第192話 黒の石


「アシュレイ……じゃあ、どうするんだ?黒の石は?」


「黒の石……実は、もうある場所が分かってるんだ。」


「え?!そうなのか?!白の石と一緒で、どこにあるか分からないって言ってなったか?」


「そうなんだけど……」


「どこにあるんだよ?」


「黒の石は……テネブレだ。」


「は?何?」


「テネブレ自身がそうだ。」


「闇の精霊のか?!」


「そうだ。」


「え?それ、どう言う事なんだ?」


「実際、私もどう言う事かは分からないんだけど、テネブレと重なった時に、短剣に石を嵌めた感覚とそっくりで、それで分かったんだ。」


「そうなのか……聞いても、どう言う事か分かんねぇけど……そうか……」


「テネブレを呼んで確認する事も出来るけど……」


「気になるところではあるけど、アイツ怖ぇからなぁー。」


「フフ……エリアス、テネブレが怖いんだ?」


「いや、俺、アイツに殺されかけてんだぜ?!」


「あぁ、そう言えばそうか……闇の力に弱いって言ってたし……フフ……そうか……」


「笑ってんなよ!……まぁ、気にせずに呼んで聞いても良いけどよぉ。」


「そうだな……この石がどう言う物なのか、知りたいってのもあるし……呼んでも良い?」


「……構わねぇよ?」


「テネブレ!」


「早えぇな!」



黒の光の粒が集まってきて、一つの闇を作り出すと、それはテネブレになっていった。



「アシュリー!また会えて嬉しいぞ!」


「テネブレ、聞きたい事がある。」


「何でも聞くが良い!」



短剣と白の石を取り出し、それをテネブレに見せる。



「この短剣に嵌まっている石だけど、この石は何なのか分かるか?」


「おぉ、久しぶりに会ったぞ!全て揃ったのは何年ぶりなのか!」


「会った?」


「セームルグ!」



テネブレがそう言うと、白の石が耀き出して、それが一人の精霊へと変わった。

その姿は凛々しく、全て見透かしているような瞳を持った、男とも女とも分からない、美しい姿をした精霊だった。



「テネブレ……久しぶりですね。」


「セームルグ!久しいな!またこうして会えて嬉しいぞ!」


「なんだっ?!これはどう言うことなんだ?この石は……?」


「この石は、精霊なのです。貴方達を守る為に、私達は姿を変えたのです。」


「それは……どう言うなんだ?!」


「もう何年も前の事なので、貴方達まで伝わらなかったのですね。分かりました。お話ししましょう。」



そう言うと、セームルグは静かに話し出した。

セームルグの声は透き通っていて、とても聞いていて心地良かった。








もう何年も、何十年も、何百年になるかも分からない位の昔



精霊界には多くの精霊達がいた。



その頂点に立つのが、精霊女王ユグドラシル。



彼女は穏やかな精霊で、大樹を司る、自然界全てに影響を及ぼす力を持った精霊だった。



そのユグドラシルが一人の人間の男と恋に落ちた。



精霊界と人間界が交わる歪みに、その人間が迷い込んだ事から、二人は出逢うこととなった。



しかし、人間界に帰りたがる男と離れる事が出来なかったユグドラシルは、精霊界を離れる事を決め、人間界へ行く事にしたのだ。



それを心配した精霊達が、ユグドラシルと共に人間界へ行く事に決めた。



そして精霊達は人間を守る為に、石へと姿を変えていった。







「石は……精霊が姿を変えた物だったのか……そして、銀髪の人達は……精霊と人間の子孫だったんだな……」


「えぇ、そうです。ユグドラシルは、それは美しい銀の髪をした、トネリコの大樹、世界樹を司っていた精霊でした。私達は彼女が大好きだったのです。人間界へ行くと決めたユグドラシルを、一人で行かせたくはなかったのです。」


「それで……石に……?」


「初めは違いました。そのままの姿でユグドラシルと、その子供達を見守っていたのです。しかし人間との子である為、ユグドラシル以外は私達が見えなかったのです。そして、精霊の子であってもその子達を守るには、よっぽど適正がない限り何か媒体がないと、私達は体に入る事が出来なかったのです。」


「ユグドラシルと一緒になった男には見えてたんじゃねぇのか?」


「精霊界では見えても、人間界では見えなかった様です。稀に見える子もいましたが、殆どの子達は、私達のことは分かりません。」


「そうだったんだな……」


「この短剣や、他にも村には宝があったけど、それは……?」


「ユグドラシルが作り出した物です。子供達には、普通の人間にはない力を持って産まれて来ることが多く、それを何とかしようとして作り出した物です。」


「そうだったのか……」


「今、貴方の中には、5人の精霊が宿っています。それは、契約等ではなく、貴方と一つになっているのです。」


「私の中に……5人も……」


「こんなに一つの体に取り入れられた事は、今まで無かった事です。」


「でもセームルグは……私には無理だった……」


「えぇ、……今の貴方では……いえ、貴方以外に適した人がいる様です。」


「我であれば、石にならずともアシュリーと一つになれるぞ!?ハハハハハっ!」


「もしテネブレが石になったら……私の中に、ずっとテネブレが居続けるって事に?」


「そうだ!我はそれでも構わぬ!隅から隅までアシュリーを愛してやろうぞ!」


「……でもそうなると……私は前の様に姿が変わってしまうのだろうか……?」


「テネブレの力を上手く使えれば問題無いとは思いますが……今までテネブレは、誰にも見向きもしなかったので、存分に力を解放したいのでしょう。」


「そうなのか?」


「アシュリー以外は目に入らぬ。我はお前と交われればそれで良いのだ!」

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