第231話 そうであっても


「あ、子供達と女の人、助けないとっ!」


繋がれている首輪と手枷を魔法で壊し、着ていた外套を脱いで女性に掛けた。

ディルクとエリアスも同じようにして、女性が恥ずかしくならないようにしていた。


子供達も自由にすると、皆泣き出した。



「ディルク、エリアス、子供達が泣いてる!抱き締めて安心させてあげてっ!」


「え?……あぁ。そうだな。」



ディルクは子供達の頭を優しく撫でて、抱き締めてあげていた。


エリアスは頭をワシャワシャして、背中をポンポンしていた。


その様子を見ていた私を見て、ディルクが子供達にするように私の頭を撫でて抱き締めた。



「あ、ディルク、私は大丈夫だからっ!」


「そうか?悲しそうな顔をしていたから……」


「アシュレイは触れねぇからな。なんでアシュレイには腕輪を着けなかったのかな。」


「着ける事によって起こる負担がどう出るか、怖かったからだろう。」


「え……?」


「なんだ?それ?!」


「あ、いや……」


「おい!何か知ってるのか?!」


「…………」


「知ってるんだろ?!何隠してんだよっ!この腕輪を着けた奴が誰か、知ってんじゃねぇのかよ?!」


「それは……」


「ディルクっ!いい!言わなくていいっ!」


「アシュレイ?!」



思わず私はその場から走り去ってしまった。

階段を上がって、部屋に出た所で、座り込んでしまう。

耳を手で押さえて、何も聞こえないように、何も考えないようにする……




違う……



違う……



そんなんじゃない……



私とディルクは違う……



絶対に……違うっ!



呪文の様に、何度も自分の心の中で呟く……




暫くして、階段を上がってくる音が聞こえた。


それはエリアスだった。



「アシュレイ、すまねぇ……」


「エリアス……ディルクは……?」


「兵を呼んでくるって、空間移動で行っちまった。」


「そう……」



エリアスが座り込んでる私を、包み込む様に抱き締める……



「ごめん、また泣かしちまったな……」


「泣いてない……」


「そうか?」



エリアスは私の頬を指で撫でて、それから頭をポンポンする。



「また私を子供みたいに扱う……」


「んな事ねぇよ?……立てるか?」


「うん……」


「子供達が不安がってるからさ、傍にいてやりてぇんだ。一緒に行こう?」


「うん……」



エリアスが手を繋いできて、一緒に地下へ戻る。

子供達と女の人は片寄って身を寄せて泣いていた。


エリアスが壁に拘束されていた男の人を下ろして、そっと床に寝かせる。

一人の女性がその人の側に行って、抱きつきながら泣いていた。


ふと見ると、微かに男の人の指先が動いていた。


まだ生きているっ!


慌てて回復魔法をかけた。

すると、男の人はゆっくりと目を開けて、すがって泣いている女性を見る。

それに驚いた女性は、でも嬉しそうに泣きながら二人で抱き合った……


良かった……


それでもこんな目にあわされて、子供達もそうだけど、女性達の心の傷はどんなだろう……と考えると、悲しくて涙が出そうになる……


浄化魔法で、子供達と女性達、男の人の汚れを取り除き、手枷や首輪で傷付いた所を治癒させる。


そうしていると、ディルクが歪みを抜けて帰ってきた。



「この事を報告してきた。今、兵達がこちらまで向かって来ている。」


「ディルク……」


「どうした?アシュリー?」


「ううん……なんでもない……」



ディルクが私を抱き寄せる……



「そんな不安そうな顔をして……」


「だって……」



程なくして、兵達がやって来た。

倒れている男達を拘束して連れ出して行く。

それをエリアスも手伝っていた。

老化した男を見て、兵達は驚愕の表情を浮かべながら、その男も拘束して連れ出す。


女性と子供達の元までディルクが行って、一人一人、触れていく。

不安そうな表情をしていた子達が、少し元気になっていく。



「ディルク……っ!」



急いでディルクの元まで行って、腕を掴む。



「ダメだ!また倒れちゃうっ!!」


「アシュリー……大丈夫だ……少しずつ恐怖を取り除いているだけだから……」


「でも……っ!」



私が止めても、ディルクは止めなかった。

女性の恐怖も取り除いて行って、立ち上がろうとした途端、ディルクが崩れ落ちそうになった。

それを即座に支える。



「リドディルク様っ!!」



ゾランが急いで駆けつけた。

二人でディルクを支えて、空間移動で王城に戻る事にする。

エリアスはその様子を見ていて、私にゆっくり頷いた。


王城の、貸し出されたディルクの部屋に空間移動でやって来て、すぐにベッドに横たわらせる。

ディルクは息も荒くなって、痛みに耐えている様だった。

ゾランが着替えさせようとしたが、ディルクは私を離さない。



「アシュリー……どこにも行くな……アシュリー……」


「分かったから……傍にいるから……っ!」



そう言うと、やっと私を離した。

ゾランと従者が着替えさせて、医師を呼んだ。

ディルクはうわ言の様に、何度も私を呼ぶ。

処置が終わると、ゾランは私に頭を下げて、医師と共に部屋から出て行った。


装備しているものを全て外して、ディルクの傍に行く。

そっと手を握ると、ゆっくり目を開けて、私を見て微笑んだ。



「ディルク……」



思わず抱き締めてしまう……


私を見て微笑むディルクを、とても愛しく想ってしまう……


熱くなった体を、氷魔法で少しずつ冷やしていく。

抱き合う様に横になって、ディルクの頭を抱き締めて、熱が上がらないように冷やしていくと、少し落ち着いたのか私の胸で眠った様だった……



いい……



ディルクが誰であっても……



そんなこと



もうどうでも良い……



そんなこと



関係ない……



たとえ私達が



兄妹であったとしても……





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