第203話 相即


それから二人、野宿の場所まで戻ってきて、火の前で腰かけていた。


エリアスに寄り添う様に、私はただそばにいることしか出来なかった……


エリアスは、私の頭を自分の肩に寄せて、時々私の頭を撫でながら、ただ何も言わずに暫く火を見詰めていた……



「アシュレイは……」


「……え?」


「俺が怖くなかったか……?」


「……怖いとか……そう言うんじゃなくて……」


「うん……」


「エリアスが……どっか行っちゃうって……そう感じた方が怖かった……」


「そっか……」


「でも……私と旅をすると……エリアスに嫌な事ばかり起こる……」


「……そんなんじゃねぇ……全部俺の事だ……俺が何も知らなかっただけだ……」


「けど……」


「アシュレイが気にする事じゃねぇ……今までのも全部……俺の事なんだ……」


「エリアス……」



私はエリアスを抱き締める……



「エリアスが悲しい顔するの……もう見たくない……」


「アシュレイ……」



勝手に涙が溢れてきた……


私より、エリアスの方が泣きたい筈なのに……


人の事ではすぐに涙を流すのに、なんで自分の事じゃ泣かないの……?!



「俺は大丈夫だから……ありがとな……」


また申し訳なさそうに笑う……


その笑顔を見ると、切なくて胸が苦しくなる……


また涙が溢れてくる……


その涙を、エリアスが指で拭う。


そして、私の涙に口づけをした。



「エリアス……?」



それから私の頭をポンポンってして、立ち上がった。



「さっきのエゾヒツジ、ちゃんと解体しねぇとな。」


「……あ、手伝う……」



それから二人で解体作業をして、エリアスのリクエストで、エゾヒツジのクリームスープを作った。


いつもの様に、エリアスは美味しいって褒めてくれていた。


いつも通りに振る舞うエリアスの姿が、余計に悲しくなってくる……


寝る時間になって、自分のテントに向かうエリアスの肘を掴んで引き止める……



「アシュレイ?」


「今日は……一緒に寝る……」


「何言ってんだ?!俺さっき、アシュレイに酷ぇ事したばっかだぞ?!」


「でも……エリアスが……どこかへ行っちゃう様な気がして……」


「どこにも行かねぇよ……心配すんな?」


「でも……」


「俺と一緒に寝ちまったら、今度こそ何するか分かんねぇぞ?それでも良いのか?」


「それは……」


「俺は大丈夫だから……」


「でもやっぱり……今日はエリアスを一人にしたくない……」


「…………」



エリアスがテントに入って行く後を追って、私もエリアスのテントに入って行った。


寝る準備をして、エリアスが仰向けに横になった。

その横に私もそっと寝転んだ。


エリアスの肘を掴む。


肘を掴まれたエリアスが私の方を見る。


ため息が聞こえて、エリアスが私の方へ体を向けた。


私の手を握って



「大丈夫だ……何もしねぇよ……」



そう言って私の頬を触りながら微笑んだ。



「うん……エリアス……おやすみ……」



私もエリアスの手を握りながら、眠りに落ちて行った……







朝、目覚めると、エリアスはいなかった。


飛び起きてテントから出ると、エリアスが火の前に座っていた。



「あ、起きたか、アシュレイ。早えぇな。」


「エリアス、おはよう……エリアスの方が早かった。」


「そうだな。」



二人でふふふって笑う。



エリアスの横に座ると、エリアスがお茶を差し出した。


それを口にして、暫く二人でお茶を飲みながら、山の合間から昇る朝日を眺めていた。



「エリアス……」


「ん?」


「エリアスは王都に帰る?私はこのままオルギアンまで行くけど……」


「何でだ?俺もアシュレイと一緒に行くぜ?」


「でも、今回のは私の依頼だし……」


「んな事は最初から分かってる事だろ?」


「うん……でも……」


「何だよ。昨日はどこにも行くなって言って、俺に引っ付いてた癖によ。」


「だからそれはっ……!……勝手にどこかに行っちゃう気がしたから……」


「どこにも行かねぇよ。前にも言ったろ?アシュレイが俺を必要としなくなるまで、俺はそばに居続けるって。約束するって。」


「……うん……」


「俺が必要ねぇんなら……」


「そんな事はないっ!そんなんじゃないっ!」


「あ、あぁ、うん、分かった……」


「でも……私と一緒だと……エリアスはいつも悲しい思いをする……」


「だからそれはアシュレイに関係ねぇって。もう大丈夫だから。マジで気にすんな!」


「……うん……分かった……」


「分かったんなら良い!じゃあ、今日は俺が朝飯を作る!」


「あ、手伝う!」


「一緒に作るか?」


「うん!」



それからエリアスと二人で朝食を作った。



エリアスは強い人だ。



力が強いとかAランクだからとか、それだけじゃなくて、あんな酷い過去を知っても、父親であろう人からあんな酷い事を言われても、エリアスはしっかり立ち直って行く……



そんなエリアスを、私は凄く尊敬する。



彼の力になってあげたい……



私は心からそう思ったんだ……







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