第206話 ナルーラの街


グリオルド国 ナルーラの街


街に入るのに行列ができている事から、この街は人気がある街なんだと予測できる。


商人の馬車や乗り合い馬車等は別に入口があって、きちんと身元確認をしてから入っている様だ。


5m程の石壁で、しっかりと補強された印象で、警備もきちんとされていそうだ。

国境近くの街だから、しっかり対策をしている、と言った感じに見てとれる。


入口で身分証明書としてギルドカードを見せて、この国に来た理由を聞かれる。

オルギアン帝国からの依頼で、そこに向かっている道中だと伝えると、割りとすんなりと入る事が出来た。


街は広く、商人の馬車の行き来も頻繁にあり、物流が盛んだと言うのもすぐに分かる。

様々な専門店があり、食堂も多いが、露店や屋台も多く見られて、人も多かった。


物が動くと言う事は、この街、そして国は活気があり潤っている、と言う事なんだろう。

街の人達を見ても、皆生き生きしている様に感じられる。


エリアスと街を歩いて、昼食代わりにあちこちの屋台で食べ物を買って、食べながら歩いて、街の様子を見て回った。

店の人も明るく、行き交う人達も楽しそうだ。


それから、街の外れ辺りの路地にも入ってみた。

ある程度整備がされていて、スラムと呼ばれる様な場所は無さそうだった。


教会にも行ってみた。


この教会もアフラテス教であったが、マルティノア教国の様な印象ではなく、集う人達は穏やかな顔をしていた。

隣接されていた建物は孤児院の様で、そこからは子供達の笑い声が聴こえて来た。


この街は……この国は良い国だ……


私達はそんな印象を受けた。


それにしても人が多いな……と、飲み物を売っている露店からエールを買っている時にエリアスと話していると、



「なんだ、知らなかったのか?明日ここで祭りが開催されるのさ。それで人が集まって来てんだよ。アンタ達、宿屋は確保したかい?早めに取っておかないと、泊まれなくなるぜ。」



そう教えてくれた。


急いで部屋を取りに宿屋へ向かうが、やはりどこも満室で、まぁ王都に帰れば泊まれるしな、なんて話をして、もう一軒宿屋を見付けたので確認すると、キャンセルが出たとかで、何とか宿を確保する事が出来た。


宿屋の主人に、この街の事を聞いてみた。


明日のお祭りは、昔から催されている祭りで、昔は雨乞いをする為に生け贄として娘を献上していたと伝えられており、生け贄の娘の供養の為と、水龍を称える為から始まった事が、お祭りとなっていった、と話してくれた。


なので、毎年一人、生け贄役の娘が奉納される山車に乗って街中を巡礼し、その周りを水龍を模した物で舞い、水龍が舞う時にお菓子が振る舞われる事から、子供にも大人気のお祭りだそうだ。


生け贄役の娘に選ばれる事は名誉のあることで、この街の女性は、挙ってその役に選ばれる為に自分磨きを怠らない。

この選考は祭りが始まる3ヶ月程前から始まっていて、選ばれた女性は貴族に見初められる事もあるらしく、確実に玉の輿に乗れるチャンスと言われているのだ。


その他にも、子供が行う観劇や、美男美女コンテストと言うのもあるらしい。

それに、仮装する人も多いそうで、特に女性は生け贄役となる娘の仮装をする事が多いそうだ。


しかし、ここまでの祭になったのは、グリオルド国がオルギアン帝国の属国となってからだそうだ。

前からも祭自体はあったが、それは質素なもので、ここまで大きな祭では無かったそうだ。


オルギアン帝国の属国になった事で、国内は安定し、無理な税収に苦しめられる事もなく、街は大きく発展していったと話していた。


知らずに来た様だけど、良い時に来たな、と宿屋の主人は笑って言っていた。


色々あって、気持ちが沈みがちだった私達には丁度良かったんじゃないかと言い合って、明日は祭を楽しむ事にしたんだ。


それから、この宿屋の近くには大浴場があって、そこの天然温泉も体に良いから、是非入っていくように、と言われた。



「エリアス、大浴場に行ってきたらどうだ?私は行けないけど、エリアスなら行けるから……」


「いや……俺も良いや。」


「私に遠慮しなくて良いんだぞ?」


「そんなんじゃねぇよ……」


「なら良いんだけど……」


「それより……付けられてるの、まだ続いてんな。」


「うん……何なんだろう?付かず離れずって言うのが、何か嫌だ。」


「そうだな。何がしたいんだろうな。まぁ、殺意も感じられないし、もう少し放っておくか?」


「そうしようか……まぁ、せっかくのお祭りだしな。私、今までお祭りとか経験した事がなかったから、なんか楽しみなんだ。」


「初めてなのか?!……そっか……じゃあ、明日は楽しめたらいいな。ただ、注意しねぇと……」


「え?何が?」


「いや、祭って、予想以上に人が多くなるから……」


「あ、そうなんだ……触らないようにしないと……」


「俺が守ってやれれば良いんだけど……」


「ううん、そこまで頼れないし、人が多すぎると、それも出来ないよね……」


「オークションの時みてぇに、俺の腕に両手で掴んでたら、大丈夫とは思うけど……」


「明日人が多い様なら、外出は控える様にする。部屋から眺めるだけでも、お祭りを楽しむ事はできそうだし。丁度ここの窓は大通りが目の前だし。あ、エリアスは私に気にせずに行ってくれたら良いから!」


「俺一人じゃ楽しめねぇだろ?アシュレイと一緒じゃなきゃ、意味ねぇよ。」


「そんな事はないよ。きっと……」


「まぁ、明日様子を見ようぜ?人が少ない時間帯とかあるかも知んねぇし。な?」


「あ、……うん。」



そうか、お祭りって、そんなに人が集まるもんなんだ……



知らなかった……



でも、眺めるだけだったとしても、初めての体験だから、凄く楽しみだ。



エリアスも楽しめたら良いんだけれど……








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