、なんとか人間と同じような見た目も作ることが出来た。これをベースにして調整を加えて行こうと思う。
散々悩んだ挙句。性別はもちろん男。容姿は現実の自分よりもやや長身にして少し美化させてみた。種族が獣人で敢えて人間のような見た目にするのがミソだ。
ただ、人間と決定的に違うのは頭から猫のような耳が飛び出しているという事。これはこれでチャームポイントみたいでいいと思う。髪の色は、透明感のあるホワイトにしてみた。うん。なかなかイケている。気に入ったぞ。
『最後にあなたの職業を決めてください』
選べる職業は5つで、その職にしか使えない武器やスキル、魔法が決まっている。途中で職業を変えることもできるが、ある程度ゲームを進めないといけないので、しばらくは最初に決めた職業でプレイすることになる。こちらも各職業の簡単な説明が書かれてあるが、そんなの見なくても分かるくらい俺はやりこんでいるのだ。
【戦士】……攻撃力と守備力が高い職業。仲間の壁となれ!
(使用可能武器)片手剣、オノ、両手剣
【格闘家】……攻撃力と素早さが高い職業。高い攻撃と素早さで敵を翻弄しろ!
(使用可能武器)ツメ、棍、グローブ
【神官】……魔力が高い職業。神官だけが使える回復魔法で仲間をサポートせよ!
(使用可能武器)杖、槍、棍
【魔法使い】……魔力が高い職業。攻撃魔法で遠距離から敵を安全に攻撃だ!
(使用可能武器)杖、短剣、弓
【吟遊詩人】……平均的なステータス。強化、回復、攻撃。状況に応じて立ちまわれ!
(使用可能武器)短剣、楽器、棍
ファンタジー物を遊ぶときは剣を使いたいのが男の子の性。最も主役っぽい職業ということで、以前は戦士を選んだんだっけ。
だが、今回は違う。序盤から最も高い火力が出せるということもあり、最初に選ぶのは“魔法使い”だ。
『キャラクターメイキングが完了しました。Disappearance of Memoryの世界に旅立ちます。準備はよろしいですか?』
準備なんてとっくに出来ているさ。
これからの俺は復讐のビーストとして生きていく。そう決意しながら世界は更に強い光に包まれていった。
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