第207話 お誘い
宿屋の部屋で、そんな話をしていて、ふと外を見ると日が沈んで来ていたので、食事に出る事にした。
祭の前日だからか、どこも人が多く、凄く賑わっていた。
しかし、前日でこんなに人が多いのであれば、明日はどれだけの人がやって来るのか……やっぱり、窓から眺める位しかできないかもな、なんて思いながら、外にもテーブル席がある酒場に入った。
エリアスと二人で食事をしていると、若い女性が二人、声をかけてきた。
「あの……ちょっと良いですか?」
「え?あぁ、どうしたんだ?」
「あの、この街の方ではないですよね……?」
「あぁ、そうだけど……?」
「明日のお祭りは、何か予定とかありますか?」
「え?いや、別に何もねぇけど、なんだ?」
女性は二人でやった!とか、良かったね!とか言い合ってた。
「あ、あの!明日、私達と一緒に、お祭り回って下さい!」
「ん?え?何?」
「それから、夜にダンスパーティーがあるんですけど!それに一緒に行って欲しいです!」
「え?ダンスパーティー?」
「お願いします!」
ひとまず、どういう事か詳しく聞きたいので、一緒のテーブルについて貰う事にした。
私の横に座った娘が、ずっと私の顔を、ボーっとした顔で見詰めていた。
この街の未婚の女性は、祭りとなると、誰かパートナーとなる人と一緒に祭りを見に行くのが定例となっているらしい。
しかし街の男性は、祭りの運営やら手伝いやらで男手が必要とされる為、祭に参加できる者が少ない事から、パートナーを求める女性が
そこで、祭りを見に来た旅人等を誘うと言うことが、よくある事らしかった。
それから、祭りが終わった後に催されるダンスパーティーに参加する事が、女子の中ではステータスが高いと言われるそうなのだ。
しかし、ダンスパーティーの頃には、祭りから解放される男性達もいるので、密かに誘いを待っている者も多いらしいが、日中の祭りからダンスパーティーまで、同じパートナーでいられる事を望む女子からは、よっぽどの事がない限りはダンスパーティーのみ誘う、と言った事はないらしいのだ。
「そうなんだな……」
「色々あんだな……でも、悪いけど、俺達は無理だな。」
「えぇ?!どうしてですか?明日はお祭りを見て回られるんですよね?なら、そこに私達が一緒じゃダメなんですか?!」
「あ……私は無理なんだけど……エリアスなら行けるだろ?」
「何言ってんだよ、アシュレイ!」
「え?!貴方は無理なんですか?!」
「あ、あぁ、うん、そうなんだ……」
「あ、でも、この娘だけでも良いんです!私は最悪幼馴染みがいるから……」
「いや、最悪って……」
「この娘、アンナって言うんですけど、引っ込み思案で、人見知りも激しくて、自分では誰も探せそうにないから……エリアスさん…?お願い出来ませんか?!」
「え、いや、それは……」
「エリアス、良いじゃないか。付き合ってあげれば。」
「けどよ……っ!」
「私は明日、部屋から出られそうにないんだ。それにエリアスは付き合ってくれようとしてたんだけど、それは私も気が引けるから、君の誘いにのらせて貰いたいんだ。」
「是非!お願いします!」
「勝手に決めんなよ!」
「ダメですか……?」
アンナが目を潤わせて、エリアスを見詰める。
「エリアス、私の事は、本当に気にしなくて良いから。一緒にお祭り、楽しんで来て!」
「……分かったよ……けど、俺、ダンスとか出来ねぇからな……」
「それでも良いですっ!やったぁ!良かったね!アンナ!イケメンゲットだね!」
「ん?イケメン?ゲット?」
「あ、何でもないです!じゃあ、明日、正午にこの店の前で!」
「あぁ、分かった。」
「よろしくお願いします!」
彼女達は頭を下げて、良かったねー!ハイスペックだよー!って、キャッキャッしながら帰って行った。
なんか、仕草とかが全部、女の子だなぁーって思いながら、私は去っていく彼女達の後ろ姿を見ていた。
ふとエリアスを見ると、何だかムスッとした顔をしていた。
「どうしたんだ?エリアス?」
「ったく……俺の気持ちはどうでも良いのかよ……」
「え?嫌だったのか?」
「嫌とか、そんなんじゃねぇけど……俺、アシュレイと一緒に見て回りたかったからよ……」
「けど……行けないかも知れないから……」
「分かってるよ。アシュレイの気遣いって事くれぇ……」
「あ、そうだ!なんかお土産買ってきて!美味しそうなのとか、面白そうな物とか!」
「……あぁ、分かったよ……」
ちょっと不貞腐れた感じで、エリアスは呟いた。
それからも、何回か女性に、さっきと同じ様な感じで声をかけられた。
既に行く相手が決まっている、と言うと、凄く残念そうな感じで去っていく。
お祭りとは言え、女の子はなかなか大変なんだな、と感じたのだった……
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